第13話【日向篤の独白】




オレは日向篤。テニス部所属で

皆からは宇宙人って呼ばれてるっす!


オレが宇宙が好きで宇宙の話ばかりするからって理由で付けてくれたあだ名でお気に入りっす!



ある日、オレがUFOウォッチングをしていた時の話っす。


家に帰ろうとしてたんすが何故か一向に家に辿り着かなくて途方に暮れていると、あの良いフォルムをしたUFO型のドーム遊具がある公園にまで来ていたっす



その遊具を見て行こうと近寄ったら

何かがめっちゃ光ってたんっすよ!!

もうワクワクしちゃって!



「何で光ってるんすかね…ってうわ!!?」




思わず駆け寄って確認しようとしたらフッと光りが消えて少し目が眩んでる間に銀色の人影がドームの穴から身を乗り出したと思ったら、勢い良く出てきて逃げたんで、宇宙人だ!!って思ってそのまま後を追いかけたんっすよ


写真も撮ったのに!撮るの練習してるのに

どうしていつも失敗するんすか!



でも何故か見失ってしまって気づいたらオレの家の前まで帰って来れてたっす!


いやー、ラッキーっすね!

宇宙人に会えなかったのは悲しいっすけど




その宇宙人を発見して暫くの間、毎日あの場所を見に行ってたんすけどあの光は見る事ができなかったっす


オレの夢は宇宙人の構造を知り

自分の身体を全く同じにして

宇宙人の故郷の星に招待してもらう事っす!


良くテレビでは改造されたとか、記憶を改竄されたとか言ってる人がいるっすけど全くもって解釈違いっす。そんな事をして貰えるならとっくにオレは宇宙に行けてる筈っすもん!





「やっぱり捕まえておくべきだったっすかねえ…」



毎日、探しながら待てど暮らせど一向に見つかる気配が無くてしょんぼりしてたんすけど


その時オレは校舎の出入り口の所にある

部活動の勧誘掲示板のポスターで

運命の出会いをしたっす!



[ -超解部- 超常現象を募集中。

あなたの不思議な出来事

何でも気になる事があるなら部室まで!]



ちょっ、超解部…!?

なんて、良い響きの部活動なんっすか!

超常現象を募集中? これだ!!!



オレは居ても立っても居られずに

授業を終わらせて、テニス部を今日だけ早めに帰らせてもらって超常現象解明部に直行したっす!



そしたらそこにはオレが密かに好意を寄せている川岸菊子ちゃんさん…いや菊子ちゃんが居たのはマジで驚き過ぎて、肇くんに割と酷い事を言ってしまったような気がするんすけど。肇くん、ほんとゴメン


学校内で噂の鏡本圭くんの名前ならまだしも

同じ中学だった時から一度もクラスの被らなかった菊子ちゃんの名前知ってたの…変に思われちゃったっすかね?




結局、皆がせっかく探すのを手伝ってくれたのにも関わらず宇宙人を捕まえよう大作戦はコスプレ解釈違いおじさんが原因の勘違いで終わった



と、思ったのに!まさか!!!


宇宙人様ご本人様だったなんて!!


オレは宇宙人様に何て失礼な事を言ってしまったんだ…!




オレはまたやってしまった


自分が考えている事と違う事を言われると、

性格が変わってしまう事がある


それが原因で中学の時はテニス部の一部には少し嫌われてしまっていたから、オレはこんな変な性格を直したかった。




中学の時は、オレは自分で言うものではないけどテニスが人より上手い方だったと思う。それも疎まれた原因だと思っている


ある練習試合がうちの学校で行われた時



「おい、日向!お前今何やってると思ってんだよ!」


「何ってテニスっすよね?」


「ダブルスやってんだよ!お前のワンマンでやってる試合じゃねーんだよ!!人の返そうとしたボール勝手に打ちやがって!」


「いや先輩、あの位置からあの場所に落ちたボールは先輩には取れないっすよ」


「うるせえな!少しテニスが人より上手いからって先輩である俺を馬鹿にしやがって!調子乗ってんじゃねえぞ!」


「馬鹿になんてしてないっすよ」


「天才気取りが。大した努力もしないでそんなにワンマンテニスやりてえなら、お前一人で全部やってろよ」


「は?」



どの口が言ってる?


オレはアンタがマネージャーと付き合ってて

毎日、毎日飽きもせずイチャつきまくってるせいで練習も何もしてないの知ってるんすよ


しかも他に別の女の子達とも同時に付き合ってたのも。



「あ? 何キレてんだよ?」


「努力してねえのはテメエだろうが」


「先輩に向かってなんて口叩いて…」


「毎日毎日、代わる代わる別の女の子とイチャついて練習もしてないのは先輩じゃねえかよ、そもそもそんな弛んだガットでまともにテニスできねえよ。グリップテープも酷い状態だ、そんな事も気づかねえでテニスして大会に出る気かよ」


「っな!」


「…どういう事よ!浮気してるの!?」


「いや、これは違…!クソッ!」


「ちょっと待ちなさいよ!」



恋人のマネージャーにどういう事かと責められ、先輩はラケットを地面に叩きつけて

オレを睨みつけてから去って行く



それからオレはその先輩には良い態度をされなくなった。いつの間にやらラケットのガットを外されていたり、オレの飲み物はいつやったのか中身が捨てられていたりした


それだけならまだしも

事故に見せかけ故意にボールをオレに打ってくるなどといった、物理的ないびりも始まってしまった


そんな人に構ってる暇があったら

少しは練習してればいいっすのにね。




元々オレを良く思っていない奴らも先輩の威を借りて似たような事をしてくるようになった。仲の良い部員はオレの事を心配してくれてて



「おい篤、お前大丈夫か?ほら、俺のスポーツドリンク一本やるよ。あの先輩なんでこんな篤にこだわるんだ…」


「いや大丈夫っすよ!飲み物ありがとっす!」


「その顔、先輩にやられたのか?」


「はは、ボールが掠っただけっすよ」


「掠っただけでんなアザになるかよ!直撃してんじゃねえか!なんで先生は見てる癖に何も言わねえんだよ?!」


「あの先輩、なんか校長の親戚の子らしいっすよ」


「…そんなのって、…酷すぎるだろ」



結局この部員のやつとは高校が別になってしまったけれど、どこか肇くんに似た人だった



そんな日々を暮らしていたら

オレはある日





彼女に出会った






「なあ?いいだろ?俺と付き合えよ」


「やだ、ウチあんたの事そんなに好きじゃない」


「照れてんじゃねえよ。ほら俺ってイケメンじゃん?菊子ちゃんと俺、似合うと思うんだよね」


「馬鹿じゃないの。ウチそんなに軽く無いし」


「はあ?軽そうな見た目してて何言ってんだよ。いいから付き合え」



あの先輩に絡まれている女の子がいた


先輩は俺から見ても顔が良い奴で、大体の女の子はあの性格を知っていても先輩の事を好きになる子が多かった


なのに目の前の女の子は嫌そうな顔を隠そうともせず先輩を拒絶していた



「やめろよ、嫌がってんじゃないっすか」


「日向…お前には関係ないだろ、邪魔してんじゃねえよ!!」


「うるせーっすわ。嫌がる女の子に下心丸出しの顔で近寄ってるのが悪いんすよ」


「…うっせーのはお前だろうが!」


「…!」


「ちょっと!いきなり人殴るとか何考えてる訳!?そんな奴こっちから願い下げだっつーの!あっちいって!」


「っ!覚えてろよ!このブスが!」


「誰がブスだ!ウチはカワイイっつーの!」



女の子は殴られた俺を見て果敢にも先輩へと強く言葉を返す。すると騒ぎを聞いて人が集まり、先輩は捨て台詞を吐いてその場を離れた



…助けに入って殴られてしまった

しかも女の子に庇われて、

格好悪い。何やってんすかねオレは



「…はは」


「ちょっと、大丈夫な訳?」


「大丈夫っすよ。そんな痛くねーっすし」


「痛い、痛くないの問題じゃないでしょ?

…ありがとねウチを助けてくれて」


「いや助けれてねえっすよ」


「? だってやめろって言ってくれたじゃん」


「え…」


「ちょっと待っててね」



そう言ってその女の子は少しその場を離れると、花柄のハンカチを手に戻ってきた



「はいこれ」


「え、なんすか…?」


「何って、濡らしたハンカチ。これ当てて冷やして」


「そんな、綺麗なハンカチなのに汚しちゃ悪いっすよ…」


「え、綺麗?褒めてくれてありがと、これウチが初めてデザインした奴だから」


「キミがっすか?尚更悪いっす」


「良いの!えいっ」


「冷た!?」


「後でちゃんと保健室行ってね。じゃ」


「…待って!」


「ん?…なに?」


「オレ、いつも格好悪くて、言い返す事はできてもやり返す事できなくて…。本当にダサい奴なんすよ。…そんな奴にどうしてこんなに優しくしてくれるんっすか…?」



呼び止めておいて

言いたい事が何もまとまらない



本当にオレは弱い奴だ

テニスはできても、それだけで。

あの先輩に何もやり返せない



「…何言ってるか分かんないけどさ」


「…」


「少なくともウチを助けてくれた

さっきは格好良かったよ。」


「…!」



そう言って笑った彼女の笑顔は


とても綺麗で眩しかった





彼女の名前は川岸菊子さんと言うらしい


とても綺麗な名前だ、彼女に良く似合う。


彼女の事をもっと知りたかったけど

結局、一度だって

クラスが一緒になる事はなかった





高校になりあの先輩とも同じ学校にならずに平和に過ごしていたある日、廊下で彼女とすれ違ったけど菊子ちゃんはオレの事は覚えてはいなそうだった。


彼女にとっては

当たり前の事をしただけだったのだろう


だけどオレにとっては特別な思い出だ





菊子ちゃんを見れば

いつか見た女の子達と

同じ顔で肇くんの事を見ている事に気づく


大好きな人を見る顔。


中学の時優しかったアイツに似ている肇くんを好きになる理由は、誰よりもオレが分かっている



オレは彼女の笑っている顔が好きだ



彼女が喜ぶならオレは何だって良い


だから肇くんに菊子ちゃんの名前を呼ばしてみた。照れちゃってやっぱり苗字で良いなんて言ってたけど、嬉しそうにしていたのは

オレ、分かってるっすよ。



笑っている菊子ちゃんは綺麗だ



肇くんは親友っすからね。応援するっす


でも肇くん。

もしキミが菊子ちゃんを

悲しませるような事したら



オレ、許さねーっすよ




今日もオレは菊子ちゃんには


何も伝えないまま。ただ、笑う。



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