3

 出店を一つ一つ眺めて回り、安っぽいが物珍しい小物や食欲をそそる食べ物の数々にわくわくしていると、境内の奥からガランゴロンと無骨で派手な音がした。そういえば、ここは神社なのに私はまだお参りをしていない。

 お祭りの時にお参りもするものなのかはわからないが、せっかく来たのだからついでにしてしまうのも乙なものかもしれない。

 ぶらぶらと出店をひやかしながら、音のする方へ進んでみる。

 お囃子の音が徐々に遠のき、出店も減って、人の気配がなくなっていく。

 鳥居がいくつも視線の先に現れ、私はその一つ一つの下をくぐっていった。


 鳥居を一つくぐるたび、祭りの喧騒が遠のき、代わりにガランゴロンと大きな鈴の音が主張を強めていく。

 幾つめの鳥居をくぐった時だったか、足にふにゃりとした柔らかい感触がした。

 ぎょっとして、思わず目を開けてしまう。

 現実の風景を目視して、私はまたもやぎょっとする。

 神社にいたはずだった。

 だが、ここはどう見ても森の中だ。境内にある森か? 辺りを見回すが神社は見当たらず、自分がどちらから来たのかもわからない。

 どっと冷汗が出る。

 ここはどこだ? かなりの距離を歩いたように感じるが、帰り道はどっちにある?


 ——ガランゴロン。


 鈴の音がする。

 ハッとして音の方へ視線を送るが、鬱蒼とした森が続くばかりで神社など見えはしない。

 どうするか。音の方へ行ってみるか。

 私が立ちすくんで悩んでいると、また、足に柔らかい感触があった。

 恐る恐る足元を見る。が、何もない。

 目を開けているから見えないのかもしれないと、矛盾した考えが浮かび、私は再び目を瞑って、足元を見ようとする。

 目の裏にはお祭りも、それを楽しむ人々も、たった今くぐり抜けたばかりの鳥居さえ見えてはこなかった。

 当然、足元も見えはしない。


 ——ガランゴロン。


 目を開ける。

 八方塞がりとはこのことだろう。

 私は意を決して、音の方へ進んでみようと一歩足を踏み出す。

 すると足元からリインと澄んだ鈴の音と、にゃあと猫の鳴き声がした。

 低く茂った雑草が揺れ、私は踏み出しかけた足を慌てて引っ込める。

 猫の姿は見えないけれど雑草が揺れ動くのとリインリインと鳴る鈴の音のおかげで猫が移動しているのがわかった。

 突拍子もないことなのだが、私はその姿の見えない猫のことを知っていると確信した。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る