第28話 読み書きと剣技の学習曲線
「体幹をふらつかせるな、また体が開いている! そのへんのマッチョなアルマジロだっておまえに一発入れられるぞ!」
「どういう意味だ?!」
大振りの隙をつかれてギンの峰打ちがレンジの脇腹を打った。激痛に気を失いそうになる。吐き気までもよおすが、膝をつくのを必死に堪える。
毎日夕方頃に赤煉瓦棟の横の空き地でギンに厳しく剣の稽古をつけてもらっている。
ギンは疲れ切った頭脳をほぐすために毎日、剣術と体術の型を反復して汗を流した。その習慣は、彼の迫力ある独特の風格と超人的な仕事量を支えているみたいだった。
ギンはいつも頃合いに切りあげて研究に戻る。レンジはそのまま日が落ちるまで一人、稽古を続けることが日課になった。たまに授業が早く終わって遊びにくるゾーイに見てもらうこともあった。チンチラはふざけてすぐに遊びだすから稽古にならなかった。
その日の夕食でギンは「レンジ、読み書きをおぼえる速さが尋常じゃないな」と学習の成果を寸評した。
ギンは本人には特に説明もしないまま、レンジの観察を続けている。読み書きと剣技の学習曲線は天才のそれだった。生まれたての子供が成長していく時のように、人間の生育過程で、その後のどんな時期にも発揮されない速さであらゆる物事を学習してものにしている。転生が本当に起きたのかはわからないにしても、やっぱり普通の子ではない。
「そろそろ講義にも出られるだろ、図書館の入館証も手配しておこう」
他の死んだオーパーツと違って、今この瞬間も世界に影響を及ぼし続けている。実体として像を結んだ生身の体と心。その現象そのものにドラゴンの神秘に迫る鍵がある。
レンジが元いた世界とヌースフィア、もしかしたらもっとたくさんの世界と霊的な交流がなされているのかもしれない。ギンは漠然とそんなことを考えていた。
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