【第二章:失われた帝国編】

第13話:古代の王女は近代社会を知る

 四日後、尉達はガールン星王国からルルイエ行きの飛行機へ乗った尉達はG∴T∴の計らいでファーストクラスに座っていた。


「ねぇねぇ♪尉♬飛行機っていいわね♪こんな大空を自由に飛べるなんて♬」


 尉の左の席に座るセトラがまるで子供の様に初めて乗る旅客機に笑顔で興奮していた。


「おう、そうだな。俺と義娘達も時々、プライベート用の水上機やレシプロ機で空を飛んでいるんだ」


 するとマーキュリー達とのじゃんけんで見事に尉の右席に座るサターンが尉の裾を引っ張る。


「ねぇねぇパパ、ママ。キャビンアテンダントさんが機内食は何がいいか聞いているわよ」


 それを聞いた尉はハッとなりサターンの方を向くと青色のキャビン服を着たキャビンアテンダントがカートを持って待っていた。


「ああぁーーーっと、すみません!えーーと・・・」


 尉は慌てながら座席テーブルに置いてあったメニューを手に取り選び始める。


「俺は中華にしよう。飲み物はウォッカマティーニで。セトラは何にする?」

「私はフレンチで。飲み物はブルーカクテルを」

「かしこまりました。ではメニューを」


 尉、セトラ、サターンは持っていたメニューをキャビンアテンダントに渡す。そしてキャビンアテンダントはカートの下を開け、尉達に紙製の蓋に魔法陣が書かれた三つの箱を渡す。


 そして三人は魔法陣に魔力を込め、蓋を取ると中には温かい料理が瞬時にあった。


「おおぉ‼エビチリに油淋鶏ユーリンチー、小松菜のニンニク炒め煮に炒飯チャーハン、デザートは杏仁豆腐あんにんどうふか。これは美味そう」

「ベーコンチーズバーガーにフライドポテト、デザートはミニチョコケーキだわ」


 久しぶりの中華とバーガーに心躍る尉とサターン、その一方でセトラは初めて見るフレンチに目を輝かせていた。


「うわぁーーーーーーーっ‼これがフレンチなのね♪凄いわ私が生きていた王宮の料理よりも美しいわ♫」


 コンフィ・ド・カナールフランス南西部アキテーヌ地方の鴨料理にガレット、ブイヤベースとキッシュ、デザートのマカロンに見惚れていた。


「お客様、カクテルは混ぜてお作りしますか?」


 キャビンアテンダントは笑顔で問うと尉は首を軽く横に振り笑顔で答える。


「いいや、搔き混ぜじゃなくてシェイクで」

「分かりました。ではお隣のお客様もシェイクで?」


 初めて聞く事にセトラは少し苦笑いで答える。


「ごめんなさい。よく分からないので、彼と同じ、そのシェイクで」

「かしこまりました。では先にお子様のコーラを」


 そう言うとキャビンアテンダントは右腰にあるマジックバックから3ℓのコーラの入ったペットボトルを出し紙コップに入れ、サターンに渡す。そして次にキャビンアテンダントはマジックバックからシェイカーを取り出しカートにある、お酒類を入れシェイクをする。


「お待たせいたしました。こちらはウォッカマティーニです」


 カクテルグラスに入ったウォッカマティーニを受け取った尉、次ぐにキャビンアテンダントは洗浄魔法でシェイカーを綺麗にするとブルーカクテルを作る。


「お待たせしました。ブルーカクテルです」


 同じカクテルグラスに入ったブルーカクテルを受け取ったセトラは笑顔になる。


「ありがとう」

「いえいえ、では失礼いたします」


 キャビンアテンダントは笑顔で軽く一礼するとカートを押して、その場を去る。


「それじゃ、いただきます」

「「いただきます」」


 尉、セトラ、サターンはキャビンアテンダントから受け取った飲み物は一口飲み食べ始める。


 食事を終えた尉達は機内サービスを満喫する。それから二時間後、アーカムの国際空港リヴァーバンクス空港に尉達が乗ったボーイング747-200B-MBTJEイオン電池式ジェットエンジンが滑走路へ着陸する。マナイオン電池式ジェットエンジン


 セトラは白を基調とし、多くの人々で賑わう空港のターミナルに笑顔で興奮していた。


「凄いーーーーーーーーっ!まるで北部の港町ティルフォ・レッダみたい」

「ママ、あまりはしゃがないで。空港は人が多いから迷子になっちゃうわよ」


 ヴィーナスがそう言うとセトラははしゃぐのをやめ、尉達が居る荷物ベルトコンベアーへ向かう。そして荷物を受け取った尉達は空港ターミナルの入り口前にある一時停車エリアでジープを出現させ、それに荷物を載せて自宅へと向かった。



 空港を出て約三時間、尉達は夕暮れ時にアーカムの永伊邸に着いた。


 尉達がジープから荷を下ろすしているとセトラは初めて見る永伊邸に目を輝かせる。


「うわぁーーーーーーーーーーーっ!尉!この屋敷、凄くステキね」


 両手に月霊山脈の市場で購入したお土産が入った箱を持った尉が彼女の横に立つ。


「まぁアーカムでは一番、大きな屋敷さ。荷を下したら、お前の部屋を用意しないと」


 尉は笑顔で言うと荷下ろしを再開するのであった。


 荷下ろしを終えた時には夜となっており、夕食は尉がお気に入りの日本食店からの出前であった。そして食卓へ並べられ、皆は席に着く。


「それでは、いただきます」

「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」


 そして夕食を終えた尉達は使った全ての食器を片付け終えた後に椅子に座りホットココアを飲むセトラは目の前で椅子に座りコーラと薄塩のポテチを堪能するマーズに向かって笑顔で問う。


「ねぇマーズ、この屋敷の作りってどうなっているの?」


 一枚のポテチを食べ、コーラを流し込んだマーズは笑顔で答える。


「この屋敷は、元は現代美術の巨匠、ヘンリー・アンソニー・ウィルコックスが住んでいたの。二階建てで地下には少し広めの地下室があるの。ここ、アーカムではミスカトニック大学の近くにある魔女の家に次ぐ古い屋敷なの」


 マーズからの屋敷の説明に一口ココアを飲むと関心する。


「へぇーーっそうなんですか。それで、そのヘンリー・アンソニー・ウィルコックスってどんな人物なの?」

「ヘンリー・アンソニー・ウィルコックスは現代美術の巨匠で二十三歳の若さでその才能が認められて彫刻や風景画、さらには陶芸でも頭角を現したの。でも彼は自殺したの」


 マーズの口から出た自殺と言う言葉にセトラは驚く。


「自殺⁉一体、彼に何があったのマーズ?」


 マーズはコーラを一口飲み、ウィルコックスが自殺の経緯を話し始める。


「三十年前、ウィルコックスは初春の夜、新作の彫刻、『ルルイエとクトゥルフ』を作り終えた後に突然、発狂して一人、インスマウスへ着いて湾内へと投身したの」

「あら、でも何で自殺なんか」

「それは今でも分からい。でもウィルコックスが湾内へ飛び込む際に海に向かって“私は偉大なクトゥルフ様に呼ばれた‼我はクトゥルフ様の子だ‼今!貴方様の元に向かいます‼”って叫びながら海に飛び込んだの」


 ウィルコックスの壮絶な最期を聞いたセトラは少し暗い表情で俯きになる。


「何だか奇々怪々な最期ね」

「まぁ、旧支配者教の信者達の中には彼の死を称える人もいるのよ」


 そう言うとマーズはポテチとコーラを堪能し、一方のセトラもココアを飲むであった。



 翌日の朝、尉は一人、G∴T∴本部に赴き会長室でソファーに座りラバンとタイタスにガールンで起こった全ての事を話していた。


「ふむ。未発見の遺跡、滅ぼされた王女の復活、新しい旧支配者達の遺物、それに君の義娘達が神器と融合、にわかには信じられない話だな」


 下顎を触りながら尉の報告を聞くタイタス。


「しかし、神器は全て回収されたし王女セトラや神器と融合した義娘の扱いは尉に任せよう。今回は本当にありがう、尉」


 ラバンは向かいのソファーに座る尉に向かって軽く頭を下げる。


「いいんだよ、ラバン」


 するとラバンは着ていた白衣の内ポケットから5000万ルルイエドルと書かれた小切手を出してテーブルに置く。


「はい、これは報酬金だ。それとお前が黒いピラミッドで回収した旧支配者達の遺物の調査と解析の報告は追って知らせる」

「分かったラバン、ありがう」


 尉は笑顔で小切手を受け取ると着ていた上着の胸ポケットから職業には「勇者第1号」と書かれた冒険者カードを取り出し、テーブルに置く。


「やっぱり、勇者をやめる意思は変わらないのか尉」


 タイタスの問いに尉は脱いで手に持ていたカウボーイハットを被り、笑顔で答える。


「ああ、すまないなぁターク。家族との冒険は楽しかったが、家族を危険に晒したくはない」

「そっか。分かった尉。今回は本当にありがとう」


 少し悲しげな表情で笑顔で軽く頭を下げるタイタスの姿に尉は笑顔で彼を励ます。


「心配するなターク。もしまた何かあったら俺はいつでも力を貸すさ」


 それを聞いたタイタスはホッとする。そして三人は立ち上がり笑顔で握手し合うと尉は笑顔で会長室を出る。


 再び勇者をやめてから一週間後、 尉は早めに仕事を切り上げて帰宅途中の尉は大型のショッピングモールを訪れていた。


 大型の駐車場にジープを停めた尉は多くの人達で賑わう出入り口へと向かう。


 多くの人の流れの中で尉は白い服と青の長いスカートを履いたセトラを見つける。


「おう、セトラ。待ったか?」


 尉の問いにセトラは笑顔で首を横に振る。


「私もさっき来たところだから。大丈夫よ」

「よかった。じゃ行くか」

「ええ」


 そして二人は手を繋ぎながらショッピングモールへと入る。


 ショッピングモールは三階建の吹き抜けで左右には多くのお店が営業していた。


 古代では見られない真新しい商品を販売するお店にセトラは興奮し、目を輝かせていた。


「うわぁーーーーーっ!凄い!凄いわ!あれもこれも見た事がないわ」


 子供の様に喜ぶセトラの姿に尉も笑顔になる。


「喜んでくれてよかったよ。それとセトラ、お前の着ている衣服も綺麗で可愛いよ」


 尉からの褒め言葉にセトラはクルッと尉の方を向き、照れる。


「ありがとう尉。この衣服、マーキュリー達が選んでくれたの。でも、やっぱり私が今まで着ていたドレスじゃダメなの?」


 セトラからの問いに尉は腕を組んで頷く。


「ああ。近代社会の法律で露出度の高い衣服を着ての外出は『不純露出罪』に問われるからな」

「そうなんだ」


 セトラは少し悲しげな表情で軽く首を下に向けると尉は笑顔で彼女に近づき頭を優しく撫でる。


「まぁ、その代わりにお前が着ていたドレスよりも素敵な衣服があるから。ほら、初めは衣服を見に行こう」


 尉はそう言うとセトラの右手を優しく握り、女性衣服の専門店へと向かった。


 尉はセトラの為に古い歴史を持つ女性衣服専門店『アトラク=ナチャ糸服しふく店』へ赴いていた。


 セトラはまるで宝石の様に綺麗に置かれている衣服を笑顔で見ていた。


「うわぁーーーーーーーーーっ!この服もいいわ♪あ!こっちの服もいいわね♬どれがいいか迷っちゃうわ♪」


 一方、尉は綺麗で可愛いデザインをしたハンカチを見ていた。


「お客様、どなたかにプレゼントですか?」


 尉に笑顔で近づいた魚人の女性店員の問いに尉は笑顔で答える。


「ああ、義娘むすめが今まで使っていたハンカチがボロボロになってね。義娘むすめは猫が好きでね」

「でしたら、こちらが当店のオススメですよ」


 女性店員が手に取ったは黒猫の柄が描かれた白いハンカチであった。


「こちらはウルタールの黒猫をイメージしたハンカチです。黒猫はニャルラトホテプの化身なので縁起がいいですわよ」


 下顎を触りながら感心する様に笑顔になる尉。


「うむ。確かにいいハンカチだな。じゃこれをください」

「ありがとうございます。ハンカチはプレゼント用の紙にお包みしますか?」

「ああ、頼むよ」


 女性店員は笑顔で一礼をし、その場を去ると何着も手に持ったセトラが笑顔で尉の元に現れる。


「尉♬いい服があったわ♪そっちは何かあったの?」

「ああ、お前はその服でいいのか?」

「ええ。これでいいわ」

「よし。じゃお会計しよう」


 そして二人はお会計を済ませ、店を後にするのであった。



 その後の二人は色々な店を回り雑貨品や生活用品、さらに私服類を大量に購入した。


 ショッピングモールの東棟の一階にあるフードコートでは多くの人達に賑わっており、その中で尉とセトラはテーブルに座り、休憩ついでに昼食を取っていた。


「うーーーん♪このフライドチキンって凄く美味しいわ尉♫」


 セトラは笑顔でフライドチキンの衣のカスを口の周りに付けながら笑顔で言う。


「そうだな。でも、この唐揚げ丼も美味いぞ」


 尉も笑顔で箸で一つの鶏肉の唐揚げを掴み、セトラの口へと運ぶ。


 セトラは尉がススメル唐揚げを食べるとフライドチキンとは違う口の中で弾ける肉汁と衣のサクサク感、そして歯応えに驚く。


「何これ!鶏肉の味がしっかりして!食べれば食べるほどに食欲が増すわ!」

「だろぉーーーっ唐揚げは俺の好物で特にこの唐揚げ丼が俺の大好物でな」


 尉が自慢げな笑顔で言うとセトラは物欲しそうなウルンッとした目をする。その目を見た尉は勘づく。


「ああぁーーーーっはい、はい。俺はお前が頼んだフライドチキンを食べるから、これはお前が食べろ」


 尉は笑顔で言うとセトラはパーッと明るい笑顔となり、お互いの料理を交換して尉はフライドチキンをセトラは唐揚げ丼を食べるのであった。


 料理を食べ終わり、汚れた食器を返却口へと戻した尉とセトラは本屋で購入したロケット工学の専門本を食い付く様に読んでいた。


「しかし、珍しいなぁ。お前がロケット工学の専門書を買うなんて」


 ジュースを一口飲んだ尉は物珍しいそうな表情で言うとセトラは笑顔で言う。


「だって信じられる!私の生きていた時代ではワイバーンがないと飛べなかったのが、誰でも乗れる飛行機の作り出し、さらには星の世界まで行けるロケットを作り出すなんて!この時代はまさに夢の様な時代ねぇ!尉‼︎」


 セトラがそう言うと尉は少し自慢げな笑顔をする。


「まぁ確かに。大昔じゃ空想でしかなかった事が今では実現に出来ている。これも旧支配者達が残した遺物を発見し研究した事で科学文明と魔術文明を大きく飛躍させた」

「ねぇ尉、この本にも書いてあったけど、私達はいつになったら宇宙に行けるのかしら?」


 笑顔で目を輝かせるセトラからの問いに尉は下顎を触りながら明るい表情で答える。


「それは俺でも分からないな。でも、そう遠くない時代に人類は宇宙を自由に旅が出来る技術が誕生するはずだ。そうしたら『宇宙開拓時代スペース・オールド・ウェスト』が到来するはずだ」

「うわぁーーーーーーーーーーっ‼そうなったらいつか家族一緒に星々の大海原を旅したいわね♪」

「そうだな、セトラ」


 するとフードコートの少し開けた場所の真ん中にある小さな時計塔を見た尉は椅子から立ち上がる。


「一時半か。そろそろ行こうかセトラ。ここのスーパーで買い物して三時までに家に帰らないと」


 セトラも尉と同じ様に時計塔を見て軽く頷き、笑顔で立ち上がる。


「そうね。マーキュリー達が学校から帰る前に帰って、夕食の用意をしないとね」


 そして尉とセトラはフードコートを後にし、ショッピングモール内にあるスーパーへと向かうのであった。



あとがき

第二章がスタートしました。

第一章は砂漠を舞台にしましたが、今回は海と島を舞台とします。

ディズニー映画、『海底二万マイル』は1954年の冒険映画ですが、近代では味わえない迫力満点の映画でオススメです。

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