第5章 アレクサンドリア

第24話 ミューズ学院大学

 アレクサンドリアはモガディシュの優美とはまた違う風情で建てられた街に見える。より重厚さを増して権威の風格が控えめながらも主張されている。建物自体もその配列も対称的であることを律儀に守り抜いている感がある。装飾は少なめだが、なかなか大仰に見えて簡素な印象ではない。心地よい散漫と繊細を抱えこんでいる南のカンナビ地方とはまた別の美意識であることがわかる。同じ港町なのにモガディシュよりも真面目そうな印象だった。


 関所で入国の手続きをしたり荷物の手配をしたりで、目的のミューズ大学構内に着いたのは翌日になった。市街地の中心に広大な敷地を有している学術機関を中心にして、その周りを囲むように街が広がっていた。北は海にいたる。街のどこからでも建設途上だというファロス灯台が見えた。


 キャンパスの白い大理石と青いタイルで彩られた壮麗な建物群に、レンジもチンチラもゾーイも圧倒されて言葉もでなかった。どんな文明なんだこれは。噴水、金持ちテリアのように端正に刈り込まれた樹木、鳥かなにかの抽象レリーフが彫られた灯籠が道の両側に整然と置かれている。書物を抱えて制服を着た生徒たちが楽しそうに行き来していた。一般の人も多く混ざっている様子で、歩いているだけで気持ちよさそうだった。街と大学が溶け合っていて、とても洗練された印象を受ける。



 ギンはザンジバルの被災地でかき集めたオーパーツの分類と研究をこの大学機関で行うという。レンジはギンの助手として、ゾーイはボブマーリー族長との約束通り正規の学校教育を受けることになった。


 新しい生活を始めるにあたって諸々の便宜を図るために、ギンは二人にアッティラの性を与えた。レンジ・クロバネ・アッティラ。ゾーイ・ンゴロンゴロ・アッティラ。養子ということになるのか。


 チンチラは引き続きギン博士の助手兼アッティラ家の衛士としての仕事を続ける。彼女の護衛としての仕事はなんだかんだで完璧に見えた。助手としての仕事をしているところは一度も見たことはないが。


 ギンは数多ある校舎のうちの、尖った尖塔をもつ赤煉瓦造りで三階建ての瀟洒な一棟を丸ごと占有した。その隣に併設された教授や大学の従業員用の宿舎に住むことになった。チンチラとレンジも同じ宿舎に部屋をもらって、ゾーイは寮に住むことになった。ミューズと言われるこの学術機関には世界中から学生が集まる。ゾーイはおそらく現世で高等部にあたるクラスに編入することになる。


 レンジはあてがわれた簡素な部屋に土偶様を飾って新生活に備えた。ボロボロになった現世の服に替えて、ギンと同じスタイルの衣装をそろえた。腰に刀を差すと我ながら様になっているように見えなくもない。


 細かいことはいいとして、レンジはまず優先して読み書きを覚えようと思う。いろんなことはそれからだ。読み書きを覚えたら図書館を自由に使えるようにしてやる、と博士が約束してくれた。アレクサンドリアには世界一と称される巨大図書館がある。とにかくこのヌースフィアという世界の知識を仕入れないことには始まらない。


 それにしてもギン博士の力って謎だよな、と思いながら久しぶりのベッドで眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る