第2話 帰ってきました。

ーあの言葉から、少し気まずくなった。



1か月後皐月が引っ越すことになった。


正直、1ヶ月前のこともあって、あぁ、そうんなんだとくらいにしか思っていなかったはずなのに、皐月の顔を見たら、自分でも驚くぐらい泣いていた。


「泣かないで。」

皐月はそう言ったが、そんなことできるわけもなく、ただ泣いていた。

少しの間アメリカに行くだけだから。さよならは、今だけだよ。」


それから、皐月は車に向かって歩いて行った。たまに振り返って手を振りながら。


気づけば来月には、高校受験が差し迫っていた。

中学3年間待ったが、戻ってこない。

しかし、高校に入ってから入学式で配られた名簿に見覚えのある名前があることに気づいた。


もしかして、帰ってきたのでは、、、、


見渡しても見渡しても見つからない。ある男子の机に女子が集まっていること以外、分からなかった。朝から騒がしいなぐらいにしか思わなかった。


帰ろうと思い、その教室に背を向ける。

「久しぶり。」

最初、自分に向けられているのかわからなかった。でも、笑った顔がそれだった。

「皐月?」

俺が名前を言い終わる前に皐月が言った。

「まさか忘れてたって言うの?」

「いやだって、中学校の時3年間待ったけど、来なかったから。」

「だ・か・ら!さよならは、今だけって言ったでしょ?絶対戻ってくるからねっていう意味で言ったんだけど。」

少し膨れながら、皐月が距離を詰めてくる。

「ただいま。」

落ち着いた声で、空気のように告げる。

「おかえり。」

大人びた皐月に驚きながらも、おかえりと言う。


チャイムがなり、下駄箱がさっきよりがやがやとする。少し冷たい壁に背中を当てながらぼーっとしてると、ひょこっと左から見覚えのある顔が出てくる。

「帰ろっか。」

声は、大人になったけれど、聞き飽きたそのセリフは、何年たっても変わらなかったようだ。



「あのさ、久しぶりに皐月のカメラが見たいな。」

俺たちは、足並みを揃え、門を出た。


――あとがき――


ここまで読んでいただきありがとうございます。

少しでもいいなと思ったらフォローと★でのご評価お願いします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君を、このレンズに捕らえたい 晶の華 @yakan20

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ