第73話 ファーストコンタクト

 魔人化して泉に飛び込み、近くに居るであろう魔物達に対して呼びかけてみる。


「急な訪問を許して欲しい。旅の途中で少しの休憩で立ち寄っただけで、君たちに危害を加えるつもりはないんだ。明日の朝には去って行くから、それまで泉で水浴びをすることを認めて欲しい」


 すぐに返事がくることはなく、少し間をおいてから姿を現すことはなかったけど、強襲されることはなく返事がきた。


「仲間なのだから、わざわざ呼びかける必要はないだろう」

「僕は少し特殊な人間で、魔人化というスキルで魔物の言葉を話せるから、君たちに話しかけているんだよ」

「面白い奴なんだな。それなら魚を無駄に取らないことと、決して泉を汚さないと誓うのならば、明日の朝までは手出しはしない」

「その2つの約束を守るよ。ありがとう」


 想像以上に話の通じる相手で、明日の朝までの安全を約束してくれた。俺は感謝を伝えたので泉から出ようとすると、全く別の存在が語りかけてきた。


「少しだけ話をさせてもらってもいいかな?」


 声色だけで判断するなら若い女性のものだが、口調は無邪気な少女のようだった。泉の魔物とは関係なさそうだが、魔物の言葉を話す相手なので無碍にしない方がいいと思った。


「僕は構わないよ」

「ありがとう。私は人間から魔王と呼ばれる者よ。あなたに興味が湧いたから声をかけたの」

「魔王!? 君が魔王セレンスティアなの?」

「どうして……、私の名前を知っているの?」

「それは……」


 魔王と名乗った女性は、俺が名前を知っていることに驚いたようなので、俺は鬼の棲家にあった精神の間でのできごとを、隠すことなく全てを説明した。


「そう、鬼の棲家でそんなことがあったんだ」

「うん、さらに鬼の試練にも挑んで絆の太刀を手に入れたら、鬼の棲家はダンジョンの役目を果たしたかのように消滅したんだ」

「あなたは絆の太刀を手にしてるの?」

「そうだよ。女神セレスティア様からロハという魔人に授けられた太刀みたいだね」

「セレスティア様……、ロハ……、あなたはロハの太刀に認められたのね。」


 懐かしそうに2つの名を口にした魔王からは、人類滅亡を目指す非道な感じは全くなかった。ロハは判るけど、女神セレスティア様を懐かしそうに口にした理由を聞いてみた。


「君は女神セレスティア様を知っているの?」

「うん、今は知っていることだけ教えておくね。また話す機会があればその時にね。さようなら」

「えっ、さようなら」


 次の機会なんてあるのかと思ったけど、魔王セレンスティアとのファーストコンタクトはこんな感じで終わった。この運命の出会いも〚幸運〛によるものだと知るのは、まだ先のことになるだった。


 そして、数年の月日を経て王都に着くと、人生最大の分岐点を迎えることになる。


§小桃の一言§

 第五章 ウォード覚醒編は終了です。

 次章で最終章となりますが、私の体調が万全ではないので暫く休載させて頂きます。

 再開する時は近況ノートで報告させて頂きます。

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