第3話:夢見る過去と予兆

 インスマウスでのダゴンの石柱発見から三週間が経ったある日の夜、永伊邸の自室のベットでぐっすり眠る尉は夢を見ていた。


 その夢は過去の記憶でまだパーティーを組む前の時は1885年のエルドラド、この年のエルドラドはエルドラド社会民主党とリザード人民自由独立戦線IPFIFとの内戦状態であった。


 尉は当時、ルルイエ海兵隊に所属する大尉でこの時、エルドラド社会民主党の要請で国連軍の治安維持部隊の隊員として現地入りしていた。


 エルドラド北西部のアルマシア川付近の密林地帯、第1海兵師団隷下れいか第5海兵戦闘旅団所属第22海兵連隊、通称ヤングボガーズの隊員達を乗せた三機のCH-47A チヌークが飛行しており三番機、コールサイン「ピクチャースリー」の機体内には三十三名の大きな軍用リュックを背負いPASGT迷彩戦闘服を着た隊員が談笑していた。


 その中で尉は赤いベレー帽を被り顔に迷彩ペイントを塗っていた。すると彼の右隣に座っているPASGTヘルメットを被った男性隊員が聞く。


「なぁ大尉、どうしてあなたのライフはFN FNC-M3なんですか?ルルイエ主力のM16A1の方が汎用性高いのに」


 塗り終わった尉はストックを下に股の間に立てているFN FNC-M3を笑顔で見ながら答える。


「このライフはM16A1に比べると汚れに強くてな。それに手入れも楽で気に入っているんだ」

「へぇーっそうなんですか」


 すると後部ハッチにある二つのランプの内、イエローランプが点滅と同時にブザーが鳴り始める。尉は気合の入った声で号令する。


「全員ーーーーーーーーーっ!スタンドアーーーーーーーープッ‼まなく降下ポイントだ‼降下準備!」


 尉を含めて全員が立ち上がりリュックのベルトチェックとM16A1とM4コマンドー、M60機関銃のセーフティーを外す。三機のチヌークは小川の開けた場所に着陸と同時にハッチが開きグリーンランプが点灯、ゴーサインのブザーが鳴る。


「行くぞーーーーーーーーっ!野郎共ーーーーーーーーっ‼」


 尉の号令を聞いた隊員達は気合を入れる。


「「「「「「「「「「フラ・サァ‼」」」」」」」」」」


 降下した第22海兵連隊は素早く展開し周りを確認、三機のチヌークのパイロット達は連隊が降りた事を確認すると一番機パイロットが無線を入れる。


HQ本部HQ本部、こちらピクチャーワン。部隊の降下完了、これより基地に帰投する」

「こちらHQ、了解した。速やかに帰投せよ」


 三機のチヌークはハッチを閉めながら離陸し基地へと帰投する。


 密林内に入ってから約二時間、尉達は降り注ぐ日光と肌に貼り付く様な湿気、体中から吹き出している様な汗に耐えながら行軍していた。


 尉は先も見えない密林の奥を禁術、イタカの千里眼ダビィ・ズ・ダダドを使い透視する。すると尉は左腕を上げ、それを見た隊員達は立ち止まる。そして尉はゆっくりと腕を下しながら姿勢を低くして行き、隊員達もゆっくりと姿勢を低くして行く。


 そして尉は人差し指を縦に左右に動かし、隊員達は左右に展開する。それを確認した尉は千里眼を消し、マジックボックスからM61手榴弾を取り出し安全レバーを押しながらピンを外し勢いよく投げる。


 投げた先の少し開けた場所にはAK-47やAKM、RPK74、モシンナガンM1891、PPSh-41、DP-1928、PMMハンドガンで武装したリザードマンのゲリラ兵達の真ん中に落ち爆発する。


「今だぁーーーーーーーーーーーーーーーっ‼オープン・ファイア!オープン・ファイア!」


 尉が大声で号令すると展開していた隊員達と共に立ち上がり奇襲攻撃を行う。


 突然の奇襲に混乱するゲリラ兵であったが、すぐに応戦する。


 ゲリラ兵達の中にはソ連製F1手榴弾を投擲、尉または他の隊員の近くに落ちて爆発するが、怯む事はない。


「くそ!グレネードだ!グレネードランチャーを撃て!」


 尉の命令でM203グレネードランチャーを装備したM16A1を使う八人の隊員が発砲する。


 グレネードランチャーの砲撃でゲリラ兵達の戦意は無くなって行き徐々に後ろに下がり始める。


「撤退だ!撤退だーーーっ‼」


 右腕に赤いワッペンを巻いたゲリラ兵の隊長が号令し、ゲリラ兵達は急いで後方へ撤退する。


 撤退するに連れて徐々にゲリラ側の銃声が無くなり始める。


「撃ち方やめ!撃ち方やめ!やめろ!やめるんだ!」


 尉の号令に従って隊員達が射撃をやめ、中にはリロードをする。尉も空になったマガジンを飛ばし、新しいマガジンを装填する。


 戦闘で発生した煙を掻き分けながら尉達はゲリラ兵の野営基地へと入る。あたりには炎と黒煙が上がり、地面には銃弾を受けて戦死したゲリラ兵や手榴弾とグレネードランチャーの爆発でバラバラになったゲリラ兵の死体が転がっていた。


「よし!バーク二等軍曹、部下を連れて指揮所テントに向かって出来る限り情報を集めろ」


 尉からの命令を受けた黒人のバーク二等軍曹は頷く。


「了解しました大尉。お前ら行くぞ」


 バークの命令で複数人の隊員を連れて指揮所テントへと向かう。それを確認した尉は口笛をする。

「スタンディ伍長!来てくれ!」


 M4コマンドーを装備し、AN/PRC-77トランシーバーを背負った白人のスタンディ伍長が駆け足で尉の側に来る。


「はい!大尉」

「HQに連絡する。無線を貸せ」

「了解しました」


 スタンディは受話器を尉に渡し、尉はダイアルを回し周波数を合わせる。


「HQ、HQ、こちらガニメデワン。応答願うオーバー」

「こちらHQ。ガニメデ1どうぞ」

「HQ、目標の制圧と情報の回収に成功。これより回収ポイントに向かう」

「了解した。だが気を付けろ。回収ポイントまではまだゲリラ兵が潜んでいる。注意せよ」

「了解したHQ。ガニメデ1、アウト」

「HQ、アウト」


 尉は受話器をスタンディに返し、号令する。


「全員!情報を回収しだい速やかに回収ポイントに向かう!十五分後に出発だ!各自、銃の点検と空腹を満たしておけ!」

「「「「「「「「「「サー・イエッサー!」」」」」」」」」」


 尉を含め隊員全員は銃の点検とリュックを降ろし中からMREレーションを取り出し食事を始める。尉もリュックからMREレーションに付属してある板チョコを食べ始める。



 M21サブシステムで武装したUH-1E ヒューイとCH-47A チヌーク、AH-1S コブラが飛び交うアルマシア川より南にあるルルイエ軍基地、シグマ基地。


 任務から無事、連隊と共に戻った尉は兵舎テントへ戻るとそこには一人のハイエルフが椅子に座っていた。尉はハイエルフが着ている軍服の右腕に付けてるワッペンを見る。


「お前、ムーの軍人か。なんでここにいるんだ?」


 ハイエルフの男性は椅子から立ち上がり笑顔で一礼する。


「すまない。俺はパーシー、パーシー・フォーセットだ。ムー陸軍第11独立親衛師団隷下第31自動車化狙撃兵ロシア軍での機械化歩兵の用語旅団所属第57親衛連隊の連隊長を勤めている。階級は少佐だ」


 彼の名前を聞いた尉は少し驚く。


「パーシーっだと!まさかイギリス軍人の少佐で古代都市Zを求めた考古学者の?」

「そうだ」

「待て!ちょっと確認させてくれ。確か大英帝国王立地理学協会の依頼で水源と国境の調査をしたよな。答えられるか?」


 尉からの問いにパーシーは笑顔で答える。


「ああ勿論、南米ボリビアとブラジルの国境にあるヒース川の調査をして水源付近で古代人の住居跡を発見して、そこで大量の土器を発見した」

「そうだ!その通りだ!もう一つZを求めて川を上り、途中で民族の襲撃を受けたな」

「ああ、グアラヨ族だ。毒矢が大量に飛んで来たけど、インディアンの言葉で民族から色々と聞けてZが存在する事がより一層、高くなったよ」


 それを聞いた尉は嬉し涙を流しながらパーシーと厚い握手をする。


「これは失礼しました!まさか憧れの人に会えるなんて!」

「はははっ!そうか、それは嬉しいなぁ」


 握手を終えると尉はあることを聞く。


「そう言えばアマゾン盆地に息子さんのジャックと入って以降、どの様にして行方不明になったんですか?」


 そのことにパーシーは右手で下顎を触りなが答える。


「うーーーんっそれが覚えてないんだよ」

「え⁉覚えてないんですか?」


 パーシーと尉は椅子に座り、パーシーは話しを続ける。


「そうなんだよ。息子のジャックと共にアマゾン盆地に入ったのは覚えているが、その後の事はよく覚えてないんだ」

「ふーーーーん、そうなんだ」


 するとパーシーは突然、クスクスと笑い出す。

「尉、そんなかしこまった口調じゃなくていいぜ。普通でいいよ」


 それを聞いた尉は右手を胸に当てホッとする。


「じゃパーシー、ここへはただ俺に会いに来たんじゃないよな」

「ああ、そうなんだよ。実は俺とパーティーを組まないか?」


 パーシーからの提案に尉は少し驚く。


「マジか⁉もちろんだ‼是非、一緒に組ませてくれ!」

「よかった。それともう一人、パーティーに加えたくて」

「いいぜ、それで誰なんだ?」


 するとパーシーは左の手首にしている腕時計を見る。


「もうそろそろで来るはずだ」

「よっ!遅くなってすまいパーシー」


 後ろから声がしたので尉は振り向くとそこには大きな荷物カバンを持った黒いベレー帽を被り迷彩服を着た一人の男性の爬竜人軍人がいた。


「おい、パーシー、誰だこいつは?」

「ああ、こいつが俺が言っていたもう一人のパーティーメンバーだ」


 爬竜人軍人が笑顔でベレー帽を取って挨拶をする。


「初めまして尉、私の名はロイ・チャップマン・アンドリュースだ。君やパーシーと同じく死んで異世界に転生したアメリカの古生物学者だ」


 その名前を聞いた尉は驚く。


「アンドリュースだと⁉まさか世界で初めて恐竜の卵を発見した?」

「そうだ。1923年7月13日のゴビ砂漠で角竜類つのりゅうるいのプロトケラトプスの化石化した卵を発見したんだ」


 すると尉は右手で後頭部をかきながら申し訳ない表現をする。


「あのーっ実は発見したその恐竜の卵、後の調査で獣脚類じゅうきゃくるいのオヴィラプトルの卵であることが判明したんです」


 尉から意外な発言にロイはポカンとする。


「え⁉じゃ俺の勘違いってこと?」

「ええ・・・うん」

「ハハハハハッまぁまぁ。誰にだって勘違いはあるさ。それと尉、お前はいつ退役するんだ?」


 パーシーからの問いに尉は左の胸ポケットから除隊通知書を取り出す。


「明日だ。名誉勲章を貰っての除隊だ」

「それは好都合だ。実は俺とロイも明日、除隊なんだ。除隊日に一緒にエルドラドの冒険者ギルドでパーティー登録しようぜ」

「でも問題はパーティー登録には最低、メンバーは五人以上必要だぞ」


 ロイの指摘する問題に尉は笑顔で黒い手帳を取り出す。


「それについては心配ご無用。実は海兵に入る前に俺と同じ転生者が居ないか探していたんだ。そうしたら三人、前世の記憶を持った状態で転生した者が居てな。しかも航海士、考古学者、探検家でパーティーを組むにはピッタリさ」


 それを聞いたパーシーとロイは喜ぶ。


「本当か⁉やっぱり尉、お前に会って凄く良かったよ」

「若い割には行動力も高いな尉。あ、それと俺に対して堅苦しい口調じゃなくていいぜ。いつも通りでかまわん」


 それを聞いた尉は笑顔でロイと握手をする。


「これからよろしくなロイ」

「こちらこそ」


 尉、パーシー、ロイの三人は厚い握手をする。



 目覚まし時計が鳴り、尉は目を覚まし時計を止める。時間は午前5時半を示していた。


 ベッドから起き上がった尉は机の引き出しから茶色い革製の写真入れを取り出し、部屋を出て一階へと降りる。そして一部、電気を点ける。やかんに水を入れ、コンロに置き火を点ける。


「ふぅーーーーーっ懐かしい夢だったな。しかし、何で今になって過去を」


 そう言いなが棚の戸を開けてエルドラド産のインスタントコーヒーと瓶に入った角砂糖を取り出し、白いコーヒーカップに入れる。


 お湯が沸騰したので火を消しカップに入れる。更に流し台の隣にある冷蔵庫から牛乳パックを取り出す。そして角砂糖とミルクを入れて飲む。


「さてと、サンドイッチでも作るか」


 そう言いなが尉は写真入れを開きモノクロの写真を見る。右には海兵時代の連隊の集合写真と左にはパーティーを組んでいた時代のイレム聖法国にある王家の谷での発掘調査クエスト時の集合写真が入っていた。


 尉は左の写真を見て笑みを浮かべる。


「パーシー、ロイ、ドレイク、矗、ジェーン、皆は元気しているかな?」


 そう言いながら尉は写真入れをポッケにしまうと冷蔵庫からハムとレタス、茹で卵、マヨネーズを取り出すと次に棚から紙の箱を取り出し開く。


 中から角砂糖と同じ形と大きさをした狐色の物を二つ、手に取るとそれに復元の魔法を込めると瞬く間に食パン、二枚が出来る。


「まったく。魔法学のお陰で俺の居た世界を超える保存技術を確立させるとはな。圧縮魔法で物を小さくさせるだけでなく、その物質の時間を固定させるから何百年、何千年、何万年経っても腐らず新鮮な状態を維持するからすげえや」


 尉は慣れた手捌きでまな板の上でサンドイッチを作り、コーヒーを飲みながら食べ始める。


 朝食を終えた尉は部屋に戻り、着替えを終え、カバンに教材を入れて行くが、その途中で尉は右腕にある勇者の印をかき始める。


「印が痒くなるなんて嫌な予感がするな」


 そう言いながら尉は準備を終えてカウボーイハットを被り家を出て大学へと向かった。



あとがき

今回は尉の過去を描きました。少し短いですが、ミリタリー描写を描くことが出来ました。

Vtuberの『葉柳はやながちぐさ』さんのカーバーするクトゥルフ神話曲、『旧支配者のキャロル』と『神様の呼声よびごえ』は最高です。また他にも『るるみつ』さんの『旧支配者のキャロルの頃に』と『リアン・アニマリカ・椿つばき』さんの新訳カーバーの『旧支配者のキャロル』は最高です。是非、聴いてみて下さい。

ふんぐるい・むぐるうなふ・ふたぐん

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