第10話:砂竜討伐

 尉達は倒したモンゴリアン・デスワームの皮や肉、牙などを剥ぎ取り、それを保存液の入った瓶に入れ、更に血液を採取する。


 その光景にセトラは作業をする尉に話し掛ける。


「ねぇ、尉。何でこのモンスターの解体をしているの?」


 ナイフ型に変形した銀の鞭で皮と肉を切り、飛び散る土色が混じった黄色の血を腕と頬に付けながら作業をする尉は笑顔で答える。


「ああ、UMAはまだまだ、未知の部分が多いから研究の為に血肉などから細胞を回収するんだ」

「へぇー、そうなんですか。素材として使えないの?」

「昔は使っていたんだけど、何故か使用者は必ず発狂する。こうしているとそんな事は何だが」


 尉からの説明を聞いたセトラは感心する。


 しばらく経って、ある程度のサンプルを採取した尉達は次の階へと向かう。


 聖遺物が保管されている最下層手前の銀の鍵の間へと着く。


 ヨグ=ソトースが守る銀の門を模した門の前に立つ尉達は門だけでなく、その中から伝わって来る巨大な物の気配に息を呑む。


「じゃ皆、行くぞ!どんな状況でも自分とお互いを信じろ!」


 尉からの気合いにマーキュリー達は覚悟を固めた表情で頷く。


 そして尉は巨大な門を両手で押し、ゆっくりと開ける。


 銀の鍵の間は巨大な柱が左右合わせて十四本が立っており、さらに床を砂で覆い尽くしていた。


「ありゃー。何だかヤベェ感じがするなぁ」


 嫌な表情で言う尉であったが、その感はすぐに現実となった。


 物凄い地響きと土埃を上げ、尉達は身構える。


 そして尉達の目の前に四足歩行の硬い鱗に覆われた二本角を生やした竜が吠えながら現れる。


 現れた竜に尉達は驚愕し、マーキュリーはつい驚愕を言葉に出す。


「げぇ‼︎サウンドドラゴン!」


 そしてサウンドドラゴンは尉達に向かって鋭い牙と爪を使って襲い掛かるのであった。



 向かって来たサウンドラゴンを左右にちりじりなりながら避けなかで尉はサウンドドラゴンの頭の上に乗り、背中から尾に向かって走る。


 グネッとサウンドドラゴンの尾が上に曲がった為、尉は勢いを付けて飛び上がる。


 だが、着地寸前にサウンドドラゴンが異様な速さで振り向き尉の左腕に噛み付く。


「うぐっ!し、しまった‼」


 サウンドドラゴンに捕まり引きずられる尉の姿にセトラは驚愕する。


「嫌ぁーーーーーーーーーーーーーっ!あなたぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 骨が砕け、肉が切れた事で言葉を失う程の激痛に耐えながら尉は鞭をナイフに変形させ左腕を自ら切る。


 地面に落ちて転がる尉はすぐに立ち止血魔法で切断面を塞ぐ。するとサウンドドラゴンは口に挟んでいた尉の左腕を飲み込み、再び襲い掛かる。


「させない!ウォーターキャノン!」


 ヴィーナスはサウンドドラゴンに向かって水の攻撃魔法で攻撃し、怯ませる。そしてアースとマーズは素早く重傷を負った尉を担ぐ様に運び、さらにセトラが両腕を前に出し魔法陣を出現させ怒りに満ちた様な表情で唱える。


「母なる大地の女神、ケブ神よ!悪しき者を怒りの鉄槌で押しつぶせ!ストーンプレス!」


 するとサウンドドラゴンの上に巨大な魔法陣が出現し、そこから無数の巨大な岩が落下し砂煙と轟音と共にサウンドドラゴンを押し潰す。


 アースとマーズに担がれ柱の裏に運ばれた尉は已む無く切断した左腕を細い縄でしっかりと縛り失血を止める。


「尉!大丈夫?」


 慌てるセトラからの問いに柱に身を預けている尉は痛みを堪えながら頷き、落ち着いた口調で答える。


「あ・・・ああ、大丈夫だ。それに腕はすぐに元に戻る」


 尉がそう言うと、失血で結んでいた縄を解くと、その通りに切断した左腕の断面から骨と肉が水を含んだ泥の様な音を立てながら腕が再生して行く。


 その光景にセトラは目を疑い、言葉を失う。


 散り散りになった皆が集まり、腕が戻った尉はサウンドドラゴンの討伐作戦を姿勢を低くして話し合う。


「さてと、今、岩の下で伸びている奴をどう倒すか・・・⁉」


 突然、尉は何かを思い付いた表情をして立ち上がり一瞬、柱の影からサウンドドラゴンが気絶している岩の山を見てフッと笑う。


 そして尉は笑顔で立ったまま姿勢を低くしているマーキュリー達に言う。


「お前達、今回はパパ抜きでアイツを倒しなさい。パパとセトラは一切、手を貸さないから」


 尉からの突然の提案にマーキュリー達は驚く。


「ちょっと!パパ!何でよ!皆で助け合うってのが我が家の決まりじゃない!」

「ジュピター、待ちなさい」


 尉に向かって反論するジュピターをマーキュリーは止める。


「分かったパパ、私達でドラゴンを倒してみる」


 それを聞いた尉は笑顔でマーキュリーに向かってサムズアップをする。


「よし!任せた!ほらセトラ、行くぞ。俺達は見学だ」


 姿勢を低くしていたセトラはキョトンとした表情で立ち上がり一瞬、マーキュリー達を見て尉の後に付いて行くのであった。



 数分後、気絶していたサウンドドラゴンが自身を押し潰していた岩を飛ばす様に退け、首をフリフリと振る。


 そしてサウンドドラゴンはキョロキョロと辺りを見渡し消えた尉達を探していると、マーキュリーが一人、サウンドドラゴンの前に出る。


 それに気付いたサウンドドラゴンはマーキュリーに向かって四本の前足に生やした鉤爪を振るう。


 土埃と轟音を挙げるが、マーキュリーは瞬時に横に向かって飛んで避ける。そしてサウンドドラゴンから見て右にマーキュリーは走り出す。


 サウンドドラゴンは顔を右に向かった瞬間、二本の角に光の縄を後ろからサターン、ウラノス、ネプチューン、プルトが力一杯に引っ張る。


 サウンドドラゴンは縄を振り解こうと首を振ろうとした瞬間、左右の柱の影からマーズとジュピターが瞬時に現れ、サウンドドラゴンの下に巨大な魔法陣を出現させる。


「「サウンドヘル‼」」


 二人が魔法を唱えるとサウンドドラゴンの下にある砂が渦を起こしドラゴンは沈み始める。


 一方、マーキュリー達の活躍を禁術、『アイホートの神隠しドゥンネロ・ウッダァ』を使って姿を消した尉とセトラが見守っていた。


 すると彼の左隣りに居るセトラは尉にある事を聞く。


「ねぇ尉、何でサウンドドラゴンの討伐をマーキュリー達、義娘むすめ達に任せたの?あなたの力だったらドラゴンを簡単に倒せるじゃない」


 尉はマーキュリー達の活躍を見ながらセトラの問いに答える。


「ああ、これは俺からの義娘むすめ達に対する宿題試練だ」

宿題試練?」

「ああ。義娘むすめ達は冒険者としてはまだまだ未熟だ。それにいつまでもパパである俺がずっと側に居るとは限らない。俺が居なくても困難を乗り越える術は必要だ。マーキュリーはいち早く俺の真意に気付いたけど」


 尉がマーキュリー達にサウンドドラゴンの討伐を任せた真意を聞いてセトラは納得する。


「なるほど。流石、あの子達を一人で育てたパパね」


 セトラの言った事に尉はフッと笑う。


「いいや。俺一人だけじゃない。友達と助け合ったお陰で義娘むすめ達を立派に育てる事が出来た。本当ほんと、友達には感謝しかないよ」


 一方、サウンドドラゴンを抑えるマーキュリー達ではあったが、サウンドドラゴンは物凄い力でマーキュリー達の捕縛から抜け出そうとしていた。


「まずい!お姉ちゃーーーーん!これはちょっとまずくなって来たわよ‼」


 大声でマーキュリーに向かって言うマーズ。しかし、何故かマーキュリーは笑顔を崩す事はなかった。


「よし!止めと行きますか。ヴィーナス!アース!私に合わせて!」


 マーキュリーからの指示に彼女の左右からヴィーナスとアースがサッと現れ構える。


「「「大いなる水の邪神!クトゥルフよ!眼前に居りし悪を!全て洗い流せ!ウォーターテンペスト‼」」」


 サウンドドラゴンの上に出現した巨大な魔法陣から物凄い勢いと大量の水がドラゴンを飲み込む。


 飲み込まれたサウンドドラゴンは水中内でもだくが、ついに酸素不足で窒息死する。


 サウンドドラゴンを見事、討伐された事で尉は自分とセトラに掛けていた禁術を解き、笑顔でマーキュリー達に歩み寄る。


「よくやった!自慢の義娘むすめ達よ!パパは嬉しいぞ」


 素直に褒められた事でマーキュリーは少し照れる。


「えへへ♬ありがとうパパ」

「皆には俺の真意を伝えたのか、マーキュリー?」


 尉からの問いにマーキュリーは笑顔で頷く。


「ええ、作戦会議の時にね。私達を大きく成長させる為にそうしたんだなって、私はすぐに気付いたわ」


 それを聞いた他の皆も笑顔で返事をする。それを見た尉はマーキュリーの頭を優しく笑顔で撫でる。


「偉いぞマーキュリー。他の皆も今日は良く頑張った。偉いぞ」


 そして尉はクルっと振り向き、笑顔で首を後ろに向き笑顔で言う。


「よし!じゃ皆で討伐したサウンドドラゴンを解体して、さっさと失われた聖遺物を取りに行こう!」


 セトラを含めてマーキュリー達は気合の入った掛け声をして早速、尉と共に討伐したサウンドドラゴンの解体を始めるのであった。



あとがき

今回のお話はマーキュリー達を成長させる為に見せた育児パパとしての尉を表現出来たと自信があります。

今年の4月26日に公開予定の『ゴジラ×コング 新たな帝国』、予告映像からすでにアドレナリン爆上げの地球規模の怪獣縄張り争いが繰り広げられる予感がします。

皆様も是非、劇場で王者達のバトルを‼

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