超常現象解明部【はじめから】
猫田一葵
第1話 【はじめから】
超常現象解明部。略して超解部
その名の通りメリーさんや口裂け女といった怪談じみたオカルトな都市伝説などの超常現象を解明する為高校三年生で同級生の
その超解部の部員である俺、
部活動と言っても解明する必要がある事がない為、実際はネットで調べた嘘か本当かも区別がつかないただの噂を会話のネタにぐだぐだして各々過ごすだけになっている
「なー、今日も結局何にもやらねーで終わったじゃねーかこれで良く廃部になんねーな活動らしい活動してないだろ」
毎日何も変わらない日常に退屈になりながら綺麗に整頓された棚から適当な本を手に取り流し読みをしつつ部室の片隅にある椅子に
だらしなく座る
間延びした言い方で少し離れた場所にいる圭に話しかけると圭は操作するノートパソコンから目を離さずに口を開く
「失礼だな、僕はちゃんと部活動してたよ何もやってないのは肇だけだろ?今だって色々調べてたよ目新しいのは無いけどね」
「何もしてなくて悪かったな。で?何見てたんだ?」
「並行世界、まあパラレルワールドの事だね」
「パラレルワールドねぇ…どんな内容が出てきたんだ?」
「もし本当にパラレルワールドが存在するのならタイムスリップも可能って事とか」
「何でそこでタイムスリップが出てくんだよ」
圭は高校になってからできた友達で、いつだったか突然部活動をやると言い出し部を設立するにあたって部員数が最低三人は必要だった為に幼馴染共々ほぼ無理矢理入れられたのだった。
それでも何だかんだ今の今まで仲良くしている男子だ
癖のない少し長めの黒髪はさらりとしていて顔もクラスの女子達が騒ぎ立てるくらいには整っている、これで頭もいいとくるから天は二物を与えずと言った言葉は嘘だったのかも知れない。欠点といった欠点は表情があまり変わらないくらいか
椅子から立ち上がった俺は圭に近づき圭の操作するノートパソコンを覗き込みながら問いかけると、圭は自身の耳を触りながら呆れた様に微かに笑い話し出す
「肇ー?わかんない?超解部に所属してるくせに」
「うっせ、そもそもお前が無理矢理入れたんだろうが」
「そうだっけ?まあ良いじゃないか。こうして仲良くやってるし、…色んな意見があるけど僕の考えだと、仮に過去に戻れたとする。
その時過去に戻った自分と戻らなかった自分が存在する事になって、その場合二つの世界ができる事になる。これが並行世界…って思ってる。だから逆に並行世界が存在しない限り、過去に戻るとかのタイムスリップはできないって事になるんじゃないかな。僕的にはもしもの世界があっても良いと思うけど…まだ理論上は過去に戻る方法は判明してないらしいよ未来に行くのは例外として」
圭は疑問に思ったり、そうだと思った事はすぐに口に出す奴だ。そういう理屈っぽい所もあるが人の事を考えないって事はない奴で、雰囲気も相まって知的な印象を受ける
意外と忘れっぽいのか
良く自分の言った事を忘れやすい所がある
「お前なんかその辺適当って言うか何と言うか…そういう所あるよな…まあいいや。二つの世界ねえ、何で未来は例外なんだ?」
「あれ、今日の肇は珍しく興味持ってくれるね?沢山質問してくれるじゃないか。何で未来が例外かっていうと相対性理論って言う光の速さで移動すると…」
俺が圭に質問するとあまり変わらない表情で嬉しそうにした圭が問いに答えようとした時、大きく音を立ててドアが開いた。
二人して何事かと顔をドアの方に向けると
部室に入ってきたのは肇の幼馴染である超解部の部員
彼女は幼稚園に入る前からの仲で親同士も仲が良い事もあって良く二人で遊んでいた兄妹のような関係だ。長い黒髪に透き通るような肌、容姿も良く一見大和撫子のようにみえるが割と大雑把な所もあり俺はとんだ偽撫子と思っている
元々落ち着きのない性格をしているが何やら今日は様子がおかしかった。
腰まで伸びた綺麗な髪を揺らし、
酷く慌てた様子で栞は俺に詰め寄った
「肇!やっと見つけた…!何で部室にいるの!?早く帰んないと…!」
「何でって部活だからだろうが何そんなに慌ててるんだよ」
「いいから!早く帰るの!」
「はいはい…圭、俺ら帰るけどお前どうする?」
「…何だか急いでるみたいだから先帰っていいよ、片付けもあるしね。それに二人の邪魔しちゃ悪いし」
「片付けってお前そんなに物出してねえじゃん…つか栞とはそういう関係じゃねえよ。
まったく、まあいいや。じゃあそう言う事なら先帰るわ また明日な」
「うん。またね」
「肇早く!」
「分かった、分かったから引っ張んなよ」
俺に詰め寄った栞は何かに焦りながら急かした。そんな栞を見た圭は特に表情を変える事もなく俺達に先に帰るのを促し、
部室から出るのを見送って一人部室に残り
ドアが閉まった。
6月。昼間に少し雨が降った事もありじめつく空気に少し高い気温が重なり制服のシャツが肌に張り付き嫌な気持ちにさせる
部室を去った後二人で真っ直ぐに駅へと向かっていた。学校を出てから一言も話さず、どこか思い詰めたような表情で早足で少し先を歩く栞に疑問に思いながら俺は口を開いた
「で、急いでる理由を言えよ」
「…絶対見たいドラマがあって」
「誤魔化すな、何かあったのか?」
「まあ何だっていいでしょ」
「はぁ…わかった早く帰ればいいんだろ?」
「………」
何故か理由を話さない事に気になりながらも険しい顔をした栞にそれ以上聞くのをやめた俺はただ歩く足を早めた。
思えば高校に入学してから栞はこの時期になるとこうなる気がする。去年も挙動不審に俺を横目に見ながら電車を待って何事もなく家に帰ると次の日には昨日の事が嘘のように普通に戻っていたような…
今年こそは何がしたいのかを聞き出そうと決意した時、駅に着いていた。
改札に向かっている栞に意を決して話しかける
「栞。なあ本当にどうした?何かあるなら話聞…」
「何もない大丈夫だからほっといて」
そわそわと落ち着かない栞に聞き出そうとするが栞は言葉を遮り棘のある言い方で返す。いつもだったら気にしない、なのに今日は何故だか無性に腹が立った俺は苛つきながら返す
「おい人が心配してんのにそれはないだろ」
「肇は気にしなくていいの」
「っ、あーそうかよもう何も聞かねえよ」
「……」
「黙りかよ、困ったらいつもそれだな。はあ…先ホーム行ってろトイレ行ってくる」
「…ぇ! まっ………!」
何をそんな急いでいるのかも言わずただ急かされたからか、いつもだったら何とも思わない言い方に苛ついた俺は何かを警戒するように辺りを見渡す栞にそう言うとその場を離れた。
トイレに着き、頭を冷やす為に用を足す訳でもなく個室に入った。
「……なんで何も言わないんだよ」
吐き捨てるように小声でそう呟いた後、
思考する
ここ二年間、栞は夏前のこの時期に様子がおかしくなる。何か用事があるのなら俺を置いて先に帰ればいいだけだ。じゃあ俺と帰らないといけない理由があるのか?だったら訳を言えよ。
栞は人に相談する事を知らない、何かに深く悩んでいても何度しつこく聞いても本当に苦しくなった時にしか相談してこない。だからかもしれない。
多分俺はそれに腹を立てている
また何か抱え込んでるのか、まったくそんな奴に腹を立てている自分が馬鹿らしい。ならさっさと戻って栞から言い出してくるのを待つか
それに気づいた俺はトイレを後にすると改札に戻る。
改札に栞の姿はなく先に行ったと思いホームに向かうと、何か近くでイベントでもあったのかいつも以上に人が混雑していて栞が見当たらない。人の隙間を縫うように通りながら長い黒髪を探す。
《まもなく電車が参ります。危ないですから黄色い線の内側に立ってお待ちください…》
アナウンスが鳴り響く。
もう電車が着くみたいだ、早く栞を見つけないと
迷惑そうに顔を顰める人々の隙間を抜けた先に探していた姿が目に入る。
見つけた。黄色い線の前に立ち、俺を探していたのか周りを見渡していた栞がこちらに気づく。
「…! 肇!」
栞に声をかけようとした
その時
人の波に押されふらつき
線路に投げ出される栞
耳を劈く人の悲鳴
激しいブレーキ音
電車は止まらない
その姿を見た俺は後先考えずに
飛び込んだ。
「ッ栞ぃぃいいい!!!」
弾けるような音を聞いて
意識は途切れた。
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