第6話 アスティーカ帝国との出会いと、新たな力

西暦2025(令和7)年10月19日 アスティーカ帝国南東部海域 フォーリダ市沖合


 この日、海上自衛隊第1護衛隊群は、カリビア王国から西に1000キロメートルの地点にある大陸にいた。その大陸には『アスティーカ帝国』なる国家勢力があり、カリビア王国と親しい間柄にある事が、王国軍の捕虜から明らかとなったからである。


 日本政府としては、カリビアでの二の轍は避けたいところである。そこでヘリコプター搭載護衛艦を含んだ護衛艦隊を外交官の護衛として派遣し、砲艦外交によって接する事としたのである。そして実際、この対応は有効であった。


 数機のF-35B〈ライトニングⅡ〉戦闘機を上空に展開させ、数隻のイージス艦を侍らせて迫る空母型護衛艦は、アスティーカ側に大きな驚きと動揺をもたらした。何故なら彼らの軍事的な常識では、劣った文明と貧弱な軍事力しかない東の国が、自国に迫る技術力と軍事力を有していたからだ。


「馬鹿な…ジェット機を搭載した空母を持っているだと…」


 艦隊指揮官の一人は、震える声で呟き、新たなる脅威に動揺を隠せない。対して日本側は、あくまでも穏便な交渉を求めた。在日米軍がグアムの救援に掛かりっきりになっている中、政府は自前の軍事力を背景とした外交姿勢を見せねばならなかった。


 果たして、交渉は順調に捗った。確かに帝国の軍事力は強大だったが、それ故にその地域の大国として如何様に振舞うべきかを理解していた。例え相手が東の辺境から現れた新興国だろうと、偏見や既存の価値観に惑わされる事無く、常に冷静に相手を分析し、然るべき応対をする事が国家間の付き合いだと心掛けていた。


 そして帝国は、国交樹立と不可侵条約に信頼性を持たせるために、カリビア王国を日本の支配下に置く事を認めた。アスティーカ帝国本土とカリビア王国の距離は1000キロメートルあり、距離の防壁として用いるには十分たるものがある。その間には幾つもの島嶼地域が帝国傘下の属国として存在するが、カリビア王国に警戒をしていた甲斐もあって、相応の軍事力が配置されていた。よって万が一日本と戦争になったとしても、十分に対応出来ると考えたのである。


 斯くして、日本はアスティーカ帝国と無事に国交を結び、ようやく平和を取り戻したのである。だが問題の一つが解決したに過ぎない事を政府は理解していた。


・・・


 戦後、在日米軍がグアムと北マリアナ諸島の確実な防衛のためにその場を離れた後、自衛隊は大きな変革を余儀なくされる事となった。


 もし現状の日本では対抗できぬ存在が現れた時には、在日米軍は大使館を介して協力を申し出てくるだろうが、今の周辺国は核の傘に頼らずとも十分な軍事力しか存在しなかった。そして100以上の有人島と豊富な地下資源を抱えるカリビア諸島を手に入れた今、国家として生き延びるための権益保護のために防衛力を増強する事は避けられぬ事であった。


・陸上自衛隊は新たに、カリビア諸島に『カリビア駐留部隊』を設置し、5個師団及び方面隊直轄の5個警備隊を配置する。

・海上自衛隊は新たに3個護衛隊群と3個地方護衛隊を編成し、増加した領海及び島嶼地域の警備を強化する。さらに重武装化した哨戒艦を12隻建造・配備する。

・航空宇宙自衛隊は、新たに1個航空団を編制し、カリビア諸島方面に配備する。なお戦力を即座に増やすべく、民間機の転用及び安価に製造可能な航空機の開発・生産も開始する。


 11月初めに川田総理が記者会見の場にて発したこの言葉は、多くの人々を驚嘆たらしめるものであったが、信頼できる国が少ないこの世界において、至極当然の手法であったと言えよう。


 その後、日本は台湾及びロシア連邦サハリン州、グアム及び北マリアナのアメリカ合衆国、そして事実上の保護国たるカリビア王国の五つの国・地域で『東洋国家共同体ENC』の結成を宣言。食料不足に頭を悩ませつつも、無事に2026(令和8)年、この世界における初日の出を迎える事が出来たのである。

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