第4話 ハビニア攻防戦

西暦2025(令和7)年9月28日 カリビア王国首都ハビニア


「突撃にぃ、前へ!」


 大隊長の号令一過、ハーケイ装甲車を先頭に立てて、第一空挺団の面々は市街地へと足を踏み入れていく。その数は現時点で1200人に満たないが、建築物に囲まれた空間での近距離戦闘が主となる市街地戦では、威力のある分取り回しが悪い大口径火砲や、部隊としての行動を逆に阻害してしまう要因となる大勢の兵力よりも、近接戦闘において高い技量を以て相手を制する、少数精鋭の戦闘部隊と彼らに適した銃火器の方が有利であった。


「おのれ、航空機を用いて強襲を仕掛けてくるとは…何という大胆な行動であるか」


 襲撃に対して、王国軍の首都防衛部隊たる近衛騎兵連隊は、動揺を隠せない。だがその指揮官たるガバラ准将は余裕で迎撃出来ると考えていた。確かに近郊の基地は破壊されたとはいえ、第1歩兵師団の駐屯地のみが破壊されたのであり、王城の付近に位置する近衛騎兵連隊の駐屯地は無事であった。


「相手は騎馬で以て応対してくると侮るだろうが、それこそ命取りよ。不埒な侵入者共を、精鋭の装備で以て全て迎え撃つのだ!」


 彼の言う通り、装備も鋼鉄の騎馬たる装輪装甲車200両に、火力支援を担う軽戦車30両と、騎兵連隊の機甲戦力は充実していた。これらは地上の兵営スペースの確保や爆撃に対する対策として地下駐車場に停められており、市内の限られたスペースに千人規模の戦力を配置する事に成功していた。


 はたせるかな、少数精鋭をモットーとする第一空挺団は、その少ない戦力で以て、爆撃を免れた機甲部隊と真正面から対峙する事を余儀なくされた。航空自衛隊は確かに、敵陸軍の基地を確実に破壊したものの、まさか市街地内部に数百両もの装甲車両を格納できる駐車場を持っていようとは想定していなかったのだ。


「空自の間抜けめ!」


 隊員の一人は味方を罵ったが、それで好転する筈もなく、陣地破壊用の84ミリ無反動砲で対処を開始する。47ミリカノン砲を持つ敵の軽戦車は、ハーケイに対して致命傷を負わせる事に成功したものの、直後に背後より飛来してきた84ミリ榴弾が直撃。成形炸薬HEATの生み出す炎の刃が鋼鉄の装甲を食い破り、車内の乗員をも呑み込んでいく。


「敵戦車沈黙!」


「まだ数はいるぞ!別の道路から回り込んで攻め込め!」


 空挺降下によって投下された車両は、ハーケイが12両のみであり、隊員の大半は徒歩での移動を余儀なくされる。それでも長年の訓練で鍛え抜かれた肉体は60キロもの荷物を身に纏いながらの迅速な展開を可能にしており、急いで市内の道路を駆け抜け、近衛騎兵連隊に複数方向からの攻撃を仕掛ける。


 その1時間後、第一空挺団の下に増援が現れる。それは第12旅団のヘリボーン部隊であり、10機程度の〈UH-2〉汎用ヘリコプターと2機のCH-47JA〈チヌーク〉輸送ヘリコプター、そして2機のMV-22〈オスプレイ〉輸送機は、1個普通科中隊と2門の120ミリ重迫撃砲を載せて現れる。着陸するや否や、2個普通科小隊は120ミリ重迫撃砲の支援砲撃を背に、市街地へと走って向かう。一方で〈UH-2〉の編隊は複数の小編隊に分散し、上空からスタブウィングに取りつけた対戦車ミサイルやドアガンで支援攻撃を行う。


 時間が経つごとに、戦況は刻一刻と変化を迎える。航空自衛隊が制空権を握る中、〈C-2〉輸送機は空中投下パレットに載せたハーケイ装甲車を投下していき、〈オスプレイ〉はその快速を以て弾薬を迅速に運び込んでいく。この頃には近衛騎兵連隊も保有していた装甲車両の半数が対戦車ミサイルと無反動砲の餌食となっており、そして〈UH-2〉の編隊は市街地中央の王城に展開。隊員達はファストロープによる降下で殴り込みをかけていた。


 着陸と同時に四人の隊員は方陣を敷き、真正面に立ちはだかる敵兵に向けて発砲。5.56ミリ銃弾が急所を正確に射抜き、倒れるのを確認する間もなく前進を進める。銃口下部にはすでにグラインダーで研がれた銃剣が備え付けられ、城内の通路という閉所にてその能力を遺憾なく発揮していた。


 王城を警護していた近衛兵は、誤射防止のために敢えて小銃を装備せず、刀剣や槍、せいぜい拳銃で戦いを挑んできていたが、隊員らはより長い距離を以て一方的に敵を撃ち倒し、拳銃の弾切れに業を煮やして、サーベルを抜いて突っ込んできた者に対しては、一気呵成に飛び出して一振りを掛ける。20式小銃の銃身は近距離でサーベルを床へはたき落とすには十分たる長さであり、持ち上げると同時に喉元へ銃剣を突き刺す。そうして防弾チョッキが赤く染まる中、隊員らは王城の一番広い部屋へと辿り着く。


「な、何者だ!」


 煌びやかな装飾を身に纏った初老の男が叫び、同時に十数人の鎧姿の兵士達が槍を向ける。が隊員達は間髪入れずに銃口を向け、発砲。鋼鉄製の弾芯を有する5.56ミリ銃弾は厚さ1ミリ程度のプレートアーマーを容易く貫き、兜のスリットより鮮血を吐き出しながら倒れていく。


「あなたが、この国の国家元首とお見受けする。貴国は我が国に対して不当に武力攻撃を実行した責任がある、大人しく指示に従って下さい。さすればあなたの親族には害を及ぼしません」


 隊員はそう呼びかけ、しかし国王と思しき男は剣を抜いて抵抗を試みる。が、直後に背後に控えていた隊員が狙撃を行い、男はサーベルを落とす。直後に数人が組み伏せ、猿轡を噛ませて連行を開始する。続いて入ってきた隊員らは、官僚達を捕縛していき、広場に降り立った〈UH-2〉へとその身柄を運び込んでいく。


 この光景は近衛騎兵連隊の司令部からもよく見え、指揮官のガバラは愕然とした表情を浮かべる。とその時、目前の広場に1台の装甲車が辿り着き、そこから一人の男が現れる。


「陸上自衛隊第一空挺団団長の須藤陸将補である!あなた達の指導者は私達の手で捕縛された!直ちに降伏して頂きたい!自殺による責任からの逃亡は推奨しない!」


 相手指揮官からの呼びかけに、軍上層部が動揺したのは言うまでもない。が、王城の周囲には見慣れぬ航空機が多数飛び回っており、その言葉を信じるしかなかった。


 斯くして、陸上自衛隊第一空挺団と第12旅団は首都ハビニアを占領。カリビア王国は僅か2か月足らずで国家としての機能を掌握されてしまったのである。

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