霊感幽霊

ボウガ

第1話

ある力のある霊能者、薄化粧に美しい顔。どんな霊も除霊できるが、たった一人、除霊できない霊がいる。それを知っているのは側近の助手だけだ。


それは夜にだけ姿を現す。

霊能者が寝ているころに。


「ひさしぶりねえ」

 助手がホテルの一室で眠る霊能者のすぐそばのリビングソファーで身支度を整えていると、霊能者は寝たまま彼に話しかけた。

「きましたね……“レイコ”さん」

 実は、この霊能者ほとんど霊能力などない。本当に力があるのは彼女にとりついている霊だ。生前から強い霊能力があった。寝言をいうときだけ姿を現す。半透明な体で、彼女と別人が背中からでてくるのだ。いっちゃなんだが幸薄そうで、遠慮がちな顔立ち。

「やはり、あなたは優秀だわ、あなたに取りつくことができたならよかったのに、でも、そうすると迷惑をかけてしまうわね」

「いいえ、迷惑だなんて」

 側近は思い出したように、レイコに話を聞く。

「そうだ、最近先生(霊能者)が、霊能者教室というのを始めたじゃないですか、あれはいい事なんですか?」

「いい事?ああ、あれはほとんど意味ないわよ、霊能力を高める方法なんてない、詐欺ね」

「ええ、ならばレイコさんが止めてくださいよ」

「どうして?」

 その時助手は、どうしてかレイコの顔は無表情ながら、とてつもなく冷徹に思えた。

「まともな霊能者が減ったほうがいいわよ、力のない人間に自分に力があると思わせなきゃ、商売敵は少ないほうがいいし」

「はあ」

 助手は一瞬レイコにも彼女の深い考えがあるようにおもえた。なぜなら今の今まで、霊能者にとりつき、除霊を助けてきたから。思い切って、片付けの手をとめ、レイコに続きを訪ねた。


「自分の力だと思わせて、何の意味があるんです?」

「楽ができるのよ、本当に能力のある人間が減れば、私は除霊をしなくてすむし、霊能者って胡散臭い人間ばかりでしょ?たった一度や二度、見えたりしただけで本当に自分が力があるとおもったりする、本当に才能がある人間は遠慮するし、能力のない人間こそ、その才能を壊そうとする、そういう人間社会のやり方をみて、私はできるだけ低級な依頼をうけるようにして、強い霊は放置しているのよ、私は、死者を増やしたいから」

 何かの冗談だろうと思いつつ、話を続ける。

「死者を増やすために霊能者を?なんでそこまで?」

「死後の世界は何もない、ただ、世に未練を残した人間の残像だけが残る、それらが私たち幽霊、私は仲間を増やそうとしているのよ、理不尽な死者を」

「あなたの未練って何ですか?」

「この霊能者に仕事を奪われて死んでしまったことよ」

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霊感幽霊 ボウガ @yumieimaru

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