第27話 デート
レンジはその日、ゾーイと一緒に学食にいく約束をして、早い時間からキャンパスをふらふらしていた。待つあいだ、中庭中央にある噴水の縁に腰かけて子供向けの本を読んでいた。
顔をあげると高等部の敷地へ続く石畳の道の遠くから、正午の陽光を受けて光る薄桃色のライオンヘアが揺れているのが見えた。
派手な転校生はすぐに話題になった、しかもアッティラ家にゆかりの女の子。カンナカムイの華麗で煽情的な民族衣装。ミューズの制服も地味ではない。女子生徒達はそれなりにアレンジをして個性を競っている。それでもゾーイは土鳩の群れに迷い込んだ孔雀さながらだった。
昼休みに行き交う生徒達の注目を一身に集めながらゾーイがまっすぐにレンジの方に歩いてくる。すれ違う生徒たち全員がゾーイを振り返った。
レンジはゾーイに手を振った。彼女が手を振って答えると、衣装から豊かな胸の谷間が飛び出した。
衣装道楽のゾーイは、アクセサリーや髪飾りが毎日変わっている。レンジの横に腰を下ろして微笑んだ。真横に座っているのに、話しかけるときに律儀にレンジの方を向いてしっかりと目を見つめる。
ゾーイのそういうひとつひとつの丁寧な仕草が、煌びやかな衣装と、工芸品のような鼻筋と、目も口も大きい派手な顔立ちとバランスして特有の雰囲気を醸しだす。それは誰もが振り返る。
サバンナではほんのり日焼けしていたのに、ゾーイの肌は最近すっかり元々の真っ白に戻っている。赤い虹彩の目がさらに際立ってきた。
ゾーイは子猫のように人の目を遠慮なく無防備にじっと覗き込んでくる。目を合わせるだけで、こんなにも強く印象に残る。現世の人の顔はぼんやりとしか思い出せない、目を見ていなかったからだ。
ゾーイはいつもレンジを興味深く観察している。この人は不思議。最近は本ばっかり読んでるけど、旅の間もいつも琥珀の目をいっぱいに開いて景色を眺めていた。いまもそう、まるで昨日生まれたヒョウの子供みたいに好奇心いっぱいでわたしを見ている、そんなにめずらしい?
レンジの視線を意識したゾーイがだんだんと動揺してくる。大きな目がキョロキョロ、イヤリングを触ってみたり、腕輪を鳴らしてみたり、胸に手を当ててさすって慌てておろしたり、目に見えて動揺しだす。顔が真っ赤になって、いつもは気にしない胸の谷間や太ももの深いスリットをさりげなさを装って隠そうとする。
「あ、ごめん、無遠慮だった」
「見すぎ」
「綺麗……」
自然にもれた感想に、レンジ自信も顔を赤くする。
ゾーイの顔から胸元、さらには太ももまで赤くなって蒸気でも吹きあげそうな様子だった。
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