第14話【電車、記憶】【1】




《カシャンッ…》


宇宙人騒ぎから数日経ったある日

今日もいつものように部室に来て各自好きに調べ物をしていると、不意に圭が持っていたペンを手から落としてしまった


俺はこちらへ転がってきたペンを拾い、圭へ渡しながら疑問を問いかける



「圭?何かお前、最近少し変じゃねえか?」


「私も思ってた。どうしたの鏡本くん?」


「…いや、何もないよ」


「そう?何かあったら言ってね」



何かを言いかけ、やめた圭は考え込む

…本人がいいならいいけどよ


そういえば、俺も最近何か忘れてるような



「皆さん、お邪魔するっすよー!」


「…やあ日向くん」


「篤。お前来たのか、ってテニス部は大丈夫なのかよ?」


「今日は部活休みっすから!…菊子ちゃんはまだ来てないんすか?」


「そろそろ来るんじゃねーか?」


「麻倉!来たよーって篤も来てたんだ。テニス部は?大丈夫なの?」


「もう肇くんに聞かれたっすよ!今日は部活はお休みっす!」


「ふふっ菊子ちゃん肇と同じ事言ってるー」


「気が合うんすねぇ」


「しおりん、からかわないでよ〜!篤は何ニヤニヤしてんの!」


「へへっ、あ。そういえば!あれ、そろそろっすね!楽しみっすよね〜」


「何がだよ」



あれって何だよ?


そう思っていたら篤は信じられないって顔をして俺に向かい話を続けた



「えぇ!?何がって、今月のキャンプっすよ!肇くん忘れちゃったんすか?」


「ああ、21日にあるあれか」


「それにしたって何か随分ドライっすねぇ…」


「ウチも楽しみだなー、ね!しおりん」


「そうだね」



こっちは初めてのキャンプじゃないしな


大体、まだ仲良いグループができ始めたくらいの時に別のクラスの奴らを交えてキャンプやらされたってどうしろっつうんだよ…



この学校では毎年6月に宿泊研修として学校が保有する施設内で学年ごとに一泊二日ずつ、キャンプを行う事になっている


班はクラスが同じ奴と組む事になってはいるが、生徒が自分達の好きに行動して良い事になっているため気づいたら別のクラスの奴と仲良くなるという事もあるってことだ


この前そんな事を説明する時間があったな


前は楽しかった…のか?

確か、…?どうだった?



…あれ、なんか…何か変だ


何だ?


俺は何を忘れている…?


そもそも俺、何でキャンプの内容を何も思い出せないんだ…?



「6月…?」


「? どしたんすか?」


「…! なんで、忘れて」


「しおりんまでどうしたの?」


「…やっぱり肇たち、忘れてたね?」


「キャンプの事っすか?そんな忘れてた事を気にしなくても」



6月…って、待て。



今日って何日だ…?



スマホを取り出し日にちを確認する


6月15日




何で俺はこんな大事な事を忘れていたんだ?


あの電車の事故の日




明日じゃねえか




「っは、…っいや…そうだな気にしすぎだよな!」


「そうっすよー!もー肇くんったら〜」


「っごめんね菊子ちゃん、私もキャンプの事忘れちゃってて自分で驚いちゃった!」


「二人して黙るから何かと思ったし!」


「そうだよね!心配させてごめん」



様子がおかしい俺達に話しかける川岸と篤を誤魔化し、目線で栞と圭に異変を訴える



タイムスリップしてくる以前の記憶が思い出せなくなっている。



何故、前の記憶が薄れているのか



思えば篤がここに初めて来た時から思い出しづらくなってきていた気がする。


あの事故の日にちすら覚えていなかった


どういう事なんだ。過去に来てまだ何ヶ月も経っていないのに忘れているなんて



「…そうだ、今日はもう帰るか」


「ええ?まだオレ来たばっかっすよ?せっかくキャンプの話しようと思ったっすのに」


「ほんとだよー、ウチも今さっき来たばかりなのにぃ」


「悪いな、今日は早く帰ろうって三人で話してたんだ」


「そうなの?しおりん」


「う、うんそうなの!ごめんね菊子ちゃん」


「僕達は部室の片付けがあるから二人は先に帰ってていいよ」


「え、ウチらも片付けくらい手伝うよ?」


「そうっすよ」


「ファイルのしまう位置とか決まっているから。二人にも申し訳ないし、ね」


「まあそれなら仕方ないっすね。んじゃオレ帰るっす!…菊子ちゃん良かったら、なんすけど…途中まで一緒に帰らないっすか?」


「もー、じゃあウチも帰る…良いけど同じ方向なの?篤の家って」


「分かんないっすけど!違ったら校舎出るまででいいんで!」


「…それって一緒に帰るっていうの?」


「じゃあ俺ら片付けあっから!」


「はいっす!じゃあまた明日っす!」


「バイバイ!麻倉、しおりん、鏡本も!」


「じゃあね菊子ちゃん。また明日」


「…じゃあね二人とも」


「おーまた明日な」



…何も知らない二人には申し訳ないな


少し残念そうに二人は会話をしながら部室を出て行く。本当は早く帰る予定などない俺達は部室に残りタイムスリップ前の記憶を忘れてしまっている異変の話を切り出す



「…おい」


「言いたい事、分かるよ肇。…前が思い出せないんでしょ?私も思い出せない…何で」


「やはりね。そうだとは思ったんだ二人共、あの日にちが近いのに平然としてたから」


「圭、覚えてたなら言えよ」


「二人共、知っててそうしてると思ってたからね。悪かったよ」


「でもどういう事なの?私、一度だって忘れた事ないのに」


「しかも今の今まで、記憶が薄れてるのに気づかなかったのも何でなんだ…」


「…念の為にメモをしといて良かったな」


「メモをしてくれてたのか」


「要点だけはね、細かい事は書いてないよ」


「それだけでも分かれば十分だよ!ありがとう鏡本くん」


「念の為だったけど役にたてて良かったよ」


「ありがとう圭。大事な事だけでも分かるのは大きい」


「私も少しくらい書き残しておけば良かったな…」


「クソッ…記憶が薄れる事が分かってたら俺も全部書いて残しておいたのに」


「過ぎた事は仕方ないよ二人共」


「栞、どこまで思い出せる?俺は出来事があった事は覚えてても、その出来事で何があったかが思い出せない」


「私もまったく同じ、何度も同じ事を繰り返したのに何一つ思い出せないなんて…」



栞まで思い出せなくなってるなんて、一体どうなってるんだ。何としてでも俺か栞のどちらかを電車の事故に巻き込みたいのか?


圭の残してくれていたメモを見る


栞のループ回数に事故の日付、そして文化祭の火事の事、俺が死ぬと初日の日に戻る。という事がまとめられて書いてある。前で起きた出来事の話なんかは、だろうとは思っていたがメモに残されてはいなかった


タイムスリップ以前に起きた事、つまり

これから起こる筈の出来事…



「…駄目だ。思い出せない」


「やっぱり、二人共前の事を覚えているのがいけなかったのかな?」


「おそらくそうだろうね、他人に話す事ができなかった筈なのに話せていた事自体が奇跡だったようだ。イレギュラーを元に戻されたって事かもしれない」


「鏡本くんが前に言ってた世界の修正って事?」


「うん、多分そうだと思う。何が何でも娃川さん達にはループしてほしいという事なのかもね」


「何が何でもか、…クソッ」


「でもこれからどうしよう…?」


「とにかく今回の6月16日に事故があるかは分からないけど、回避する事を考えよう」


「で、どうする?明日も学校だ。メモによると休んだところで行かなきゃならなくなるって事は休んでも意味ねえし」


「そうだよね、登校の時と下校の時どっちで事故が起こるかも分かんないし」


「…まあ回避する手段がない事はないよ」


「! 本当か圭!」


「その代わりに回避できたかを知る事ができないけど」


「…?どういう意味だ、それ?」


「どんな方法なの?」


「それは………」




次の日


俺と栞は、電車の事故を回避する為

圭が考えた方法をとる事になる


事故が起こるのは今年なのか…?



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