魔法学園のお姫様をわからせたら、義妹になった件……マジで?

路紬

第1話 センパイなんて私の魔法でイチコロなんですから!

『果たし状

 魔法学園高等部普通科二年C組アルト殿。

 ◯/◯の放課後、第三訓練場にて待ちます。逃げた場合、どこまでも追いかけます。

 魔法学園高等部特進科一年A組アリス・ランカスターより』


 ある日のことだ。僕の下駄箱にこんなものが突っ込まれていたのは。


 人生で初めてのラブレターかと思いきや、果たし状なんてとんでもないものを貰ってしまった。それも魔法学園の後輩で、一年生の首席生徒から。


 どこまでも追いかけるという物騒な一文があったため、僕は放課後、第三訓練場に来た。


「来てくれましたねアルトセンパイ。助言通り、果たし状を送り付ければ来るという話はホントでしたか」


 ほぼ無人の訓練場。その中央に一人の女子生徒が立っていた。


「まああんな物騒なことを書かれてたらね……。それで? 特進科一年のお姫様が僕に何のようかな?」


「お姫様だなんてそんな……」


 アリス・ランカスター。平均よりやや小さい身体、長い金髪をツインテールに結んでおり、大きな紅玉のような綺麗な赤い瞳が目を惹く。


 俗に言う美少女だ。ニコリと笑えばたちまち人は活気付くだろう。天真爛漫な妹、そんなイメージをさせるような生徒だ。


 故にだろうか。彼女は特進科一年のお姫様とよく呼ばれている。この名前は他の生徒に興味が薄い僕でも知っている名前だ。


「……ハッ! いけませんいけません。言葉巧みに相手のペースを崩す……なるほどこういうことでしたか。策士ですねセンパイ」


 いやそんなつもりは一切ないんだけど。


 それに彼女を見るのは少し目に毒だ。何故ならその子供っぽい背丈から想像もつかないような大きな球体が胸に二つくっついてる。


 彼女の前屈みになったり話すたびに身体を動かす癖は、それが大きく揺れて集中力を掻き乱される。精神統一精神統一……密だ。


「センパイを呼び出した理由はただ一つ。センパイに決闘を挑みます」


「…………決闘」


 可愛らしい雰囲気はどこに行ったのか。凛とした口調と動きで、ピシッと僕のことを強く指差した。


「魔法学園は誰が誰に決闘を挑むのも自由。受けるのも自由という校風なのはセンパイも、ご存知ですよね?」


「……うん。。それで決闘って言うんだ。君は何を賭ける?」


 魔法学園は生徒同士の決闘を強く推奨している。欲しいものがあれば奪えではないけど、決闘で勝ち、己の有用性を示せとはよく言われているかな。


 当然、決闘というからには賭けるものがなくてはならない。挑んだ側が提示し、挑まれる側がそれに了承した際、決闘は正式に行なわれる。


「私がこの決闘に賭けるのはこの勲章です!」


 アリスが胸につけていた勲章を外し、それを突き出す。獅子と鷹、飛竜が彫られた真紅の勲章。それは各学年、各学科の最も優秀な生徒一人に贈られる勲章だ。


「ただ、センパイは何も賭けなくていいです。この決闘は私が一方的に挑むもの。私のわがままで押し通すものですから」


「何も賭けなくていい? そんなことを言ったのは君で二人目だ。……本当に何も賭けなくていいのかい?」


 念押しのためにアリスへそう聞く。


 これはアリスのためだ。決闘とは自分が欲しいもののために対等なものを賭けあって、そのために勝利するというもの。


 アリスが賭けているのはもう二度と手に入らないかもしれない貴重な勲章。これを持っていれば卒業後の進路には困らないだろう。この勲章だけで国内だけじゃなく、国際的な組織にも属する権利を得る。


 それだけじゃなく、それを持っていることで他の生徒から羨望を向けられ、多くの生徒から慕われるだろう。


 何故ならそれは魔法学園、全生徒一万人の中で一握りの生徒にしか渡されない。そんな貴重な物を賭けて、僕には何も賭けなくて良いという。これは実に不公平だ。


「……はい。正直一目見て分かりました。どれだけ先輩方が貴方のことを持ち上げようとも、所詮は普通科の生徒だと」


 慢心とも呼べるような強い自信に溢れた言葉。


 魔法学園には様々な学科が存在するが、彼女が所属する特進科はその頂点に君臨する。


 エリート中のエリート。魔法能力も優れ、教養がある貴族しか入ることができない学科。それが特進科だ。


 特進科を卒業した生徒はみな、国を動かすような重要な組織に属する。


 対して僕が所属する普通科は試験さえ合格してしまえば家柄問わず入学できる学科だ。受けられる授業はオーソドックスなものばかりで、他の学科のように突出した授業やより高水準な授業は行われない。


 他の学科から見下されるような学科。それが普通科だ。


「ざっと魔力を見てみましたが、大した魔力は感じず、平民にしては少し多いかなという程度。属性も宿すことなく、当然ながら家が持つような秘伝の魔法があるわけでもない……私から言わせてみればセンパイは凡です凡」


「そう言う君はなるほど、優れた魔力だ。常人の数倍……いや数十倍かな。サラブレッドとは君のことを言うんだろうね」


「へえ。私の能力を見抜く程度の目はあるようですねセンパイ」


「まあ、少ない自慢だけど目はいいんだ」


 魔法使いは相手をみただけで相手の能力を測ることができる。


 アリス・ランカスター。ランカスターは確か帝国でも上位の貴族家系だ。


 貴族であればあるほど魔法の才能は優れている。それは貴族の間で魔法の才能が優れた人間同士を掛け合わせているからだ。


 優秀な跡継ぎを作るために、貴族たちは結婚相手を見定める。アリス・ランカスターはそういった親世代の努力の結晶だろう。


 態度が大きいのも認める。ピカイチの才能だ。特進科二年、三年にも負けず劣らずの原石だろう。


「センパイではどう足掻いても私には勝てません。ふふっ、逃げてもいいんですよセンパイ。今まで私と戦ってきた魔法使いは私の魔法でイチコロ……でしたから」


「逃げないよ。逃げる理由がない。それにあんな果し状を書くんだ。どうせ逃げたとしても、君は逃してくれないんだろう?」


「せーかいですっ! 私の攻めにセンパイはどれくらい耐えられるか……楽しみです」


 ニヤリと小悪魔の笑みを浮かべるアリス。


 あーー、こういうのって多分すげえモテるんだろうな。うん、今僕めっちゃ興奮してるもん。やべえ、めっちゃ可愛い。


「じゃあ早くやろう。お互いに時間がもったいないだろ?」


「ふふっいいですよ! 先ほども言いましたがセンパイなんて私の魔法でイチコロなんですからっ!」


 アリスが右手を大きく挙げて魔法の詠唱を開始する。アリスの頭上にできる巨大な火球。


 しかし魔法のボリュームよりも胸のボリュームの方がやばい。アリスが派手に動くせいか動く動く上下に。ボインボインと。

 男の子としては目が釘付けになってもおかしくない……いやこれが正常な反応のはずだ。


「上級魔法……灼熱烈火弾プロミネンスフレアボール!!」


「…………あ」


 当然、そんなものに目線も意識も釘付けになっていた僕は、アリスの放つ魔法に直撃するのであった。

 


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