第2話 自分はザコメスだと言われているみたいな(アリス視点)

 私はアリス・ランカスター。帝国でも有数の上位貴族。ランカスター家の長女だ。


「いいかい、アリス。君は強くあるんだ。同年代の誰にも負けないような強い力を手に入れるんだ」


「そうよ、私と貴方の娘だもの。アリスは強く優れた人間になるのよ」


「はい、お父様、お母様」


 幼少期より、私は強く優秀な魔法使いとなるべく鍛錬を続けました。


 当然のことながら、同年代では常に成績トップ、私は魔法学園の中でも一握りの天才しか入ることができない特進科に入り、その中の首席に選ばれました。


 特進科の一年だけではなく、腕に覚えがある二年、三年生に決闘を挑まれることもありましたが、全員蹴散らしてあげました。私と戦える生徒なんて上級生であろうともごく僅か。そして私はそんな先輩たちを心より尊敬していました。


「この学園で一番強い魔法使いは誰ですか?」


 それは些細な疑問。名実共に言えば三年生で生徒会長を務める先輩が最強なのだろう。答えは分かりきっていても、生徒会長がどんな答えをするのか気になる。


 そんな風に思って発した質問。


 しかし、生徒会長の答えは私の想像を裏切るものでした。


「普通科二年に私よりも遥かに強く、私よりも生徒会長になるのに相応しい生徒がいます」


「普通科……ですか? ですがあそこは」


「ええ。学園の区分では一番劣っている学科でしょう。しかし、彼だけは違う。今も思い出すだけで身体の奥から熱くなるような……彼こそ未来の夫……是非我が家に迎え入れたい……。失礼、今の発言は忘れてください」


 生徒会長がそこまで褒める人物。そんな人物がいるとは思ってもいなかった。


 生徒会長の言葉が信じられなかった私は、他の先輩達にも同じことを聞きました。けれど皆口を揃えて言うことは同じ……。


「彼のことですか……? ええ知っていますよ。彼は私の運命です。私の全てをぐちゃぐちゃに壊して、私が取るに足らないザコメスと思い知らされたのは……ふふっ、ここから先は少し刺激が強そうなのでやめましょうか」


「彼は素晴らしい生徒なのです。私に色んな大切なことを教わりました。絶対的強者、暴君とは彼のことを言うのだと……。ああ……もう一度私の全てを壊して欲しいのです」


 恍惚とした表情で彼のことを持ち上げる先輩たち。私にはとても信じられませんでした。


 話を聞いた先輩達は誰一人として凡才ではない。むしろ天才しかいない特進科の中でも突出して優秀な人たち。天才の中の天才。歴史を変えるに相応しい人。


 そんな人達が、こぞって凡才の集まりである普通科の一生徒のことを褒めるのです。私には信じられませんでした。


 故にその実力を試すために彼に果たし状を送りました。


 普通科二年、アルトセンパイに。


 ちなみにこの果たし状という戦法は先の話を聞いた先輩たちに聞きました。


 彼は挑まれた決闘を絶対に断らない。故に最強なのだと。


 決闘の日、約束通り彼は来ました。一目見ただけで分かります。彼は取るに足らない凡夫だと。


 流れる魔力は平均かそれ以下。平民にしては多い方と褒めておきましょう。属性は宿らず、平民故に相伝の魔法もない……私の予想はどうやら正しかったようです。


 けど、一つだけ疑問が残るとしたら、それはセンパイが私の性能を正確に見抜けたこと。そのカラクリがわからなかったことです。


 魔法使いは性能が乖離しているほど、その人の実力を正確に測ることは難しくなります。私とセンパイの性能差は誰からみても明らか。なのに、センパイは私の性能を完璧に見抜いている……これだけが私にとって不可解なことでした。


 ですが、関係ありません。全部私の魔法でイチコロ。センパイでは受け切れないほどの大火力で押し切ってしまえば、いい目を持っているかどうかなんて関係ないのです。


「上級魔法……灼熱烈火弾プロミネンスフレアボール!!」


 私の手持ちの中でも上位に入る魔法! 今までこれをマトモに受けられた人はそうそういません!


 勝った……なんならやりすぎたかなという感触。


 その感触は一秒後に、私の予想していなかったものとなって帰ってきました。


「ケホッケホッ! 煙たっ!! ああでも、うん、いい魔法だと思うよ。流石は特進科。普通科の僕らとは比べ物にならない魔法だ」


「う……そ、む、無傷なんて……そんな。わ、私の魔法をセンパイが受け切れるはずが……」


 煙の中から出てきたのは無傷のセンパイ。あり得ない……センパイの性能じゃ、私の魔法を受け切れるはずがないのに。ましてや無傷だなんて……そんなの嘘だ。


 全身がガクガクと震える。お、抑えなきゃいけないのに震えが止まらない。自分では歯が立たない……自分はザコメスだと言われているみたいな恐怖。


「ど、どうしてですかセンパイ……。な、なんで私の魔法を喰らって……こんな、こんな無傷で!」


「一言で言えば君の魔法は当たっていない。……それで、えっと、これで満足したかな?」


「こ、こんなの……認めません!! 私の魔法はまだまだこれからです!!」


 平民にランカスター家相伝の魔法を使うわけにはいかない。貴族としてのプライドがあるからだ。


 だから私はそれ以外の魔法、その全てをぶつけた。けれど……。


 数百という神がかった精度で放たれた魔法が、センパイを傷つけることはついぞなかった。

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