第18話【ひとりかくれんぼ】【2】




「肝試し楽しみだねー」


「先生まだ?」


「お前ビビってんのか?」


「私お化けこわーい」



夕食を食べ終わり三クラス全員施設内の大部屋に集まっていた。広い部屋とはいえ三クラス分の人数が集まるとなると結構な密度である。周りの奴らは雑談を話しながら暇を潰しているようだ



…昼間の加藤が持っていたぬいぐるみが頭から離れない。それを振り払うように軽く頭を振る


そんな俺も雑談をしながら先生達が来るのを待っていた



「どうなる事かと思ったけど美味かったなカレー」


「うん!てか麻倉いなかったらマジヤバかったし!」


「先生も僕達のが一番美味しかったって言っていたよ」


「…何故か人参が無い事を不思議にしてたけどな」


「結局人参、溶けてましたね。殆ど麻倉さんに作ってもらってしまいました…私ももう少しお役にたてれば良かったんですが」


「変なの入れようとしないだけ良かったから依田は全然気にしなくていい」


「チョコレートは変な物ではないと思うけど?よく隠し味に入れるって聞いたし」


「量を考えろ量を…!止めれたから良いものをもう少しで何枚も入れるとこだっただろ。何も隠されてねえわ」


「一枚じゃあまり変わらないと思って」


「完璧人間の鏡本でもできない事があるんだね…ウチも止めるの疲れた…」


「ボクもゴメンね…不器用でこういうのできなくて」


「いや加藤も気にしなくて良い」


「明日は朝ご飯作りかー…麻倉がんば!」


「お前もやるんだよ川岸」


「へへっ分かってるって!」



明日は朝飯を作って食べ終わったら使ったテントを畳んで全てを元の位置に戻してからバスに乗って学校に戻る。次は二年生がキャンプをする事になっている


ふと栞がいる方を見ると栞は楽しそうに笑いながら隣の女子と話をしている。栞ってあの女子と仲良かったのか。…もう完全に前の事が思い出せなくなってきた、もっとしっかりしねえと


それより先生に着替えを持ってくるように言われてたからナップザックに入れて持ってきたけど、肝試し終わったらそのまま風呂入れって事か



「よし、集まってるなー」


「皆お待たせー、肝試しの用意ができたよ」


「毎年誰かしらは何かしでかすからな。お前らは何もやらかさないように」


「はーい」


「それでだ。今年から女子と男子は別で肝試しする事になった」


「ええーー!?」


「そんなの面白くねえじゃん!」


「聞いてないそんなの!」


「静かにー、…肝試しの順番だがテントにアルファベットが書いてあるの気づいたか?」


「AグループとかBグループって書いてあったでしょ?そのグループで肝試ししてね」


「班じゃないんですか?」


「そうだ。肝試しが終わり次第入れ替わりで風呂に入ってそのままテントに戻って寝ろよー」


「何だよそれー」


「女子いねーんじゃ面白くねえじゃん」


「はいそこ文句言うなー、今からルートのプリントを配るぞ。後ろに回してけ」



肝試し終わったらそのまま寝ていいのか。つーか今年からこうなったって事は去年誰か何かしらやったんだな…何したらこうなんだか


ある程度自由がきく学校だから色々緩すぎたんだろう。まあそんな校則が緩いところが楽で良いとは思う


…まわってきたプリント見たけど、ある意味風呂への行き方じゃねえかこれ?



「つまりはお風呂への行き方っすよね」


「うわびっくりした。篤いつの間にいたんだよお前の班はどうした」


「まあ良いじゃないすか!どうせ一緒に肝試しするんすから!ねえ菊子ちゃん!」


「麻倉のテント篤と一緒だったんだ。良いなー…」


「ッえ!?い、良いなって何が…」


「ウチもしおりんと一緒が良かったな…」


「ああ、そういう意味っすよね…知ってたっす……誰と一緒だったんすか?」


「全然知らない子達…」


「そりゃ気まずいな」



先生達、生徒にクラス関係なく仲良くしてほしいのは分かるけど、他のやり方は無かったのか…


目の前の悲しそうな何とも言えない表情の川岸を見てるとそう思ってならないんだが



「全員にプリント渡ったな?じゃあAグループから順に出るように。女子風呂と男子風呂間違えるなよ」


「私達以外の先生達も脅かしてくるからねー」


「何かあったら会った先生に言うんだぞ」


「先生いなかったらどうすんすかー?」


「俺達が幽霊に襲われたらどうしてくれるんすかー?ハハッ」


「一定の距離でいるから心配するな。それに幽霊なんている訳ないだろ…全く、いいから早く行け。生徒全員が時間内に風呂に入りきらなくなるだろう」



幽霊か、ドッペルゲンガーを思い出すな


まああれは生き霊だった訳だが普通の幽霊も本当にいるんだろうか



瞬きをするぬいぐるみが脳裏に過る



…やめだやめ、余計な事思い出した



「次Bグループ女子ー続けて出て行けー」


「じゃあ行ってくる」


「川岸Bグループか」


「うん、うぅ…しおりん…」



川岸は立ち上がり女子が四人いる出入り口へ

重そうな足取りで複雑な顔をしながら向かって行った


次は俺達か、さっさと終わらして風呂入って寝よう。今日は色々疲れた…役割分けで圭と二人して風呂掃除に当たっちまうし



人参を消滅させる圭、風呂掃除中真顔で盛大に滑る圭、…俺もびっくりしたけど二組と三組の男子達にめちゃくちゃ驚かれてたのが笑った。怪我しなくて本当に良かった



「次ーCグループ」


「行くか」


「ハイっす!」


「幽霊でるかな…!」


「衣孤眞くんってお化け好きなんすか?」


「好きっていうか実際に見てみたくて!」


「それであの趣味ね…」


「ん?お前ら宇宙はどうした?」


「あれ?洸くんは何処に行ったんすかね?」


「トイレじゃねえの?」


「ここ居るんやけど…」


「うわびっくりした気配何処やった」


「よし、皆いるな。じゃあ行け」



気配も無く俺の後ろにいつの間にか立っていた宇宙。…何かめちゃくちゃ嫌そうな顔してんな?こういうの苦手なのか





大部屋を出て歩く


廊下は照明が足元が見える程度まで暗くされておりかなり雰囲気が出ている。先に歩いている筈のA、Bグループの声は聞こえない為もう随分と先に進んだようだ


未だ不満そうな顔をしてずかずか歩く宇宙。…ん?全然怖そうにしてないな


ワクワクした顔をして辺りを見回す篤、まあ予想通りだな


そして、…加藤


特に怖がる様子もなく平然と周りを見ながら先へ進んでいる…やけに膨らんだナップザックが気になるな



壁には有名なホラーゲームなどの幽霊や化け物の画像がプリントされた紙を申し訳程度に貼ってあり、先生達の生徒を怖がらせようとしてる努力を感じるが…


え?こんだけか?…いや脅かしてくるって言ってたしこれからだよな



「…何かしょぼいっすね」


「言うな…俺もちょっと思ってたけど」


「壁の写真もよく見た事あるやつばっかだしね」


「……なあ。たしか加藤やったっけ、自分まさかその中アレ入れとんのか?」


「え?アレって…ああカトゥリヌス24世の事?うん。一人ぼっちなんて可哀想だから」



は?かとぅ…何つった?


加藤は歩きながら徐にナップザックを開くとそれを取り出した。ふわふわとした少しデフォルメされながらもリアルな作りをした、腹に縫い目のあるあの


犬のぬいぐるみだった




それを認識した途端鳥肌が立つ


昼間の事がフラッシュバックする


気味が悪い


…いやぬいぐるみを大切にしている加藤に失礼だ。そんな事思うな俺



「そのわんちゃん連れて来たんすね!良かったっすねーわんちゃん。衣孤眞くんと一緒で」


「…っち、ほんまアホやな」


「な!高校生にもなってぬいぐるみ持ってておかしい?!」


「そういう意味ちゃうわ」


「つか、かとぅ…って」


「カトゥリヌス24世」


「何だその名前」


「だってボク加藤だし…まあお母さんにはリンちゃんって勝手にあだ名付けられたけど」


「は?母親もそのぬいぐるみ名前で呼んでんのか?」


「ううん。この子には呼んでないよ」


「? どう言う事だ?」


「…にしてもこんなに歩いてるのに先生驚かしてこないっすね?」


「確かに。どうしたんだろう?」


「……」



そういえば、話しながら歩いてるとはいえかなり進んでる。…Bグループの女子達に何かあって一緒に行ったとかか?いやそれにしても全員居なくなる訳はないよな


…やけに静かすぎる廊下が不気味に思えてきた。さっきから不機嫌を隠そうともしない宇宙も気になるし、早く風呂入ってテントへ行こう








「結局先生、居なかったっすね」


「そうだな」


「カトゥリヌス24世、待っててね!すぐお風呂入っちゃうから」


「…」



結局風呂に到着するまで一度も先生と会わずに終わった。…よく分かんねえけどまあいい


ふと宇宙の様子を横目で確認する


隣で宇宙は衣孤眞を、…いやあのぬいぐるみを睨んでいる。かと思えば目を泳がし耳を塞ぐように片耳を抑えているようだ


何なんだ一体…って篤お前



「何だそのパンツ」


「ふふん、良いでしょ?宇宙人様とお揃いのカラー!見つけるのに苦労したっす」


「いやないわ」


「…はあ……って何やお前そのパンツ!?アルミホイルか!」


「失礼っすね!宇宙の正装っすよ!」


「何が、俺の正装や!」


「洸くんの事じゃないっす!」


「やっぱこれアルミホイルにしか見えねえよな」


「ボク、先入ってるよ…?」


「あ!オレも入るっす」


「うわ!急にパンツ脱ぐなや!」


「じゃ、俺も入るか」


「は?いつの間に自分ら脱ぎ終わって…!?俺も入るっちゅうんや!!」





篤のお陰でピリついた空気が和やかになって良かった。あの変態おっさんに感謝だな


さて風呂だ、風呂


疲れた時はやっぱ風呂だよな








……本当に何かがおかしい



俺ら全員体と頭洗い終わったし暫く沈んでいる。体感20分以上は経過した筈、風呂に時計が無いから確認できないとはいえ変だ




次の男子グループが来ない


どうなっている?




「そろそろオレあがるっすー」


「ボクも」


「あっつ…いつもシャワーだけやのに長風呂してもうた」


「…俺も出るか」



違和感を感じたまま風呂をあがる


篤は真っ先に体を拭いて、あのアルミホイルパンツを履いている…二枚も買ったのか


宇宙はのぼせやすいのか怠そうに体を拭いている


俺も体を拭き服を着始めた時、それは起こった



「…あれ」


「? どうしたんすか衣孤眞くん。…ここドライヤーないんすね…オレドライヤーしないと次の日髪の毛爆発するんすよねー」


「いない」


「居ないって…誰が?」



服を着終わった後も何やらガサゴソと荷物を漁っていた加藤が顔色を変えて此方を見て口を開く



「…カトゥリヌスがいない」


「はあ?」


「ッち…!…やと思ったわ」


「やと思ったって…ぬいぐるみが勝手に動く訳…よく見たのか?」


「見たよ…!ほら、何処にも居ない…!」



加藤が着替えを置いていたロッカー代わりの棚の中には確かにぬいぐるみは無かった


何処にも居ないと言う加藤は頬を染めどこか嬉しそうにうっそりと笑う


何、笑って、

ぬいぐるみが勝手に消えた…?



…んな事言ってもそんな、まさか。


篤はそんな話をする俺達を気にもせず出口に向かっていたがドアノブを握った途端に動きが止まる



「あのー…誰か入り口のドアの内鍵かけたっすか?」


「ああ?かけてねえよ。次の奴ら入って来れなくなんだろ」


「…いや鍵閉まってるっすけど」



は?…じゃあ鍵閉まってたから次のグループが入って来れなかったんじゃ


まじか、早く開けねえと


ドアに近寄る。確かに鍵がかかっている


どうせ最後に入った誰かが無意識に鍵かけたんだろ…最後に入ったのは俺な気がするが


鍵を開けてドアをあ



「ッドア開けんな!!!」


「!?」


「…今だけは開けんなや」


「なに、何でだ…?」


「……言えへん」


「はあ…?そんな血相かいて怒鳴っておいて理由を言えない…?何でだよ」


「……」


「? よく分かんないっすけど、なんで開けちゃ駄目なんすか?」



焦った様子で俺にドアを開けるなと怒鳴った宇宙に理由を聞くが、何かを言いたげに口をパクパクとさせながらも話す事を拒む


篤はよく分かってなさそうだが、何か理由があるのが分かるのか出ようとしていたのをやめて置いてある椅子に腰掛けている



…どちらにせよ此処からは出なくてはならない。宇宙に無理矢理にでも理由を聞き出すしかないか



「…なあ、何で出てはいけないんだ?」


「…ッそれ、は…言うてもどうせ」


「アハ、リンちゃん…!やっとまた会えるんだね!ボクずっと、ずっと寂しかったんだから…!」


「加藤…?」


「やっぱりリンちゃんは死んでなんかないんだ…!お母さんの嘘吐き!」


「…ッ!」


「衣孤眞くん?洸くん?二人共どうしたんすか」


「さがしにいかないとリンちゃんもひとりはさみしいよね」


「…おい、加藤どこに」


「出ていっちゃうっすけど?洸くんドア開けていいんすか?」


「…もう、開けても大丈夫や。…せやけど待てや加藤」



理由を聞き出そうとした時、加藤の様子がおかしくなる。加藤は喜びを隠しきれない様子で先程出るのを止められたドアへと早足で近づく


それを宇宙は腕を掴み止めたが加藤は自身の腕を掴む手を振り払い進もうとする。


が、宇宙は掴む手を離さない



「離してッ!ボク行かなきゃ…!」


「話聞いたらいくらでも離すわボケ…自分、ちゃんと終わらせたんか?」


「…何を?」


「ひとりかくれんぼや、やった言うとったやろ…アレの中にはまだおった。って事はや、終わらせてないやろ最後まで」


「だから?」


「っだからって…!こんド阿呆が!!こんな大量の霊今まで感じた事ないわボケ!!」


「はあ?何言ってるの?…第一何も起きなかったあの嘘降霊術を最後までやってないだけで何が悪いの」


「自分、まさか分からへんのか…!?」


「いいから離して。ボクはもう行くから」



宇宙の手が緩んだ瞬間加藤は手を振り払いドアを開けて出て行く


っ…!?


ドアを開けた途端に空気が澱み廊下から人の気配がする。…が本当に人の気配か、これ


なんだ、これ、吐き気がする


ドアが閉まるとフッと気配が消える



「ねえ洸くん、さっき霊の気配って言ってたっすけど…もしかして視える人っすか?」


「!」


「ッ…そうだ。俺も聞いて思ったけど、お前もしかして霊感…あるのか?」


「ッはっ、いや、俺…は」


「おいどうした…視えるなら言ってくれさっきの人の気配って本当に人、なのか?」


「……視え過ぎて困る位や……んな訳、ない…やろ」


「やっぱり視える人っすか!うわー!初めて会ったっす!すげー」


「…は?……視えるって、信じるんか…?」


「信じるもなにも俺は既に生き霊に会ったわ」


「宇宙人様が実在する以上他の生命体が居てもおかしくないっす!」


「ッふは…アホ、もう生きてへんから生命体やないわ。あーあーアホらし、そない簡単に信じよるんやったらさっさと言えば良かったわ」


「あ!やっと笑ったっす!」


「え」


「気づいてなかったんすか?テントで初めて会ってから洸くん、一度も笑ってなかったんすよ」


「そうやったんや…俺結構ゲラなんやけど」


「それこそ嘘だろ」


「…ほんまやアホ」


「ま、幽霊が視えるって事は少なくとも俺らは嘘吐きだとは思わねえよ」


「…おん」


「だから教えてくれ。…今、何が起きているんだ?…さっきから時間が全く変わってない…これも何かあるんだろ?」


「それは」


「それも気になるっすけど取り敢えず、さっきの大部屋に戻らないっすか?誰かしら居ると思うんすけど」


「…可能性は無いとは思うけどええで。此処に居ても何も解決せえへんし、ヤバい方には俺が行かせへんから歩きながらでも話せるしな」


「…分かった」



意を決してドアを開き一歩踏み出す


生温い空気が肌を撫ぜ何処からか感じる視線に背筋が凍る。火花が散るような、パチッとした妙な音があちこちからする。



「ラップ音か…」


「HeyYo!………スベったわ」


「…変な所で関西魂見せんな」


「すまん……ボケらなやってられへんくて…」


「ラップ音っすか?します?」


「聞こえんだろ、ほらパチッって」


「………? というか幽霊さんは何処っすか?オレお化け見た事ないんすよねー、どんなんなんすかね」


「…まさか自分」


「篤、何も感じないのか?」


「感じるって…うーん、分からないっすオレ霊感無いんで」


「いや俺も無いけど…これは流石に…」


「零感やないか!!!」


「え?霊感?」



小声で叫ぶという器用な事をする宇宙に

駄洒落の同音異義をオウム返しする篤



はは、霊感持ちならぬ零感持ちってか?


やかましいわ!!



「取り敢えず今は何も居らんな、もし今ひとりかくれんぼをやっとる事になっとった場合あれが俺らを探しとる筈やから…気をつけや」


「了解っす」


「何で加藤はそんなのやったんだ…」


「…知らんわ。本人に聞くしかないやろ」



加藤は何処へ行ったんだ?


俺は歩き出した宇宙の後ろを篤と共に着いて行く



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