第8話:地下大宝物庫攻略

 翌日の早朝、準備を整えた尉達は南東へと向けてジープを走らせていた。


 ジープ内では尉が運転する左にセトラが笑顔でウキウキと彼の腕を絡ませる様に掴んでいた。


 尉はギアチェンジしようとするが、セトラが腕を掴んでいる為、上手く操作が出来ず困って表情で彼女に言う。


「おい、セトラ。すまないが、腕を放してくれねぇか?ギアチェンジがやり難い」

「えぇーーっいいじゃないダーリン♪ラブラブドライブデート♬」


 セトラは笑顔で言うと彼女の隣に座っているマーキュリーが尉の腕を外す様にセトラをグイっと引っ張る。


「こら、パパを困らせないで」


 腕を放されたセトラはムスッとする。


「んもぉーーーーっいいじゃない、マーキュリー。あ!もしかしてママとパパがイチャイチャしている所を見てヤキモチを焼いちゃったの?」


 それを聞いたマーキュリーは呆れた表情で溜め息を吐く。


「別に。それと貴女の過去をパパから聞いて同情はするし友達として私を含めて妹達も認めてはいるけど、母親としてはまだ認めていないから」


 するとセトラはムフフッと言う笑顔でマーキュリーに迫りお互いの頬をスリスリとさせる。


「もぉーーーーっマーキュリーったら照れちゃって。可愛いわね」


 しかし、頬をスリスリされている当のマーキュリーは嫌々な表情をしていた。


「いや、照れていないから。とうかスリスリするのやめて」


 するとウラノスは笑顔でバスケットをマジックバックからアルミ製のお弁当を人数分、取り出す。


「皆!お昼でお腹が空いたでしょ!ホテルの厨房を借りて作ったお弁当を食べましょう!」


 それを聞いた尉達は喜び、マーキュリー達はウラノスからお弁当を受け取りアウトドア用の箸も受け取る。そして蓋を開けると中身は味海苔ふりかけた白米に出し巻き卵、スパイシー唐揚げ、脂の乗った焼き鯖、さらに炒めたベーコンとホウレン草で皆は喜んで食べ始める。


 一方の尉は運転中の為、セトラが代わりに彼に食べさせていた。


「はい、あなた。あーん」


 尉はセトラが手掴みで運んで来た唐揚げを食べる。


「ん!美味しい!でもセトラ、出来れば手掴みじゃなくて箸で頼むわ」

「え?箸ってこれのこと?」


 セトラはプラスチック製の小さなケースに入った箸を見せ尉は一瞬、見て頷く。


「ああ、それだ。次は箸で頼むよ」


 セトラはケースを開けて箸を取り出すと不思議そうな表情をする。


「不思議な食器ね。これってどう使うのかしら?」


 するとお弁当を食べていたマーキュリーが手を止める。


「箸はこうやって使うのよ。初めのうちは扱うのが難しいから」


 そう言いながらマーキュリーはセトラに箸の扱いを教えるのであった。



 しばらく走ること約二時間、大きなオアシスの周りに作られ町へ尉達に着く。


 尉達はそこでジープの燃料として使った水の補給と向かう遺跡、アシュダット遺跡の情報を入手していた。そしてネプチューンとプルトは町の長老から情報を入手し、急いで尉が居る広場に向かう。


「パパ!長老から遺跡に関する情報を手に入れたわよーーっ!」


 ネプチューンがそう言いながらプルトと共に尉の側に駆け寄る。


「ん?どうしたんじゃパパ上?何か鳩に豆鉄砲を喰らった様な表情をしておるぞ」

「どう言う事だ?何で婆ちゃんから教えてもらった島の土着神が何でここに⁉」


 尉が見て驚いていた目の前の石像はまるで外なる神の王、アザトースの様な何本も触手を生やした異様な不定形生物の石像があり、アラビア語で石の台に『イジュラ』と刻まれていた。


 尉は急ぐ様にバックから研究ノートを取り出すと、あるページを開く。


 そのページには尉の祖父で軍人兼ロボット技術者の永伊 正太郎が趣味で研究していた『イジュラノミコトノカミ研究記録』と書かれており、尉は人差し指で文を追う。


 するとターバンを頭に巻いた初老の蝶人ちょうじんの女性が現れ、尉に声を掛ける。


「貴方様や、あなたの体からイジュラ様の力の波動を感じますぞ」


 それを聞いた尉は驚き老婆の方へ振り向く。


「何ですって⁉それってどう言うこと何ですか?」

「うむ。私は昔、イジュラ様の巫女をしておりまして聞いた話ではイジュラ様はアンゴルモアとの戦いで深手を負い、そのまま時空の狭間に消えて行方知れずとなったんじゃ。だだ・・・」

「ただ、何ですか?」

「実は何十年も前に別な世界から来たと言う異世界の者が、自分が住んでいた島の守り神と同じだと。そしてイジュラ様は熱狂的な信者の男性と交わり子を産んだと言っておった」


 尉は慌てる様に両膝を曲げ、老婆に詰め寄る様に問う。


「お婆ちゃん!その島と子の名前は?」


 老婆は右手で下顎を触りながら記憶をたどる。


「んーーーー?確か・・・あぁ!そうじゃ、尉樹羅島いじゅらとうで子の名前は蛯子ひること言っておった」


 それを聞いた尉は立ち上がり驚いた表情で後ずさりし、そして地面に座り込む。


「パパ!大丈夫?」


 ネプチューンが問うと尉は右腕の勇者の印を見て確信した様な表情になる。


「もしかして爺ちゃんは婆ちゃんがイジュラのであることを知って!じゃ俺の血には外なる神の、イジュラの血が流れていると言うのか⁉」


 それからしばらくして水の補給を終えたらすぐに出発する予定であったが、尉はイジュラについて詳しく調べる為に一日だけ町に留まる事となった。


 尉は長老の手配で用意された宿の部屋で何かに取り憑かれた様に祖父母の過去とイジュラの繋がりを調べていた。


 尉は机の上に山の様に積まれた書物の中で尉は研究ノートに記録しながら全ての真実を知った。


「そうか!やっぱり婆ちゃんはイジュラのむすめで、爺ちゃんはそれを知って婆ちゃんと・・・」


 すると外からマーキュリー達が誰かと争う声が聞こえ、尉は調べる手を止めると背もたれに掛けてあるカウボーイハットを被り、急いで外に出る。


 外に出てオアシスの近くでマーキュリー達の他に町の人々が集っていた。尉は人々を搔き分けながら進むとマーキュリー達の前に馬に乗ったジェシーとその部下達が居た。


「よ!ドクトル尉、元気していたか?」


 ジェシーは笑顔で被っていたカウボーイハットを軽く脱ぎ挨拶をすると尉も笑顔で被っていたカウボーイハットを軽く脱ぎ挨拶をする。


「元気だよジェシー、どうした?真っ昼間から俺達とやり合う為に来たのか?」


 するとジェシーは華麗に白馬から降りてく首を横に振る。


「いいや、違うさ。実はこの町の皆からの、ある頼みを完了しに来ただけさ」

「ある頼みって?」


 ジェシーは尉の問いに答える様に馬の後ろに掛けてある大きな袋を外し、中身を見せる。


「これさ。盗賊に奪われたミスリル鉱石を取り戻して返しに来ただけさ」


 ジェシーの部下達も馬から降りて袋を外し、中身を見せる。それを見た町の人々は大喜びをする。


 尉は振り向き町の人々の姿を見て尉はフッと笑う。


「流石、極悪人でありながら義賊と呼ばれたガンマンだ」

「ありがとよドクトル尉」


 すると一人の中年のドワーフの男性が大量に入った金や銀、銅のコインが入った小さな木箱を笑顔でジェシーに渡す。


「ありがとうございますジェシーさん。これは私達からのお礼です。どうか受け取って下さい」


 ジェシーは笑顔で中年のドワーフの男性から木箱を受け取る。


「お礼なんていいのに。だが、ありがたく受け取るよ」


 一方、ジェシーの部下達は町の人々から水色のポリタンクに入った水と様々な缶詰めが入った布袋を笑顔で受け取っていた。


 そしてジェシーは蓋を閉じて木箱を脇に抱えて白馬に乗るとマーキュリーは険悪な表情でジェシーに迫る。


「おい!待て悪党!逃がしはしないぞ!」


 すると尉は左腕をマーキュリーの前に出し、彼女を止める。


「ちょっとパパ!どうして止めるの!」

「いいんだマーキュリー、こいつらは俺達と戦う気はない。それに気分もいいし神器を奪う気もないよ」


 尉が笑顔でマーキュリーに言うと、それを聞いていたジェシーがが笑顔でカウボーイハットを被り直すと言う。


「ああ。その通りだ。今回は何もしないが、次は本気で相手をするからなぁ」


 白馬に乗るジェシーに尉が近づき彼は笑顔で右手を出す。


「じゃ!また会おうジェシー」

「ああ、またなドクトル尉」


 お互いに敵同士ではあるが、二人の間には奇妙な信頼関係が生まれ尉とジェシーは厚い握手をする。


 そして握手を終えたジェシーは部下達を連れて町を去る姿を尉達と町の人々は見送るのであった。



 翌日の早朝、尉達が乗るジープは目的の方向へフルスロットルで進んでいた。


 一方、助手席に座るマーキュリーは運転する尉にある事を聞く。


「ねぇパパ、一日あの町に滞在したけど、何を探していたの?」


 運転中の尉は前を向きながら答える。


「ああ、あの町で信仰しているイジュラについて詳しく調べたくて」

「イジュラって外なる神の王、アザトースの娘じゃない。地球の支配権を巡った戦争後に荒廃した大地を復活さえた神だけど、アンゴルモアの戦いの後の足取りが不明でパパでも研究が難航しているじゃない」


 すると尉はマジックボックスを出現させ、その中から古びたモノクロの写真を取り出しマーキュリーに渡す。


 その写真には遠くから一人の九八式軍衣袴を着て四五式軍帽を被った若い男性軍人が円形型の古墳に向かって刀を目の前で掲げていた。


「ねぇパパ、この写真は?」

「それはパパが元居た世界の戦時中の写真でなぁ。古墳に向かって刀で捧げ銃をしているのがパパの爺ちゃんだ。そして撮られた場所がパパの婆ちゃんの故郷の島で名は尉樹羅島いじゅらとうだ」

「尉樹羅島・・・え⁉尉樹羅って!パパまさか!」


 マーキュリーは察した様に驚くと尉は頷く。


「ああ、そうだ。幼い頃から爺ちゃんや婆ちゃんから島の土着神、尉樹羅様の話しをよく聞かされてなぁ。しかもイジュラの巫女だったお婆ちゃんが言っていたんだイジュラは別世界に行って熱狂的な信者の男性と子を産んだってな」

「ああ、それはネプチューンから聞いたわ。確か蛯子って」


 すると再び尉はマジックボックスからもう一枚、別の古びたモノクロの写真を取り出しマーキュリーに渡す。


 渡された写真は九八式軍衣袴を着て四五式軍帽を被った若い男性軍人と白色の軍帽と第2種軍装を着た四十歳前半の男性軍人が横並びで立った状態で腰から刀を提げ、さらに前には巫女装束を着た美しい黒髪を後ろで結んだ美女が椅子に座っており、また三人は笑顔であった。


「パパ?この写真に写っている人達は?」

「裏に書いてあるから見なさい」


 マーキュリーは尉の指示に従って写真をひっくり返すと裏には万年筆の黒インクで『一九四五年ノ初夏ノ夜刀浦ニテ。正太郎、一郎、蛯子トノ家族写真』と書かれていた。


 そしてマーキュリーは蛯子と書かれた文字に驚きながら尉に問う。


「パパ!この蛯子ってまさかパパの!」


 尉は笑顔で頷き答える。


「ああ、パパのお婆ちゃんだ。それに町でイジュラについて書物を調べたら爺ちゃんと婆ちゃんから聞かされていた話と酷似していた」

「じゃお婆ちゃんって!」


 尉は右腕の袖口近くにあるカフスの隙間から少し見える勇者の印を一瞬、見て前を向き確信した表情で答える。


「ああ。婆ちゃん、蛯子はイジュラの娘。そして俺はイジュラの血を、延いてはアザトースの血を受け継いでいるんだ」


 永伊家に隠された外なる神との繋がり。それを知った尉ではあったが、その瞳には迷いはなく寧ろ嬉しさと興奮が心の奥底から湧き上がっていたのだ。



 そして尉達は巨大な石壁が現れ、真ん中には大きん亀裂がある。そして尉達の乗ったジープは亀裂へヘッドライトを点けて入る。


 亀裂の中はとても暗く頭上の亀裂から入る日の光ですら先が見えない漆黒で、その暗さに後部座席に居るサターンが、その暗さに恐怖を感じていた。


「パパ、私、凄く怖いわ」


 サターンはそう言いながら右手で尉の左肩をギュッと掴む。するとバックミラーをチラッと見た尉はニッコリと笑う。


「大丈夫だよサターン。パパや皆がいるし、それにいつまでも怖がっちゃダメだ。パパみたいに立派な人になるんだろ?」

「うん」

「だったら勇気を出して怖い物と向き合わないと」


 後ろを押してくれる尉の言葉にサターンは決意を固めた表情をする。


「分かったわパパ。私、頑張ってみる」

「ああ、そのいきだ。おぉ!皆!見えて来たぞ!」


 亀裂の中を抜けると目の前には天井にあけた穴から差し込む日の光の柱で照らされた黒曜石で作られたピラミッドに着く。


 尉達はピラミッドの入り口近くに止まり、ジープから降りる。入り口には二匹の三重冠をかぶり、鋭く尖った鉤爪にコウモリの様な二枚の翼を背中から生やしたハイエナの胴体、そして人間の頭はあるが、顔は無いスフィンクスの石像が立っていた。


「顔の無いスフィンクスか・・・目的地は間違ってない。ここが地下大宝物庫、『ニャルラトホテプの智識庫』か」


 尉は黒いピラミッドに感心を持つ一方でピラミッドの姿にセトラは言葉を失う位に驚愕していた。


「おい!セトラ、一体どうしたんだ?そんなに驚いて」


 尉の問いにセトラは両手で口を隠す様に覆いながら答える。


「信じられませんわ!ここは我が王国の美しき宝物庫、『バステトの秘宝庫』なのに!一体何があったんですか⁉」


 尉は落ち着いた口調でセトラに説明する。


「ああ、実は宗教戦争時に過激的なニャルラトホテプの信者達がここに来て超古代の知識を隠す為に大量の爆薬で元あったピラミッドを木っ端微塵に吹き飛ばして、その後にこのピラミッドを作った。元の地下宝物庫に加えて侵入者を殺すトラップがいくつもあって地下四階の作りとなっている」

「えぇぇ‼地下四階⁉しかも罠って!私の生きてた時代では宝物庫に入る為にはラーの太陽の鍵がないと開かないだけだったのに」


 そう言うとセトラは自分のマジックボックスを出現させ、中から宝石に装飾された黄金の鍵、ラーの太陽の鍵を取り出し落ち込む。


 尉は同情する様な悲し気な笑顔で彼女の頭をよしよしと撫でる。


「あははっ仕方ない、これも時代の流れってやつだ」


 その後、尉達はピラミッドの入り口近くにテントを設営し地下宝物庫の攻略の準備をするのであった。



 準備を整えピラミッドへ入った尉達、クトゥグアの光球で中を照らすが、それでも暗く尉達はL型軍用ライトで辺りを照らす。


 ピラミッド内の通路は広く壁には超古代の絵文字や旧支配者や外なる神、旧神の絵、さらに禁断の召喚獣の石像が置かれていた。


 壁を照らし描かれている超古代の絵文字を見ながら歩くジュピターは尉にある事を聞く。


「ねぇパパ、このピラミッドって考古学界や色んな冒険者達が追い求めていた遺跡よね?どうして今まで発見されなかったの?」


 彼女の右にいる尉もジュピターと同じく壁をライトで照らしながら超古代の絵文字や絵を見ながら歩く。そして尉はジュピターの問いに答える様に説明をする。


「実は宗教戦争時にここに多くの超古代の知識が戦火を避ける為に入れられた。だが、もし対立する宗教派に見つかれば破壊される恐れがあったから知識を守る為に意図的にここの場所を記録から抹消したんだ」


 尉の説明にジュピターは納得した表情をする。


「へぇーっじゃ戦争が終結後は皆、血眼になって探したのね」

「ああ、そうさ。残された当時の信者の日記などを元に場所の特定を探ったけど、結局は誰も見付ける事は出来なかった」

「じゃ私達が一番乗りってことね。ふふっ歴史に名が残るかしら?」


 ジュピターが笑顔で言うと尉も笑顔で言う。


「ああ、もちろんさ。こいつは世紀の大発見だ。なんせ長年、誰も発見出来なかっ

た宝物庫を俺達が発見したからなぁ。おっと!皆、止まるんだ!」


 尉はそう言いながら左腕を上げると後ろにいる皆は一斉に止まる。尉の目の前には『闇に吼える者』の姿をしたニャルラトホテプが描かれた両開きの巨大な扉があった。そして尉は後ろを向き、真剣な表情で皆に言う。


「いいか皆?ここから先は侵入者を撃退する為に様々な危険なトラップが仕掛けられている。パパの言う事は絶対に聞くこと、そしてやたらめったら周りを触らない事、いいね?」


 マーキュリー達も真剣な表情で頷く。


「「「「「「「「「はい!パパ」」」」」」」」」

「いいね!セトラ?」


 尉は強い口調で周りをキョロキョロするセトラに問うとセトラはビクッとなって尉の方を向き慌てて頷く。


「あ!は、はい!ダーリン」

「よし!じゃ行くぞ!」


 尉は前を向き両手で力を入れて両開きの巨大な扉を開ける。中はライトや火球ですら先の見えない下へと続く階段となっていた。そして尉は大きく一呼吸をして扉の中へと入る。



 尉達はライトで階段を照らしながら下へ下へと降りて行く。周りは漆黒の闇で行けば行く程に先が分からない未知の領域に尉達は緊張と恐怖に襲われ冷や汗をかいていた。だが、それを打ち消す様に狂気の様な好奇心が皆の背中を押していた。


 三十段ほど降りた時点で尉達は少し広めの石灰石で作られた廊下に出る。壁には眷属と思われる種族の絵が彫られており、さらに絵の中や絵の淵には目を閉じ、口を少し開いた不気味な仮面がいくつもあった。


 尉達は廊下を渡る前に一旦、止まり周りを見渡し罠がないかを調べる。すると尉は床に刻まれたニャルラトホテプの紋章を円で囲む様に超古代文字が刻まれていた。尉は両膝を曲げて床の超古代文字を調べる。


「なになに、『眠りし仮面を起こすなかれ。眠りを妨げる者には死が訪れる。』か」

「これってトラップがあるって遠回し警告しているわね、パパ」


 尉と同じ体勢で彼の右にいるマーキュリーが言うと尉は頷きながら立ち上がる。


「そうだな。よし!パパが先に行くから皆はここで待っていなさい」


 それを聞いたマーキュリーは勢いよく立ち上がる。


「ダメよパパ!危険過ぎるわ!」

「なーに大丈夫だ。パパは不死身だし、トラップが機動しても死にはしないさ」


 それを聞いたマーキュリーは納得する。


「あっそうか。でも無茶はしないでね」

「分かっているさ。じゃ待っていなさい」


 尉は笑顔でマーキュリーの頭を優しく撫でるとゆっくりと抜き足差し足の様に床に敷かれた様々な形をしたタイルの隙間を進む。


(やっべぇーーっ‼絶っ対に床のタイルのどれかを踏めばトラップは起動するなぁこれ!いくら俺が不死身でも体が傷付いた時の感覚は超痛いんだよなぁ!)


 尉は心の中で語っていると右の六角形のタイルがゴトンッと沈み右の壁にある仮面の口から矢が発射されたので尉はその場で止まると鼻を掠める。左を向き壁に刺さった矢を見て尉はホッとする。


(どのタイルがスイッチかはランダムだ。慎重に行かないと)


 尉は再び、ゆっくりと進む。そして中央まで来ると次に三角形のタイルが沈み、今度は左の壁の仮面から矢が発射され尉の左腕で命中する。


「うぐぅ‼しまった!いって・・・・ヤバい‼この痺れかたはエンペラーコブラの毒!」


 尉は左足の膝を地面に着きながら右手で刺さった左腕を押さえる。


 苦しみ腕から血を流す尉の姿にセトラは血の気が引く様に驚愕する。


「はぁー‼尉ーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 するとセトラは走り出してしまいマーキュリー達は彼女を止める事が出来ず彼の元に向かわせてしまう。


 尉は振り返りセトラが走って来るのに驚く。


「バカ‼来るんじゃない‼」


 するとセトラが踏んだ三つのタイルが沈み、左右から無数の矢が発射された。尉は痛む腕を堪えながらセトラに向かって走り倒れ込む様に彼女を矢から守る。


「尉!大丈・・・はぁ⁉」


 セトラは言葉を失った。自分を守った尉の体や腕、顔には何本も矢が刺さり毒による激しい痛みに耐えていた。


「セトラ!・・・うぐ!・・がぁは!・・大丈夫・・・いぐぅ!・・か・・あがぁ!」


 体をガタガタと振るわさながら至る所から血を流す尉の姿にセトラは驚く。


「嫌だぁ!尉‼しかっりして!」

「ダメだ!・・うぐ!・・動くなぁ!ああぁ‼」


 尉の制止を聞かずセトラは動いてしまい丸のタイルが沈むと尉から見て右の壁の仮面から槍が発射され尉の横腹を貫く。


「パパァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼」


 その光景にマーキュリーは声を荒げる。


「マー・・キュリー・・・がはぁ!こ・・これを・・うぐぁ!」


 強烈な痛みに耐え血反吐を吐きながら尉は断罪の鞭をマーキュリー達の方に投げる。


「その・・うぐぁ!・・鞭に・・・だがぁ!・・魔力を・・・あがぁ!・・込めろ!」


 マーキュリー、ヴィーナス、アースは急いで鞭に魔力を込める。すると鞭は神々しく光り出す。そして尉は右手を床に置く。


「リブディ・・・アドゥバ」


 禁術、『ロイガーの空穴からあな』を発動し床に発生させた時空穴を通ってマーキュリー達の元に瞬時に戻る。


 セトラは急いで尉から退くとマーキュリー達が慌てながら彼に駆け寄る。


「パパ!しっかりして!」

「これはいくら何でもヤバ過ぎるわ!ヴィーナス!マーズ!パパに刺さった矢と槍を抜いて!アースは薬草を調合して解毒薬かどくやくを!ウラノスはアースを手伝って!ジュピターとサターンは私を手伝って!ネプチューンとプルトは傷口を清潔な布でしっかり押さえて!私はパパの傷口を縫合する!ジュピター!救急治療バックを出して!早く!」


 ジュピターは急いでマジックバックから赤い合成繊維に真ん中に白い十字が描かれた箱型の救急治療バックを取り出しジッパーを開ける。


 セトラも慌てて惨い姿になった尉に駆け寄る。


「尉!しっかりして!」


 するとマーキュリーが急にセトラの喉元に自分の右腕を押し付け怒りに満ちた表情で彼女を勢いよく壁に叩き付ける様に詰め寄る。


「あんたね!自分が何したか分かっているの‼パパから色々と聞いて少しは信用出来ると思っていたのに!パパをこんな目に遭わせて‼このクソ野郎が!パパに近づくな‼」


 そしてマーキュリーはセトラから離れて急いで尉の側に戻り、救急治療バックを開く。ゴム手袋を着けて縫合針と糸を取り出しマーキュリーの指示の元で尉の手当をする。


 約五時間は経過したであろう、マーキュリーの適切な指示で尉の傷を塞ぐ事が出来、またアースが薬草で調合した解毒薬で尉の体を蝕んでいた毒は消えた。


 上半身裸で革ジャンを羽織った尉はあちこちに包帯を巻き、右足を伸ばした状態で入り口の壁に凭れる様に体操座りをして体力を回復していた。


「パパの治療で、もう夕方か。夕食の準備をしないと」


 左手首に着けた腕時計を見て言うウラノスに向かって尉は、まだ痛む体を少し起こして笑顔で言う。


「大丈夫だよ、ウラノス。ここはセラエノと同じ多重次元で構築された地下宝物庫だから、ここでの一日は外では一時間しか経過してないから心配するな」


 そして尉はゆっくりと体を起こしマジックボックスから新しいワイシャツを取り出し革ジャンと共に着る。


「よし!ここでじっとしちゃいられない。早く向こう側に行かないと!」


 近くに置いてあったカウボーイハットを被るのと同時にマーキュリーが慌てた様に尉に近づく。


「ダメよパパ!まだ傷口が塞いでいない!無理をしたら傷口が開いちゃうわ!」


 すると尉はマーキュリーの頭を撫でながら笑顔で言う。


「大丈夫だマーキュリー。お前達のお陰で傷口もある程度、塞がった。無茶動きをしなければ大丈夫さ」


 そう言うと尉は笑顔で再び抜き足差し足で進み始める。そして今度はトラップを作動させずに渡り切った尉は辺りを見渡し壁にスイッチ用の魔法陣を見付けると魔力を込める。するとトラップが解除される。


「よし!トラップは解除した!皆、来ていいぞ!」


 尉は大声で指示を出すとマーキュリー達は頷く。


「「「「「「「「「分かったわ!パパ!」」」」」」」」」


 マーキュリー達は大声で返事をし、尉の元に向かう。そしてマーキュリー達は先に廊下を出る。


 だが、最後に出たセトラだけは顔を俯き右手で左腕を掴みながら暗い表情をしていた。


「あ、あのさセトラ・・・」

「・・・・・・・・・」


 尉の声掛けにセトラは何も答えず廊下を出る。彼女の様子に尉は右手で後頭部をかきながら困った表情をする。


(まいったなぁ。相当、自分を責めているな。どうにかして励まして娘達とのわだかまりを解かないと)


 心の中で語る尉は被っているボーシを少し前に傾けて廊下を出て階段を降りるのであった。



あとがき

少しずつ春の暖かさを感じる様になりましたが、まだまだ寒いです。読者の皆様も体調管理に気を付けて下さい。

それとゴジラマイナス1.0ワン、第96回アカデミー賞・視覚効果賞ノミネート、本当におめでとうございます。ゴジラファンとして受賞は確実であると自分は大いに信じています。3月10日の授賞式まで頑張って下さい。応援しています。

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