第3話 9月攻勢

西暦2025(令和7)年9月12日 カリビア王国東部


「全部隊、前進開始せよ」


 師団長の命令一過、十数両の装甲車両は街道を進み始める。8日の衝突から実に4日が経ち、陸上自衛隊は民間よりチャーターした船舶や輸送機を動員して、第5旅団及び第12旅団を増援として展開。包囲をしてくる5個師団に対して攻勢を仕掛けていた。


 この時陸自側は、機動力を重視して普通科連隊及び戦車連隊を複数の中隊に分離。大隊規模の諸兵科混成部隊に再編しており、薄く、広い面となって敵軍に迫っていた。


 無論、ただ無謀に攻めるのではない。後方の陣地にはすでに特科部隊が配置され、幾十もの155ミリ榴弾砲の砲身を敵に向けていた。そして敵の姿を目視するや否や、敵陣に向けて一斉に砲撃を開始した。


 重砲の驟雨は矢継ぎ早に、包囲を狭める王国軍に降り注ぎ、突撃のために一点に集まっていた歩兵と装甲車両を破壊していく。それを合図として航空自衛隊と陸上自衛隊の諸兵科混成部隊も行動を開始。混乱の極みにある王国軍へ強襲を仕掛けた。


「全車、突撃だ!一に突撃、二に突撃、ひたすら突撃せよ!」


 大隊長の号令がインカムを介してデータリンクに響き渡り、楔の役割を担う10式戦車や16式機動戦闘車が先頭を突き進む。突撃に対して、生き残った戦車が応射を試みるも、三式中戦車に酷似した戦車から放たれた75ミリ砲弾は10式戦車の直角が多用された複合装甲に弾かれ、お返しとばかりに120ミリAPFSDSが発射。戦車は砲塔を食い破られる。同様の光景が各所で繰り広げられ、数で圧倒していた筈の王国軍を不利に陥らせていく。


 戦いは空でも起きていた。二式単座戦闘機〈鍾馗〉に似たレシプロ戦闘機は果敢に防空と対地支援を試みたが、〈F-15J〉と主翼下の空対空ミサイルはそれを見逃さなかった。そうして敵戦闘機を鋼鉄の鷲が狩り取っていく中、〈F-2〉戦闘機は主翼下のハードポイントに227キロ航空爆弾を吊り下げ、敵師団司令部に襲い掛かっていた。


 戦車や装甲車の砲塔上に据え付けられた機銃で応戦してくる中、〈F-2〉は複数の無線通信設備がある施設や、アンテナを空へ伸ばした車両に向けて爆弾を投下。これを破壊していく。制空権を失った衝撃は凄まじく、王国軍は瓦解を始めていた。


 攻勢は2日に渡って続けられた。この中で最も活躍が目立ったのは、平時より諸兵科混成として編制されている即応機動連隊であり、第8師団隷下の第42連隊と、第5旅団の第6連隊は、機動戦術の理想的な戦い方を魅せた。


 機動戦闘車を先頭に立てた2個中隊は、AMV装輪装甲車に120ミリ重迫撃砲を装備した自走迫撃砲の支援射撃の下に敵陣と敵陣の間を突破し、素早い機動を以て後方に展開。対戦車部隊含む1個中隊が遥か後方の特科部隊と連携して挟撃し、敵軍を文字通り蹂躙していく。対する王国軍の戦車や対戦車砲はこれを迎え撃とうとしたが、時速100キロの快速で攻撃を避けながら、精密に砲撃を当ててくる装輪戦車の敵ではなかった。


 最終的に王国陸軍5個師団は瓦解。中には師団司令部が爆撃で破砕されたのを察した旅団が、自衛隊側に対して降伏を表明する始末であった。斯くして9月攻勢に一連する戦闘にて、3万以上の将兵が戦死し、1万近くが降伏。この知らせはカリビア全土に伝わり、自治体レベルで中央政府に離反する場所も現れ始めたのである。


 大規模な戦闘が終わった後も、自衛隊は歩みを止めなかった。自治権を約束してもらうために、食料や資源の上納をしてくる者達からそれらを回収しつつ、各地の都市や軍事基地を占領していく。これに対して王国軍は、残存する全ての部隊に対して徹底抗戦を唱えるも、9万も投じられた大軍が敗れ去った後であるだけに、正直に応える者は多くなかった。


・・・


9月28日 カリビア王国首都ハビニア上空


 カリビア本島の西部にある大都市の上空を、12機の白い巨体が舞う。カリビア王国の首都に向けて迫る〈C-2〉輸送機の編隊は、第一空挺団の総戦力たる3個普通科大隊を載せていた。今回は空自の航空支援もあるとはいえ、市街地での激しい戦闘が予想されるため、12.7ミリ機銃を装備したハーケイ歩兵機動車も空中投下パレットに載せて運び込んでいた。


「降下よーい!」


 空挺団を率いる須藤すどう陸将補が命令を発し、輸送機の後部ランプハッチが開放。そして空自の〈F-2〉戦闘機が、首都近郊の軍事基地に向けて爆撃を行い、有効打を与えられた事を確認するや否や、降下が開始された。


「降下始め!行け、行け、行け!」


 隊員達は床を駆け、空中へ飛び出るや否や、距離を離したところで自動的にパラシュートが展開。先んじて潜入展開していた降下誘導小隊のビーコンに向けて降りていく。そして全ての隊員が降りたのを確認してから、ハーケイがパレットに載せられたまま投下される。パレットは四隅に装備しているパラシュートを開き、ゆっくりと平野に向けて降下していく。


 空自の航空支援を合図とした第一空挺団総戦力の強襲降下。これが今回の戦争における決戦、『ハビニア攻防戦』の始まりであった。

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