第3話【重なる世界、変化】
栞は険しい顔で語り出す
「肇は高校三年生までのどれかの6月16日に必ずホームから落ちて電車に轢かれるの」
「何だって?俺が…?じゃあ何であんなに急いで俺を連れて帰ろうとしたんだ?そういう事なら俺は電車に乗らない方がよかったんだろ?」
微かに何か驚きながら栞は話を続ける
「結局肇は帰る為に電車に乗ろうとするから私が見ていられる時にしたかった、三年生の
6月16日の時は家の事情で私は早く家に着いてないと行けなかったから。あの時間帯しかなかったの、心配してくれてたのにそっけなくしてごめん…」
「そう、だったのか」
「じゃあ、その日だけ学校を休ませるのは?試したの?」
「試した。でも何故か電車に乗らないといけない理由ができて肇は絶対駅に行っちゃうし、何より電車は死因の一つでしかなかったの」
「と、言うと?」
「電車の事故をなんとか回避しても、あの火事は、文化祭の火事だけは絶対に回避できなかった」
「文化祭の火事?そんなの無かっただろ」
「前の世界はまだ、ね」
「まだって、確かに文化祭は11月で当分先だったけど」
「電車の事件を回避した年、必ず文化祭で火事が起こる。その火事だけは何故か絶対回避できない」
「そうなるなら、文化祭を休めば」
「私だってそんなのすぐ思いついたよ、でも学校に行かなければいい訳じゃなかった。その日、肇が居る場所が必ず火事になる。例え他の人が皆無事でも肇だけは絶対に死んじゃう…何度も、何度も助けようとしたのに…!」
「は、っだったら俺にその事を言ってくれれば!」
「言えなかったの!誰かにこの事を言おうとすると心臓が耐えられないくらい痛くなるから誰にも伝えられなかった、それに言ったところで信じてもらえないでしょ?!」
「っそれは、そうかも知れなかったけどよ、でも…」
「たしかに信じ難い事ではあるね。でも今回、僕達には話す事ができている。何故?」
「それは本当に分からない、私が一番驚いてる。肇が前回の事を覚えていたり、今まで無かった出来事が沢山起きてる、一体どうして…?」
何で?本当なのか、覚えていないだけで俺は何度も死んでいた…?でもじゃあなんで今回は俺じゃなくて栞がホームから落ちたんだ?
「肇が必ず死んでしまうのはわかった。言わなかった理由もね。じゃあ何故今回は娃川さんがホームから転落したんだい?」
「それも…私には分からないの。こんな事
一度だって無かったのに」
「なるほど、分かる事だけでいいからもう少し詳しく言える?」
「うん」
圭がそう言うと栞は事細やかに話した
栞の話をまとめると
一、俺は高校の三年間の6月16日、電車に轢かれる
一応回避する事は可能らしく、今までに三回だけ回避できた
二、電車を回避した年の文化祭の日に火事が起きる
たとえ文化祭に行かなくしても、その時俺が居る別の場所で必ず火事が起こり俺だけ助からない。三回とも火事に巻き込まれて俺は死んだ
三、俺が死ぬと、この日に強制的に戻る
俺が死ぬと同時に栞は入学初日の今日に戻り全てが無かった事になる。そして何度もこの出来事を繰り返していた
四、誰かにこの事を言おうとすると心臓に激痛が襲う
一度無理をしてでも言おうとしたが、強制的に過去に戻ってしまって誰かに相談する事ができなかった
五、栞以外世界が繰り返されてる事を知らない
誰か他にこの出来事を少しでも覚えている人がいるか、探してみたが今まで誰一人として覚えていなかった
栞の話を聞いた圭は数秒目を瞑って何か考えた後、徐に口を開いた
「世界の修正行動か」
「修正行動?」
「娃川さんは何度も未来を変えようとした。しかし変えた先から新しい未来によって肇は死んでしまう」
「だけど今回死にかけたのは俺じゃなくて栞だぞ」
「…ねえ、娃川さん。一度でも他に肇と一緒に死んだ事はある?」
「私自身、死ぬのは今回が初めてだけど…どうして?」
「だとしたらそれが原因か、異変、いや変化か」
「おい圭つまり何が言いたいんだよ?」
「前回の世界で変化したのかもしれない」
「どういう事だ?」
「肇に起こる筈だった事が娃川さんに起きた。つまり娃川さんが死ぬ世界があったという事」
「…私が死ぬ世界」
「並行世界ってやつだね。肇が死ぬ世界線と娃川さんの死ぬ世界線が、何かによって重なっている状態に変化し一つになり、その一つになった世界で二人同時に死ぬ事により二人共記憶を保持した状態で次に来れたんじゃないかな。いや、もしかしたら因果が逆かもしれない」
「二つの世界が一つになった…逆?」
「これは僕の仮説だけど、記憶を次に受け継ぐ方法は相手の死だと思う。肇が死ぬと娃川さんが記憶を保ったまま次の世界になる世界線、娃川さんが死ぬと肇が記憶を保ったまま次の世界になる世界線。別の世界だった二つの世界が、お互い別の世界線で起こる筈だった出来事が同時に起こる事によって一つの世界線に変化したって事だと思う。いわゆる卵が先か鶏が先かってやつだよ」
「何か複雑すぎて分かんねえ…」
つまりは一つの世界になったから二人共死んだんじゃなくて、二人共死んだから一つになったって事か?意味はあんま変わんねえ気もするけど…あー!わかんねえ!
「でもそうなると一つ懸念があるね」
「懸念?」
「うん。娃川さんの世界で起きた出来事は分かっても、もう一つの肇の世界で起きた出来事は何一つ分からない。つまり今回何が起きるか予測がつかないって事だよ」
「前の世界で起きなかった出来事も起こるかもって事だよね?」
「そういう事」
「ってなるとどうすれば良いんだよ?」
「そうだなー…そうだ、このループ現象を調べて回る為に僕達で部活動を創設しよう」
「…おい、まさかその部活の名前って」
「超常現象解明部というのはどうだろう?」
「お前…変わらないな」
「鏡本くん、毎回同じ名前付けるよね…」
「あれ?前の僕も同じ名前付けてたの?じゃあ運命だね、これに決定しよう」
「鏡本くんって絶対部活作るんだよなー…」
「前も圭が突然部活やるって言い出してほぼ無理矢理俺らを部員にしたもんな」
「へえ、そうなんだ」
「へえそうなんだって、お前なあ」
「まあ良いじゃない、肇たちも前と同じ方が安心するだろ?」
「鏡本くんって意外と強情っていうか…」
「お前もたまにそういう所あるから人の事言えないぞ」
「そんな事ないし!」
「ははっ、自覚してねえだけだろ。…まあ部活やるとしてとりあえずこれから何するか決めるか」
顔色の一つも変えないで突然提案して勝手に進め決定する圭。前とまったく変わらない圭の様子に、先程まで張り詰めていた空気は穏やかになり会話を終えた俺達は今後のやるべき事を決めておく事にした
「一つ言えることは6月16日の電車の事故が起こるのが今年なのかそれとも来年、再来年なのか。それによって文化祭の火事が起こるかが決まるんだろう?兎にも角にもそれを回避しない事には何とも言えないね。次の僕がまた君達を信じるかも分からないし、肇が記憶をもったまま次に行けるとも限らない」
「私の記憶だと6月16日までは特に何も起きなかったよ」
「じゃあ6月までは調べ物しても大丈夫そうだな」
「まあ用心しておくに越したことはないから肇、気をつけてね。娃川さんも」
「ああ。分かってるよ」
「うん、ありがとう。気をつけるね」
その後分かれ教室に戻り下校した俺達は再び集合して帰路についていた。夏前の雨の湿気が漂っていた筈の景色は心地よい暖かさで桜が咲き誇り、舞う蝶達が春である事を告げる
駅まで向かうまでの間、気になっていた事を聞いてみる事にし斜め前を歩く圭に問いかけると圭はこちらを見ずに返してくれた
「何で俺らの話を信じてくれたんだ?自分で言うのもなんだけどマジで嘘臭い話だろ?」
「最初に言っただろ、そういう現象に興味があるって。話を聞いてみたら作り話にしては凝りすぎだし。実際娃川さんに会ってみたら嘘ついてる様には見えなかったし、まあ理由は色々あるけど何となくかな」
「何となくねえ…まあ信じてもらえんなら嬉しいけどよ」
「でも最初から鏡本くんと仲良くするのって初めてだから何だか新鮮だな」
「確かに、俺は入学してから割とすぐに仲良くなった気がするけど栞は圭と知り合うの結構遅くて夏休み終わりだったよな」
「うん。いつも大体6月の始まりだったから前は遅めだったかも」
「一応起こる出来事が毎回少し違うんだね」
「うん。でも絶対部活はやってた!鏡本くんが言ってたみたいに運命かもね!」
「そうだ圭、部活やるにしてもどうやって許可得るんだよ?俺らまだ一年で、そんな簡単にやらせてもらえないだろ?」
「何とかするよ、任せて。…じゃあ僕こっちの道だから」
いつの間にか駅の前に着いていた俺達はそのまま分かれ、それから俺達は各々ループの原因、何故記憶が残っているのかを調べながら学校生活を始めた
ループの原因も分からないまま日にちが過ぎ、ある日圭がどうやって許可を得たのか部活動を始められる事になったのはつい先日の事だ。部室のドアに大きく超常現象解明部と書かれた紙がガムテープで雑に貼られていて、その下に小さく超常現象募集中と書いてある。
圭にどうやって許可を得たのかを聞くと
「最初は断られたよ。担任にはね特に無くてもいい部だし、でも女の人の先生が話を聞いてくれてしっかり目を見てお願いしたら部室になる予定の部屋を自分達で掃除するならいいよってOKしてくれたんだ。優しい先生でよかったよ」
つまり顔じゃねえか
目の前の涼しげな顔を憎たらしく思いながら部室となったこの部屋で様々なファイル、本を広げ三人で調べ物をしていた
「顔が良い奴はいいよなー」
「肇だって別に顔悪くないと思うけど、ねえ娃川さん」
「ぅえ!?あっそうだね!目は悪くないと思う!目はね!?」
「それ目以外のパーツは悪いって言ってないか栞?」
本当に顔が良いやつって褒められる事に慣れてるからか謙遜しないよなと思いながらジト目で見ていると、圭に声をかけられた栞は突然話しかけられて驚いたのか手に持っていた本を落としかけて俺の目だけを褒める。
「まあいいじゃん!そうだ!そういえば、ねえ鏡本くん。ドアの紙に超常現象募集中って書いてあったけど…」
「ああ、情報収集の為にね。情報を集めるのに誰か心当たりがないかと思ってループの事は書かずにただそういった現象を探してるって事にして入口の紙とポスターに書いておいたんだ。ループなんて書いちゃったら胡散臭いだろうし」
「圭が信じてくれたのが奇跡だからな、でもこんな訳の分かんない部に人なんて来るか?」
「先生に許可を貰ってクラス掲示板とかにもポスター貼ったし誰かしらは来るよ、多分ね」
「お前、本当にそういう所適当なの止めろよ…」
「ふふっ前の僕と同じかな?だとしたら嬉しいね」
「顔変わらないで笑わられるのも同じだよ」
「この会話の感じもね!」
そんなふうに三人で話していると、ノックの音がする。
おい本当に誰か来たぞ…
ドアを見るともう既に開いており、ノックの主が立っていた
「ねー、話してるとこ悪いんだけど超解部ってここー?変な事があったら相談しに来て良いってポスター見たんだけど?」
色素の薄い髪を巻いて手に紙パックのミルクティーを持ち短いスカートに伸ばしたリボン、メンズ物のカーディガンを着た少し前の時代に流行ったようなギャルが立っていた。
「何があったのか聞いても良いかな?」
「もう一人のウチを見つけてくんない?」
もう一人の、自分?
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