第15話 ショコラ・イナムラ
ギンも荷物の手配に徹夜だった。隊商を装って陸路アレクサンドリアへ向かう。船便は一隻、陸路の荷物は三便に分けるしかなかった。都市が封鎖される前に出発しなければならない。ショコラのダルエスサラーム行きの旅券はギンを経由してすぐに取得することができた。
最初の便で運べるものは少しでも、という意図のもと、駱駝十頭と大型の馬車二台を中心に十人余の人足兼護衛と馬の隊列を組んだ。
昼過ぎにモガディシュ西の門を抜けて、街道に出る。レンジは初めて馬に乗った。たどたどしい乗り方をチンチラにからかわれている。
背の低い草が揺れる、広大なサバンナを進んでいく。西日がオレンジからさらに赤く変わる頃、南のダルエスサラーム方面の街道と北のアルーシャ、さらに遥か先のアレクサンドリア方面へいたる街道の分かれ道に差し掛かる。ショコラとはここでお別れになる。
「ショコラぁ! 気をつけてね、またいつか会おうねぇ! 大好きぃ!」
馬車の後ろに腰掛けているチンチラが大きく手を振る。
「あたしもだよ! チンチラ!」
レンジは、ラクダの轡をとってキャラバンを見送るショコラに近づいて馬を下りた。
「ショコラ、ありがとう」
「ん、なにもしてないよ」
「会えてよかった、思うところあったから」
キャラバンの先頭近くにいるギンが、馬上から振り返って手を振っている。
ショコラは手を振って答えてからレンジに向き直る。
「たまに不安な顔、大丈夫、君はここに存在してるよ」
ショコラには身の上を話していないのに、この人はきっといろいろ見えるんだ。少なくとも俺が見えないたくさんの諸々が見えるんだと思う。
ギンやチンチラもそうだけど、
「俺はどうして、あなたと会えたのかな?」
ふと口をついてでた言葉に、レンジは自分でも不思議な質問をしたと思う。
「レンジ、世界に偶然はあり得ない。信じられないことは次から次に起こる、それがどれほど理不尽で、不条理で、奇跡のようであっても、わたしたちの小さな考えを超えたところでは、しっかりと辻褄があっている、ほんとにね」
ショコラはレンジのほっぺたをぽんぽんと叩く。
「恐れなくていいよ。でも、旅は長い、ぬかるんじゃないよ」
レンジは素直にうなずいた。オレンジの逆光に縁取られた優しい笑顔とウインクを残して、ショコラは手を振って南へ向かっていった。
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