第5話【ドッペルゲンガー】【2】
次の日、俺達は街に集合した
晴天だった昨日とは打って変わって、雨でも降るのではないのかというほど雲が分厚く、昼だというのに何処か暗い
今日は車がよく通り人が少ない。これなら探しやすいだろう
「集まっといてあれだけど、やべえな雨降んじゃねえか?」
「でも今日は晴れるって天気予報言ってたよ?家出てここに着くまでは晴れてたのに」
「まあ春は天気が変わりやすいからね」
「えー、ウチ傘持ってきてないのに」
「ま、降り出す前に終わらせようぜ。どうする?分かれて探すか?」
「そうだね。何かあった時の為にも男女二人ずつで別れようか」
「えー、しおりんとが良かったぁ」
「ごめんね川岸さん。じゃあ僕と娃川さん、肇と川岸さんにしよう」
「了解」
「私もそれでいいよ」
二手に分かれ探す事にし、俺と川岸は服やアクセサリーなどのブランドの店が立ち並ぶ道を歩いていた
そんなに知らない奴と歩くのも気まずいよな…
男ならまだ良いけど女はあんま何考えてるか分かんねえし、と考えながらも黙って歩いていると川岸の方から話しかけてきた
「ねえ、麻倉ってしおりんと付き合ってんの?」
「付き合ってねえよ、栞とはただの幼馴染だ」
「ふーん?まあ、しおりんにはもっとイケメンの彼氏がいいと思うから別に良いけどー」
「おい?それって俺が不細工って言ってねえか?」
「じょーだんじゃん、そんなブスじゃないって。普通くらいじゃない?」
「てか何でそう思ったんだよ」
「だって、距離近すぎじゃない?幼馴染だからって女の子にあんな近づくのウチ良くないと思うなあ」
「別に近くねえだろ。普通だ普通。」
「……普通かぁ」
「あ?どうした?」
「っ別にぃ?何もない」
普通に会話をしていた川岸の様子が少し変な気がした。だが本人が何もないというのなら別に気にしなくてもいいのだろう
「つか、お前ら仲良くなんの早えな」
「えー?これくらい普通でしょ?」
「まあ普通かは知らねえけど川岸はコミュ力ありそうだもんな。そりゃすぐ仲良くなるわ」
「そう見える?ふーん」
「それにしても、ドッペルゲンガー見つかんねえな?本当にいんのか?」
「いるって!ウチのフリして学校にまで、来…て」
そう会話をしていると前方から学校で見た事のある派手な女子二人組が歩いてくるのが見えた。何やら話しながらブランドのショップ袋を持ち楽しげにしている。すると横にいた川岸の様子がおかしくなった
「あれ?菊子じゃん男連れて何?デート?」
「やば、会っちゃった。買い物行くから誘わないでおいたのに」
「…そっちこそ、お金無いって言ってたのに何で」
「はー、もうめんど。いい財布だと思ってたのに」
「あれ?いいの?ネタバラシして」
「いーよもう。あのね誰もアンタ何かと仲良くしたいって奴はいないの!友達ゴッコして夢見させてやったんだから感謝してよね」
「っ…知ってたよ、二人がウチの事良く、思ってないの」
「知っててあたしらと居たの?ドMかよ」
「友達だと思ってたから、だからウチ…」
「あー、中学の時友達いなかったんだっけ?っは、マジウケる。アンタなんかとただで友達になるかよ普通」
「っ!別にアンタ達みたいな奴なんかと友達になりたかった訳じゃない!もっと…もっとお姉ちゃんの時みたいに」
「でた。お姉ちゃん!アンタ生まれる時代間違えたんじゃない?その格好時代遅れだっつーの。マジでダサくて恥ずかしかったのに隣歩いてやってたあたしらにお礼はないの?」
「それなー!」
突然の事すぎて頭に入らない、だが川岸に何かこいつらが聞き苦しい言葉で酷いことを言っているのは分かった。歪んだ顔で馬鹿みたいに笑う女二人。
だけど隣の川岸は辛そうな顔をして、それでも目の前の奴らに言い返してた。
黙って聞いていれば、こいつら
「おい!お前ら何なんだよ」
「あ?何カレシさんってか災難だね、この女この前別の男と歩いてたよ?浮気されてんじゃん。カワイソー!」
「そんなんどうでもいいわ。俺は彼氏じゃねえよ」
「あは、フラれてんじゃん菊子」
「だからウチ、そんなの知らない」
「知らねー訳ねーだろ、この男好きが!あたしの彼氏あんたが好きだからってあたしの事フッたんだぞ。どうせあんたがその頭の悪い格好して、たぶらかしたんでしょ?悪いとは思わねーのかよ!?」
「だから知らないってば!」
「おい、何だよその言い分は。川岸がお前らに何やったって言うんだよ」
「はあ?何やったって、人の男奪っといてヘラヘラしてる女に怒って何が悪いの?お金出してくれるから許してやってたのに」
「明らかにお前らの方が悪いじゃねえか、そんなに金欲しけりゃバイトでもしてろよ。川岸に金返せ」
「てか、この女の何処がいいの?顔は良いけど性格ブスじゃん。お姉ちゃんだかの真似してそんな格好して馬鹿みたいだし、自分の事ウチって言うのもマジでイタいし」
「自分の事をウチって言うのが何悪いんだよ、一人称くらい好きにさせろよ。自分の事くらい自分でどうしたいか決める事の何がいけねーっつうんだよ」
「はあ?意味わかんない」
「ねえ、もう行こ」
「おい待てよ!…チッ逃げやがった」
何なんだアイツらは!
逃げる様にその場を去る二人にまだ言いたい事はあったが言えず、隣で俯く川岸に俺は声をかけるか悩みながらも話しかけた
「おい気にすんなよ川岸。男と歩いてたってやつもドッペルゲンガーの仕業なんだろ?」
「…ウチだって、ただ普通に友達が欲しかっただけなのに」
「あんなの友達じゃねえだろ」
「この格好、皆変って言う。菊子って名前だって古臭くてオバサンみたい、何で、ウチ…普通じゃないのかな」
「名前が古臭いだあ?お前、親のつけてくれた名前に文句いうな。変な名前じゃねえ限りその名前は大事な意味でつけられた大切な名前だ。家帰って親に名前の由来でも聞いとけよ」
「…ウチお姉ちゃんがいるの。世界で一番カワイイお姉ちゃん、ウチは…ただ、…お姉ちゃんになりたかっただけなのに」
「お前が姉ちゃんが好きなのは分かったよ。でもお前はお前の姉ちゃんじゃねえぞ、川岸は川岸なんだから自分の好きにしろ」
「…好きな事なんてわかんない、…分かんないっ!」
「おい川岸!」
川岸は声を荒げ、呼び止める声も聞かずに走り出してしまった。すぐに追いかけるが見失ってしまい、辺りを見渡してみても何処にも見当たらない
仕方ねえ、一人にはできねえし栞達に連絡して見つけたら川岸と合流してもらうか
俺はスマホを取り出し栞に電話をしながら川岸を探す
『もしもし? どうしたの?』
「栞、そっちは何か見つかったか?」
『ううん、こっちは何も無いけど』
「川岸とはぐれた。もし見つけたら合流しといてくれ」
『えっうん分かった!』
電話を切る。ったくドッペルゲンガーも探さなきゃなんねえのにどうすんだよ
広場、店の中、駅、思いつく所を手当たり次第に探すが見つからない。どうするか、トイレ…は流石に確認できねえし
「何処に行ったんだよ、川岸のやつ」
暫くすると、最初に探した広場のベンチに探していた人物が座っていた。
川岸はこちらに気づくと笑顔を浮かべ、明るく声を掛けてくる。先程の事が嘘のようだ
「あ!麻倉、さっきはごめんね。怒鳴っちゃって…うちの事嫌いになった?」
「いや、別に気にしてねえよ。それよりお前大丈夫か?あんな奴らの言う事気にすんなよ?」
「うん!ありがとっ…ねえさっきのお詫びにさ、今度デートしてあげる。しおりん…あんな女よりも、うちの方が可愛いでしょ?」
「っはあ?何言ってんだ、別に俺はいい」
「え〜?遠慮しなくていいよ?麻倉、よく見ると格好いいから仲良くしたかったんだ〜」
川岸は頬を赤らめ、こちらを見ながら俺の腕にしなだれかかり、突然そんな事を言い出す。
何だ…?何か、何かが変な気が
何だ、こいつ?
とりあえず、このままだと移動がしづらい。
離してもらおう
「おい、ちょっと離せ。ったく急にいなくなって何なんだよ」
「もう!恥ずかしがっちゃって…」
腕に絡みつく手を外し、川岸を見る。
どう見ても川岸だ。頬を膨らましながら上目遣いで俺を見上げている、…気のせいか。見つかった事だし栞たちにもう探さなくていい事を伝えるか。そう思っていると、栞から電話がかかってきた
「もしもし?」
『肇!今何処いるの?』
「何処って広場だけど。あ、川岸見たかったからもう大丈夫だぞ?」
『? 何言ってるの?菊子ちゃん此処にいるけど』
「は」
『ねえ、何かあったの?菊子ちゃん何かずっと辛そうで心配だよ、早く合流しよ。……もしもし? もしもし肇?』
なに、いって…じゃあ 横にいるのは…
「誰だ、お前」
川岸が無表情で此方を見ていた
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