第2話 グレナダ侵攻

西暦2025(令和7)年9月3日 カリビア王国


 戦闘から2週間が経ち、政府は外務省を中心とした特命外交使節団をカリビア王国東部の港湾都市グレナダに派遣していた。だが交渉は結果的に失敗する事となった。


「たかが蛮族ごときが何を生意気な要求をしてくるのだ。貴様らは我が偉大なるカリビアの属領となる以外の選択肢を持たぬ」


 交渉を担当した者の発言は多くの日本側外交官を失望至らしめるものだったが、政府にとっては却って都合がよかった。


「相手は愚かに過ぎた。こうして私達に対し、力を振う事の大義をもたらしたのだから」


 佐藤は後に、外交使節団からの報告に対する感想をそう振り返った。そして彼の言葉通り、自衛隊は持てる全ての力を結集して、敵対的な武装勢力たるカリビア王国軍の鎮圧作戦を開始したのである。


 第二次世界大戦時の軍艦を運用出来るだけの軍事力を持っているという事は、それらを支えられるだけの経済力を持っていることを逆説的に証明している。さらに捕虜からの聴取により、食料と燃料の自給率もそこそこ高い事が分かっている。目の前に国民の腹と明かりを満たすのに必要な資源があるというのに手を伸ばさない正当な理由があるだろうか。


「我々は常に、正義を以て行動しなければならない。我らが常に国民より全面的な信頼を得て存在を認めてもらえるのは、ひとえにこの正義に基づいた行動をしているからである」


 出陣式の際、統合幕僚長はそう言って、出撃する自衛隊員を激励した。第一陣として投じられる戦力は以下の通り。


・陸上自衛隊

水陸機動団第1普通科連隊

西部方面戦車隊第1中隊(10式戦車14両)

西部方面特科隊第4大隊(FH70りゅう弾砲10門)

第一空挺団第1普通科大隊

・海上自衛隊

第1護衛隊群

第1輸送隊

・航空宇宙自衛隊

第8航空団第8飛行隊


 9月4日、攻撃は開始された。洋上に停泊していた軍艦8隻は全て対艦ミサイルの餌食となり、制海権を掌握した艦隊は港湾部へ接近し、空自の支援の下に占領を開始する。地上では九七式中戦車に酷似した戦車が迎撃に赴いたものの、緊急仮設式埠頭を設けてフェリーより降ろされた10式戦車に狙われ、120ミリ滑腔砲を食らって爆散した。


 続いて飛行場は、対空砲以外は破壊せず、航空機は離陸を確認してから撃墜が開始される。そうして制空権の確保を確認すると、第一空挺団は空挺降下を開始した。4機の〈C-2〉輸送機から380名余りの隊員がパラシュート降下していき、同時に軽装甲機動車が複数のパラシュートを取り付けたパレットを用いて投下されていく。


 市街地では戦車を先頭に、多数の隊員を乗せたAAV7装甲車が続き、市街地の制圧を進めていく。敵兵はボルトアクション式小銃や軽機関銃で抗戦するが、12.7ミリ機銃と40ミリグレネード砲がバリケードもろとも吹き飛ばし、隊員達は道路を走って制圧を進める。


「カリビア王国軍は敵に非ず。唯一の敵を上げるならば、最初の実戦を経験した隊員達の精神のみ」


 水陸機動団の指揮官の言葉は、陸上自衛隊の初めての実戦に対する隊員達の衝撃の度合いを表していた。戦闘は僅か1日で終わり、グレナダの市役所には日章旗がはためく事となった。


 9月5日、水陸機動団に替わる形で第8師団の先発隊が到着。占領した飛行場には連日〈C-2〉が発着し、人員や弾薬の移送が繰り返される。自衛隊は陸上自衛隊だけで3個師団と2個旅団、そして第一空挺団の総戦力を投じる予定であり、航空自衛隊も1個飛行隊でカリビアから完全に空を奪い取るつもりでいた。


 占領時に幾つかの軍事情報を獲得した自衛隊は、カリビア本島の戦力は陸軍5個歩兵師団及び1個機甲師団で、しかも複数の旅団で編制されるタイプの師団であるため、実際の戦力数は相当な規模であると推測された。


 そして9月8日、グレナダを中心に各地から食料及びスクラップを中心とした金属資源、そして石油などの資源供出を始める中、王国軍は反撃のために3個師団を動員。陸上自衛隊に向けて襲い掛かったのである。


 対する迎撃側の戦力は、第8師団を中心に、第一空挺団が予備兵力として待機しており、明らかに数が足りていなかった。事前の強行偵察で把握していた王国軍将兵は嘲笑ったが、負けるつもりはさしてなかった。


 斯くして始まった戦闘であるが、血気流行って先んじて突撃した旅団は第8師団の逆襲を受ける事となった。広大な平原を波の様に進む戦車と装甲車の集団に対し、自衛隊は特科部隊の遠距離砲撃によって大部分の敵を撃破。多数の装甲車両が155ミリ榴弾の空中炸裂で全身を切り刻まれる中、10式戦車と16式機動戦闘車の集団が前進。120ミリ滑腔砲と105ミリライフル砲とで敵戦車を撃ち抜いていく。


 さらに後方からは、中距離多目的誘導弾が矢継ぎ早に放たれ、戦車部隊は未知の攻撃手段に恐れおののく。そして後退を開始した時、攻勢を行った旅団は戦力の実に6割を喪失。被害の影響は将兵の士気にまで及び、戦況は暫しの膠着へと陥る事となったのである。

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