第10話【宇宙人】【2】




学校を出た俺達は日向が宇宙人を見たと言い張る例の公園へやって来ていた


特に変わった所はねえな…

やっぱり日向の見間違いか何かか?

すると日向がドーム遊具に駆け寄り窓の様なくり抜きを指差し俺達に訴える



「ここ!ここっすよ!このUFOを模したドーム遊具から乗り出す様にしていたんす!やっぱり宇宙人が元の星に帰る為に宇宙船と勘違いして乗り込もうとしてたんすかね?!それとも地球人の宇宙船だと思って調べてたとかかもしれないっす!!!」


「この窓みてーなとこか?」


「あれ?麻倉もうそんなに日向に反応しないんだ?」


「相手するだけ疲れる事を学習したわ」


「まあ確かに…」



ここに来るまでの間自己紹介を終えた俺達にべらべらと宇宙や地球外生命体やらの話をずっとされて、それに一つ、一つ反応してたら終わる気配が無くて本当に疲れた


まだこいつ話す元気あんのかよ



「宇宙人らしき人影は、このドームの中から出てきて日向くんに気づいて慌てて走り去って行ったと」


「そうっす!」


「ん〜…でも特に変わった所は無いよね?」


「もう時間が経ち過ぎていて足跡も残っている筈は無いし、ね」



圭と栞は遊具に近づき地面などを調べるが、これといって不審な物は見当たらないようだ


他の遊具にもそんな物あるって事は無さそうだし。さて、どうする気なんかね



「やっぱりその見た時間に来て見ないと駄目かな…」


「オレは全然いっすよ!見に来ても」


「でもよ圭、流石に時間遅すぎんじゃねえの?」


「確かにね、補導を受けかねないし。娃川さん達は女の子だし危ないよね」


「ええ!?そりゃないっすよー!探してくれるって言ったじゃないすか!!」


「見に来るとは言ったけど探すとは言ってねえぞ」


「そんな〜!!お願いするっすよぉ!」


「…仕方ない。娃川さん達には家に居てもらって、僕達だけで今日見に来ようか」


「え!本当っすか!?圭くんさん!ありがとうございますっす!!」



マジか、優等生面の圭がそんな事言うとは

いやこいつ割と悪ノリするタイプだったか



「まじ?あの鏡本が非行少年になんの?」


「失礼だな。今回だけだよ」


「しゃーねーな、栞達は家居ろよ?」


「分かった。肇、鏡本くん気をつけてね」


「えーウチちょっと気になってたのにぃ…分かったぁ」


「何も無いよう、気をつけるよ」


「宇宙人より人に見つかる方が怖えーわ」


「人に見られるのが怖くて宇宙人探しできないっすよ!!ガンガン行こうぜっす!」


「日向、お前はもう少し自重してくれ」


「善処するっす!」


「日向くんそれって改善しない言い方…」



マジでキャラの濃い奴と関わっちまった…


本当に宇宙人なんていんのか?

いやでもドッペルゲンガーは確かに存在したからな、っつーことはマジでいるのか?


…もし何かあっても

宇宙人って物理効くよな?

とりあえずまあ、今は解散って事で。








そして深夜、俺達は公園の側で待機していた



少ないとはいえ街灯があるため、辺りはそんなに暗すぎる事は無い。興奮が抑えきれないと言った顔で日向が一眼レフカメラを構えて

今か今かと公園を監視する


それって暗い所でも撮れるやつなのか?

…撮れた所であの写真の腕の場合失敗するだけだな。日向の奴さては形から入るタイプか


てか、その背中のでかい鞄はまさかテニスラケットか?



「…特に異変は無いみたいだね」


「でもオレが見た時間はもう少し後っすよ」


「お前小声で喋れんじゃねえか」


「オレだっていつも五月蝿い訳じゃないっすよ…!宇宙人を吃驚させてしまったら申し訳なさすぎるっすから…!」


「分かった、分かったから落ち着け」


「それより日向くん、さっきから気になってたんだけどその鞄は?」


「ラケットっすよ。もし凶暴な宇宙人だったら危ないっすもん」


「ラケットで宇宙人と戦おうとすんな」



小声で叫ぶとかいう器用な事すんなよな

てかテニスラケットになんの期待してんだよ


…ん?何か光って



「おいあれ見ろよ」


「来たね。日向くんが見た光はあれかい?」


「そうっす!早速写真を…!」


「やめとけ音でバレるわ」


「一先ず少しづつ近づいてみよう」


「おう」


「了解っす」



俺達は物陰に隠れながら近づいて行く


光っている場所は確かにあのUFO型ドーム遊具だった、しかし公園内は身を隠せる物が無く公園の入り口前で立ち止まる事になる


こっからどうすっか…


その時、ドームから何かが出て来る

銀色をした人影。あれが宇宙人なのか?

光りすぎてあんま良く見えねえな…



「ほらー!宇宙人いるじゃないすか!」


「まだそうとは決まってねえだろ」


「…ここからだと少し遠すぎるね」


「で?どうすんだよ」


「決まってるじゃないすか!お話をお伺いするんすよ!何故地球に来ていて、何をしに来たのかを!」


「バカなのかお前」


「じゃあ捕まえるって事でいいかな」


「そうっす!」


「ってか、宇宙人って掴めんの?」


「人だから掴めるんじゃない?」


「適当だな…」


「じゃあ、行って来るっす!」


「いや、待て待て待て」



確かにすぐにでも確認したいけど段階があんだろ、何考えてんだこいつは


今にも飛び出しそうな日向を抑えていると、背後から誰かに声をかけられ驚く



「宇宙人見つかったの?」


「っは!!?川岸?お前何でいんだよ!?」


「来ちゃったの?川岸さん」


「だって気になっちゃったんだもん」


「だもん。じゃねーよ!女がなに一人で歩いて来てんだよ!?まさか栞まで来たんじゃ」


「いや?ウチだけだよ」


「ああー!肇くんさんが大きい声だすから宇宙人逃げちゃったじゃないすか!!」


「っやべ!何処行った!?」


「あっちに向かっているよ、追う?」


「待って下さいっす!」


「…日向くん、追いかけて行っちゃったけど?」



声をかけてきたのは川岸だった


家に居ろって言ったのに何で来たんだ!

終わったら絶対家まで送るからな!!

まずは宇宙人を追った日向に合流しねーと



「っ追うぞ!」


「川岸さん、離れないようにね」


「うん、分かってる…って麻倉はや!?」


「足速いからね肇は」


「もうあんな遠くに行っちゃった!」


「仕方ない、肇を追おう」


「宇宙人じゃなくて麻倉捕まえに来たみたいになってんじゃん!もー!」








宇宙人の癖して走って移動しやがって!

てか日向は何処行った!?


遠くの銀色を追いかける。

もう少し行けば行き止まりになる道がある

あそこに向かわせられれば…!


「っこの逃げやがって!待てやコラ!!」


「…!」


「肇くんさん!あ、宇宙人!やっと見つけたっすよー!」


「お前何で路地裏から、つか何処行ってたんだよ?追いかけてたんじゃねえのか?!」


「気付いたら変な道入ってたんすよー!」



お前まさか、方向音痴かよ!



「とにかく行くぞ!はぐれんなよ!」


「分かってるっすよー!」


「もう少しで行き止まりだ!そこまでアイツを追ってくぞ!」


「…!?」



何かを言いながら逃げる宇宙人を追う俺達、

暫く追いかけ続けていると、もうすぐ行き止まりに辿り着く。


よし…!その正体を見せやがれ宇宙人!!



「っの!宇宙人が!!」


「オレっすか?」


「ちげーわ!!」



暗がりの行き止まりに


スマホのライトを向ける


そこには








「ひぃ……!」



銀色のおっさんがいた



「は?」


「え?」



狼狽えるおっさん。


何だこいつ

アルミホイルみてーな服着やがって



「良く見たら全身タイツじゃねえか!!」


「そんなあ!?オレの宇宙人…!」


「私はただ宇宙人に憧れているだけの善良なおじさんだよ…!」


「もしもし、警察ですか」


「まっ待ってくれ!話を聞いてくれ!」


「肇くんさん、話だけでも聞いてあげましょうよ!宇宙人って言ってたし…!」


「宇宙人って言ってる奴を無条件に信じんなよ!」



どう見ても不審者だろうが!!


そして俺らに続き圭、川岸も合流する



「っや、やっと追いついた…!」


「肇、宇宙人は捕まえたの?」


「これのどこが宇宙人だよ。ある意味は宇宙人だけど」


「うわ!何このおじさん!?」


「凄い恰好だね」


「私はただ宇宙人になりたくてこの格好なだけだっ!そしてあわよくば仲間と間違えた宇宙人に攫われないかと期待してるだけで!」


「…警察呼ぶか」


「失礼だなっ!私は全裸で全身タイツを着るのが好きなだけで裸を見せたい訳ではないんだ!露出狂じゃないんだぞ!」


「変態じゃねえか」


「そうだね!いつかは宇宙人に変態したいと思っているよ!」


「何上手い事言ったみてえなドヤ顔してんだ、この変態野郎」



腹立つ顔しやがって何だこのおっさん…


ふと横を見ると日向が目をキラキラと輝かせながら目の前の変態に、何を考えているのか話しかけた



「…分かるっす!宇宙人は素晴らしいっすよね!」


「キミは…!分かる人なんだね!」


「はいっす!」


「やはり、あの無駄の無いフォルムに洗礼されたデザインの宇宙飛行船は素晴らしいものがある!宇宙のロマンを感じるよ!」


「オレもそう思うっす!!」


「…キミ!良かったら連絡先を教えてくれないか…!」


「勿論っすよ!」


「いやコラおい待て、不審者に個人情報をほいほい教えんな!」


「話が分かる子がいてとても嬉しいよ!」


「あなたもやはり宇宙人にアレされたいって事っすよね?」


「…まさか、キミもそう思うのか」


「アレって?何の話してんのこれ?」


「川岸さん、こっちに寄っていた方がいい」


「川岸、おっさんに近寄んなよ」


「せーので言いましょう…!」


「ああ…!きっと同じだからな…!」



何で俺こんなのに関わっちまったんだ…

とりあえず川岸には変態に近寄せないようにしといて、日向の次の行動を見る



「せーの…!」


「宇宙人を解剖して星に招待されたい」

「宇宙人に改造されて星に連れ去られたい」




「…はあ?」



…今、日向解剖って言ったか?


まて、今の地を這うようなドスの効いた声の主って…まさか


横を見る。日向の目が座っている



「…信じられねえ」


「…ひ、日向?お前どうした」


「解釈違いです」



解釈違い?



「なに宇宙人様の自らの手で改造されようとしてんだテメェは。宇宙人様はオレ達人間にそんなサービスする訳ねえだろうが。まずは宇宙人様の死体を解剖して構造を知り、自分の手で自分を改造してその後宇宙人様に仲間として認められて、宇宙人様直々に星に連れて行ってもらうんだろうが良い加減にしろ」



日向はそう吐き捨てるといつの間にか

手に持っていたラケットを振り上げる


って、待て!何してんだ!



「ひぃ!」


「待て、日向!落ち着け!」


「何かキャラ違くない!?」



良い加減にすんのはお前だ!


振り上げたテニスラケットを下ろせ!



「…、スー…いや失礼したっす」


「いやお前何ださっきの」


「解釈違いっすから」


「いや性格変わってただろ」


「そんなの気にしなくていいっすよ!」


「いや気にするだろ!?」


「豹変していたよね」


「いや何もないっすって!」



絶対なんかある。こいつ何なんだ本当!

今日は振り回されてばっかだ…



「あのう…私はもう行ってもよろしいでしょうか?」


「良い訳ないだろ」


「そうっすよ!…その厚かましい考え方を叩き直してやる」


「本当、何お前!?」


「とりあえず宇宙人の正体はこの人って事で良いのかな」


「だろうな。こんな奴二人もいてたまるか」


「そうっすよ!」


「お前は違う意味でだろ…で、おっさんは何であんな所にそんな格好でいたんだよ?」


「UFOがあったから…」


「ここまでグダってそんな理由かよ…」


「でもわざわざ光らせるなんて人に見つかりやすいようにして、良く今まで誰にも見つかりませんでしたね」


「 …光らせる、何を言っているんだ」


「いやライトか何かで眩しいくらい光らせてただろ」


「私はそんな事していないが」


「はあ?何言ってんだ」


「あのさー?話してるとこ悪いんだけど」


「どうしたの川岸さん」


「もう警察に通報しといたよ。変質者がいるって」


「え」


「良くやった川岸。警察来る前に俺らもずらかるぞ」


「そうだね」


「そんな、やめてくれと言ったのに…くそっ」


「おい逃げんなおっさん!」


「いいよ、放っておこう」


「オレはもう帰るっすね。はあ…宇宙人やっと見つけたと思ったのに」


「自由だなお前!」



突然来て最後は勝手に帰りやがって!




そしてこの事件はグダグダで終わった。

本当、宇宙人っていうあだ名がこんな似合う奴いるんだな…


何故か一緒に帰るのを遠慮した圭は川岸に良かったねと言ってから一人で帰って行った。


公園前での宣言通り、川岸を家へと送る事にした俺は川岸の家へと歩いていた。



「圭のやつ、何なんだよ…」


「……」


「おい川岸、離れて歩くな」


「!えっあ、ごめん」


「まったく…今回はただの変なおっさんで良かったけど、こんな夜中に女が危ねーぞ?」



いや変なおっさんも普通に考えて危ねえか。俺は横でそわそわする川岸を見ながらそう話かける



「…そうだよね!ごめん!次は絶対しないから!」


「ったく、つかお前良く警察に通報したな?あのままだったら通報しないで終わってそうだったのに」


「うん、だってパパが守るこの国を変なやつに変にされたくないからさ!」


「あ?パパが守る国?」


「ウチのパパ、警察なんだ!」


「まじか、すげえ!まさか警部とか?」


「警視総監だよ」


「は」


「警視総監」


「はあ!?」



は!?警視総監ってあの警察で一番偉いっていう…あの警視総監かよ!?そんな父親の娘がこんな夜中にウロチョロする馬鹿がいるか!!


って待て待て、母親はあの有名ブランドのデザイナーで、父親は警視総監…、川岸ってかなりの金持ちエリート家族じゃねえか!



「ばっかお前親父さんに何て言い訳すれば、こんな夜中に娘歩かせてて…!やべえマジどうなんの俺?捕まる?」


「そんな訳ないでしょ!何も無く家帰れば大丈夫だって!」


「本当お前気をつけろよ!何かあってからじゃ遅いんだからな!」


「分かってる、だからごめんって言ってるじゃん!」


「良く見たらここ金持ちしか家建ててねえ地域だし、ほんとお前ってやつは」


「もう大袈裟だって!あ、ウチの家ここなんだけど」


「うわあ、でけー家…」


「ていうか麻倉って家帰れんの?電車じゃなかった?」


「タクシーで帰るから大丈夫だよ…」



つか来る時もタクシーだったし

本当何でこんなどうでもいい事件に

金も労力も使ってんだ…

中学の時の俺、

小遣い貯金してくれてありがとう…



「え、本当に大丈夫なの?送らせちゃったしタクシー代出そうか?」


「大丈夫です…」


「何で敬語?」






タクシー代を出そうとする川岸にそれを断り

タクシーで帰り親に叱られ、遅い時間に風呂に入りそのまま寝た俺は、


次の日の朝に変なニュースを見る事になる



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る