第2話【タイムスリップ】





真っ暗だ、何処までも続く暗闇に前後不覚の俺は何処を向いてるか分からない。あれからどうなったんだ、運良く助かったのだろうか…いやあの状況は無事に済む筈がない


では俺は死んだのか?栞は?


痛みはない。まさか此処があの世とでもいうのだろうか



(……ら………くら……)



何処からか声が聞こえる。意識を声に集中すると俺は



(……………さ倉…麻倉!」


……


「っ!!!!?」



大きく音を立てて椅子から倒れ腰を打つ

ぶつけた箇所に痛みが走る。


さっきまで確かに駅のホームにいた筈

そして電車に…、栞を助ける事はできたのか?


そんな事を考えながら周囲を確認するとどうやらここは教室のようだ。見慣れた景色、生徒…でも何か違和感を感じる



「麻倉肇、通学初日から居眠りなんて肝が据わってるな」


「え、初日…?居眠り?俺は確かに電車に轢かれて…!」


「何寝ぼけてるんだ。まったくどんな夢みてたんだ…」


「は、ゆめ……」


「やばー!ウケる!」



そんな言葉を皮切りにクラスメイトが皆笑い出す

だがそのクラスメイト達に違和感がする。

こんな奴クラスにいたか?

いや待て、確か一年の時いた様な…

混乱しながらも椅子に座り直した俺は考える


なんだ…?何が起きてるんだ?



「寝ていた奴も起きた事だしもう一度言うぞー…」



先生を見て異変に気づく、俺のクラスは女の先生だ。二年の時も女の人でこのおとこだったのは一年の時だけだ…


夢か?いやさっき打った腰がまだ痛む。痛みを感じるということは夢ではない、走馬灯か?だけど一年の時俺は椅子から落ちるなんて事はなかった…


その時ある可能性を思いつく

いやでもそんな訳…


…過去に戻っている?


まさか、でもそれ以外に他が無い。


栞は生きてるのか?確認したいが確か1年の時は栞とはクラスが違った。

そうだ…!圭は!?圭とは確か同じクラスで、どうやって仲が良くなったんだっけ…

上手く思い出せない、圭から話しかけてきた気がする


先生の話が耳を通り過ぎていく。

今は現状を把握するので精一杯で頭に入ってこない



「…という事だ。他に分からない事があったり質問がある場合は後でまた聞きにくる様に、後は適当にコミュニケーションして仲良くしろよー」



どうやら頭の中を整理しようとしてる間に話は終わったようだ。まだ混乱する頭で思考する、確か入学初日は授業は無く自己紹介をして生徒同士で会話するだけで昼には下校した筈、ならやる事は決まってる。早く終わらせて栞を見に行こう



「ねえ君、肇くんだよね」



席を立とうとした時

俺の机の前に立ち、話しかけてきたよく知った声に顔を上げる。女子が頬を赤らめてヒソヒソと会話をしながらその人物を見ている。そこには口元に笑みを浮かべた圭が立っていた


やっぱりお前だったか。

そういえば、こうやって話しかけられたな。

見慣れた姿が安心する

でも初対面の筈の圭はまだ俺の名前を知らない筈、何で知ってるんだ?



「何で俺の名前知ってるんだ?」


「何でって知ってるからね」


「…は?」



知ってる?

まさか圭も過去に戻ってきてるのか!?

だとしたら俺にとってつい先程起きたばかりの今の状況を話したい。圭はそういった現象に詳しいから、と思っていると圭は話を続ける



「…ふふっ何驚いた顔してるの、さっき自己紹介したばかりじゃないか。僕の名前だって聞いてただろ?」


「え…ああ、そうだった…のか?」



どうやらとんだ思い過ごしのようだ、圭はどこか呆れたような笑みを浮かべている。と言っても圭は基本ほぼ無表情の為…笑うと言っても口角が少し上がるくらいだが


意識が戻る前に自己紹介が終わっていたみたいで、お互い名前を知っている状態らしい、ならばどちらにせよ前も友達であった圭とは仲良くしたい。現状をようやく理解してきた


何とか今の状況を伝えて助力を仰ごう

まずは話を切り出して…



「肇くん自己紹介が終わった途端に寝出すんだもん、だから何だか気になっちゃって」


「そうだったのか、呼び捨てでいいよ。

…なあ圭、突然だけどお前超常現象には詳しいか?」


「そう?じゃあそうするよ。それにしても唐突だねえ、別にいいけど…まあそうだねある程度詳しいつもりだよ」


「タイムスリップって信じるか?」


「タイムスリップ?そうだなー…まあ内容によるね」


「変な事言うけど、俺にとっては現実なんだ…聞いてくれるか?」


「…いいよ。言ってみて」


「今さっき死んだ筈の未来から此処に戻ってたって言ったらどうする?」


「…ふうん、面白いね」



普段呼び捨てだった友人からのくん付に慣れずに訂正して、とりあえずこの話を早く聞いてほしく率直に問いかけてみると圭は目を少し細めてこちらを見る。やはり簡単には信じてくれないのかと思っていると圭は周りを軽く見渡し俺に告げる



「もっと詳しく聞きたいけど場所を変えようか。ここだと目線が気になるし、君も入学早々虚言癖があるなんて思われたくないだろ?」


「…そうする」



先程圭を見ていた女子達が俺を見ながら中二病?などと怪訝な顔で会話しているのが聞こえる。確かにこれ以上ここで会話を続けるといい事がなさそうな為、圭の提案通り教室を出る事にした。




教室を出た後

通い慣れた場所に行き、入る


ここは超解部の部室だったところだ。埃を被ったソファと横に寄せられた棚に椅子と机…最初は物置のかわりに使われて放置されていたんだった。俺にとってはついさっきまで綺麗に掃除され使用していた筈の部屋だ



さて、タイムスリップなんて普通信じねえぞ…

どう説明しようかと悩んでいると圭の方から話しかけてきた



「で、肇はいつから来たの?」


「! 信じてくれるのか…!?」


「とりあえずはね。嘘をつく理由は無いだろうし、詳しく話を聞くって言ったじゃないか」


「圭…!ありがとう、信じてくれて」


「ただ話を聞くだけなんだからお礼はいいよ。立って話すのもなんだし座ろうか」



圭はそう言うと壁側に近づき置いてあった二つの椅子の埃を雑に払うと座り、俺にもう一つの椅子に目線を送り座るよう促した。そのまま俺も椅子に座ると自分に起きた出来事を語る。圭は突拍子もない話に否定をせず、ただ静かに聞いてくれた



「なるほどね、つまり君は何やら様子のおかしかった幼馴染の娃川さんと一緒に帰宅する際に電車によって二人共事故死した…そして気がついたら教室に居たってことだね?」


「そうだ、本当に何が何だか…」


「まずはその娃川さんに会ってみよう。

…いや、少しここで待ってみようか」


「何でだ?」


「肇の話によるとここは僕達が部活動をしていた部屋なんだろ?だったらもし彼女が覚えていて君を探しに行き教室に君が居なかったら、次に探しに来るのは……」



圭がそう話しているのを遮る様に音を立ててドアが開いた。



「…ここにいた…何で、教室にいる筈だったのに…」


「栞…!」



そこには汗を滲ませ困惑した顔をした栞が立っていた。

俺は椅子から慌てて立ち上がり栞に駆け寄る



「栞!大丈夫か!?怪我は…!?いや過去だから無いのか…」


「過去って…まさか肇、覚えてるの!?」


「ああ!その様子だと栞もだろ!?なあ一体何が起きてるんだ?」


「そんな、今までこんな事なかった…」


「…今まで?何の事だ?」


「どう言う事なの…あの時ホームから落ちるのは私じゃなくて…上手くいけば後は火事さえ何とかすれば…」


「栞?火事って、一体何の話して、」



栞も記憶があるみたいだ

でも様子がおかしい

何か考え込みながらぶつぶつと小声で呟く。

そんな俺達を黙って見ていた圭が口を開く



「とりあえず落ち着いて座って話そうよ」



圭はそう言いながら立ち上がりもう一つ椅子の埃を払うと栞に座らせて戻る。俺も座り直して栞の方を向き話を続ける



「鏡本くん、まさか鏡本くんも前の記憶があるの?」


「何の事かな」


「栞、圭は覚えてない。お前は覚えてるんだろ?」


「うん…覚えてるけど」


「けど?」


「多分肇とは少し、違うから」


「違うって何が?」


「…過去に戻るの初めてじゃないから。私、

今回で九回目なの」


「何だって?」


「…面白いね。タイムスリップじゃなくてループなのか」


「ループって、つまり俺達は繰り返してるって事か?」



「そう、あの時ホームに落ちる筈だったのは私じゃなくて肇だった」



「は…俺が…?」




栞はそう言うと、自身に起きた事を語り出した


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