【第一章:外なる神の神器編】

第1話:勇者は義娘(むすめ)達と出会う

 202X年の中南米、コスタリカ。日本人男性で世界的に高名な考古学者で冒険家の『永伊ながいじょう』は一ヶ月前から知り合いの考古学者からの連絡で首都サンホセから南部にある郊外で発見された白いピラミッドの発掘調査をしていた。

 雲一つない昼間、黒髪をタオルで巻いた尉は動きやすい服装でピラミッドの外側に描かれた未だ発見例の無い絵文字と彫刻の調査を子供の様にしていた。


「凄い!凄いぞ!エジプトやマヤなどとは違う絵文字だ」


 そう言いながらフィルカメラで写真を何枚も撮っているとある事に気付く。


「もしかして・・・このピラミッドはパーシー・フォーセットが求めていた失われた都市Zなのかもしれない。だとしたら・・・歴史の教科書を書き換える大発見かもしれない!」


 興奮に包まれる尉の元に一人のコスタリカの青年が手を振り呼びながら走って来た。


「ドクター!ドクター尉!こちらに来て下さい!今度は壺などの遺物が発掘されました!」


 尉はすぐに写真撮影をやめ、青年の後に付いて行き発掘現場に着く。発掘現場には数名の作業スタッフが居り、尉は両膝を曲げ出土した壺を手に取り調べる。


「これも凄い!まるで縄文土器の様な歪な形をしている。こんな土器は今まで発見例がない!やっぱり、この発見は歴史を大きく変えるぞ!」


 尉の言葉にその場に居るスタッフ達は皆、歓喜する。だが次の瞬間、中年の男性スタッフが慌てた表情で頭上を指さしながら叫ぶ。


「ドクターーーーーーーーーーーーっ!上をーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「え?」


 尉は上を向くとピラミッドの一部である大きな破片が崩れ、落下して来た。


「う⁉・・・・うわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー‼」


 地響きと砂埃をあげながら下敷きとなった尉は大量の血を流しながら薄れゆく意識の中で悔やみ涙を流す。


(くそ!こんな形で一生を終えるなんて。感覚が無い。痛みを感じない。出来れば・・・この発見を・・・・・発・・表・・したかっ・・・た・・・な)


 遂に意識が消えた尉は二十五歳と言う若さで歴史に名を残す前にこの世を去ってしまう。

 だが目を覚ました尉は見知らぬ真っ白な世界に居る事に気付き周りを見渡す。


「なんだここは?俺は確かに・・・・死んだよな?」

「はい。貴方は確かに事故で死にましたよ」


 何処からか聞こえて来た女性に驚く尉の前に白い古代ギリシャのドレスを着た金髪ロングヘアの美しい女性が笑顔で現れる。


「あんた誰だよ!ここは何処なんだ!」


 尉は驚きながら女性に問うと女性は少し悲し気な表情で答える。


「私の名はヴェルダンディーと申します。ここは人々が言うところの天界です。それと貴方様に深くお詫びします」


 そう言いながらヴェルダンディーは深々と頭を下げる。尉は少し戸惑いながらお詫びの理由を聞く。


「あのーーーーっ一体なんの事で俺にお詫びを?」


 ヴェルダンディーは頭を上げ理由を説明する。


「はい。実はあなた様が事故死するのは私の間違いで起こってしまった事なんです。本当に申し訳ありません」


 ヴェルダンディーは再度、深々と頭を下げる一方で尉は物凄い顔で大きく口を開けながらガクッとする。


「とほほーーーーっじゃ俺は女神様の手違いで死んじまったのか。世紀の大発見による新たな歴史の一ページを刻みたかった」


 ヴェルダンディーは落ち込む尉にそっと寄り添い立ち上がらせる。


「本当に申し訳ありません。お詫びとしてチート級の禁術を付与させてあなたを異世界に転生させます」


 異世界転生と聞いた尉は目を輝かせる。


「異世界⁉マジですか?」


 ヴェルダンディーは笑顔で尉の問いに答える。


「はい。その世界は人間の他に亜人種やモンスター、更に魔法が存在するまさにファンタジーの世界です。その一方で現実の60年代の様なレトロな近代文明が発達しています」


「おお!ではテレビやラジオ、更に銃火器などがあるのですか?」

「はい、あります。さらに・・・」

「さらに?」


 ヴェルダンディーは少し間を開けて後に話しを続ける。


「その世界はクトゥルフ神話が宗教として知られ、神話に関する禁術や地名などが現実に存在しています」


 それを聞いた尉は一瞬、固まるがすぐに大喜びする。


「ヤッホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーイッ‼そうと分かれば女神様のミスなんか全然、気にしていません」


 尉の狂った様に喜ぶ姿にヴェルダンディーは少し引く様な苦笑いをする。


「あはははっここまで喜ばれると・・・ちょっと怖い」


 そう小声で言うと微かに聞き取れた尉が喜ぶのを止めて振り向く。


「なんか言いましたか?」


 ヴェルダンディーのハッとなり慌てて両手を振って発言を隠す。


「い・・・いいえ!何でもありませんわ。それと一つお願いがありまして」


 尉は踊るのを止めて真剣な表情と態度でヴェルダンディーに問う。


「お願いとは何ですか?」


 それからしばらくしてからヴェルダンディーは右手を尉に向けて、彼の下に魔法陣を出現させ異世界へと転生させる。


 目を覚ました尉はストーンヘンジの内側に居り、空は快晴でゆっくりと起き上がると前の世界で来ていた衣服とは違う某アドベンチャー映画の主人公の様な革のジャケットに両側に胸ポケットがあるワイシャツ、薄灰色のズボンと動きやすい茶色い革靴、そして焦げ茶色のカウボーイハットを被り、右肩から革製の掛けカバンを下げた姿であった。


 尉はストーンヘンジから出て辺りを見渡し遠くに街を発見する。一方で彼はヴェルダンディーとの会話を振り返る。


「実はその異世界は今、宇宙の果ての暗黒からアンゴルモアの大魔王が襲来し全ての生命を滅ぼそうとしています」


 ヴェルダンディーはそう言うと尉の横に宇宙空間を映し出す。輝きを放つ数多くの星々の真ん中より禍々しい黒いオーラを放つ目の無い鋭い牙を生やした口の超巨大な不定形生命体が現れる。


 アンゴルモアの姿に尉は少し汗をかきながら生唾を飲んだ。


「こいつは・・・見る限りヤバいなぁ」


 ヴェルダンディーは悲しい表情で答える。


「はい。まだ異世界の地球からは大分、離れた場所に居ますが、ゆっくりと近づいています。強大な力を持っており危険ですが、どうか異世界をお救い下さい」


 ヴェルダンディーの願いを尉は自慢に満ちた表情で右拳を軽く胸の真ん中に置く。


「お任せ下さい女神様!必ず俺が異世界の・・・っ!いいえ、クトゥルフ神話の地球を守ります」


 それを聞いたヴェルダンディーは安心する。


「ありがとうございます。それでは右手を出して下さい。魔法を付与させます」


 尉はヴェルダンディーの指示に従い右手を出す。するとヴェルダンディーは自分の両手で尉の右手を挟む様に包み光を放つ。すると尉の腕の裏にピラミッドの真ん中に瞳がある入れ墨が現れる。


「この入れ墨は何ですか?」


 尉の質問にヴェルダンディーは答える。


「それは『勇者の印』です。それを異世界の人々に見せればギルド登録などがスムーズに行えます」


 尉はヴェルダンディーの答えに納得する。


「なるほど。それで付与された魔法は一体どんな魔法ですか?」

「はい。付与された魔法は異世界では操る事が出来ない旧支配者達が生み出した超古代の禁術です。魔法や召喚術、更には呪術などが使えます。また超古代を含めた古代語翻訳の魔法と不老不死も付与されています」

「あ・・・ああ、そ・・・そうなんですか。あ・・・あははっ」


 尉はヴェルダンディーから付与された魔法の種類に少し引き気味になりながら心の中で語る。


(不老不死って、まぁアンゴルモアの大魔王がいつ地球に来るのか分からないから。そう簡単に死なれたら地球を救えないからな)


 過去を振り返った尉は右腕の裏に刻まれた勇者の印を見てニヤリと笑う。


「よし!大魔王が来るまでは余裕があるし、早速、街に向かって冒険者ギルドに登録だ!」


 尉は張り切り走って街へと向かう



 多くの人間や亜人種で賑わう街に着いた尉は周りを見渡し体の底から湧き出す好奇心に目を輝かせる。


「凄い!中世を想像していたが、20世紀後半の様なアメリカンレトロな街並みだ!車や路面電車があるぞ!」


 街並みはニューヨークの様で車や路面電車が走っており、また天に届きそうな高層ビルがいくつも立ち並んでおり、しかも空には高い高度を飛ぶ飛行機が飛行していた。


 それから尉は近くの人から冒険者ギルドの場所を知り、ギルドのある五階建てのビルに着く。


 ビルの中に入るとロビーは広く多くの人々で賑わっていた。尉は目の前にある受付に向かい受付嬢に話し掛ける。


「すみません。ギルド登録したいんですけど」


 クゥトルフ神話を連装させるデザインをしたローブを着た受付嬢が尉に対応する。


「はい、初めての方ですね。それではまずこちらの書類にお名前と年齢、職種、国籍を記入して下さい」


 受付嬢が取り出したA4サイズの書類に近くのペン立てにある黒ペンを手に取り英語で書き始める。必要な項目を書き終えた尉は書類を受付嬢に出す。


「はい。では確認しますね。問題はありませんね・・・ん?」


 受付嬢は書類の中で一か所だけ気になる点を見付ける。


「ニッポンっ?聞いた事ない国ですね。すみませんが、ステータスの確認をさせてもよろしいですか?」


 尉はいつも感覚で前世の国籍を記入してしまった事にハッとなってしまうが、直ぐに受付嬢の要望を承諾する。


「あっああ。勿論、いいですよ」


 すると受付嬢は下から薄い手の窪みと細かいルーン文字が刻まれた石板を取り出す。


「こちらの石板に右手を置いて下さい」


 尉は頷き石板に右手を置く。すると青白く光を放ち起動し、目の前にステータスが表示される。


「ほほーーーっこれが俺のステータスか・・・ん⁉」


 尉は目の前に居る受付嬢が何故かガクガクと震えながら後退りをして大声で驚く。


「転生者で女神ヴェルダンディー様の籠付き!しかも不老不死に加えて旧支配者様達が残した扱い不可能の禁術が使えて!勇者・・・即ち神様の使徒ですってぇーーーーーーーーーーーっ‼」


 それを聞いていた大勢の冒険者達も驚愕する。そして受付嬢は慌てながら迫る勢いで尉に言う。


「すみませんが!直ぐにギルドマスターにこの事を話したいので来て下さいますか?」


 尉は戸惑いながらも軽く頷く。


「あ、はい。いいですよ」


 そして受付嬢に連れられギルドマスターの居る部屋に入る。


「どうした?何故、部外者を私の部屋に入れるだ君?」


 デスクに座って実務をこなしていた少し強面の白髪に白髭の男が問うと受付嬢が駆け寄り耳打ちで尉の事を話す。するとギルドマスターは驚いた表情をする。


「何だと⁉これはすみません尉殿。え、いや、尉様。どうぞソファーに座って下さい」


 向かい合う様に置いてあるソファーの右のソファーに座った尉とギルドマスター、そして受付嬢は向かいのソファーに座る。


 そしてギルドマスターは少し真剣な表情で尉に話し始める。


「尉様、実は別の世界の者がこの世界に転生または転移する事は珍しくないのです。ですが実は転生にかんするある伝説が残されておりまして」


「ある伝説ですか?」


 ギルドマスターは自分の後ろにある本棚から古い本、『クトゥルフ神話』を取り出し、とあるページを開く。そのページには尉の腕に刻まれた勇者の証と同じものが描かれていた。


「このページに書かれているのは超古代の地球に飛来したアンゴルモアの大魔王を旧支配者達と共に守り抜いた女神ヴェルダンディーが再び訪れるで、あろう大魔王に対抗する異界の勇者が現れる事が予言されています。まさに、あなたこそ予言されていた勇者様なのです」


 尉はギルドマスターの話しに納得しつつ本を手に取り内容を黙読し始める。


『地球が生まれて間もない超古代の時代。遥か彼方の宇宙から異形の神々が飛来した。最初の神々であるいにしえのものと大いなる種族、そしてグール食屍鬼やミ=ゴなどがお互いに不可侵条約と貿易関係を結び高度な文明を築いた。更に彼らは遺伝子創作で最初の人口生命体、ショゴスと哺乳類や爬虫類などを生み出し食料や労働力として使っていた。だが、その後に強大な力を持ってクトゥルフやハスター、アザトース、ニャルラトホテプ、大いなるものなどの神々とその眷属や奉仕種族が飛来した』


『そして彼らは地球の支配権を巡ってクトゥルフを中心とした四大元素軍、アザトースを中心とした外星軍、おおいなるものを中心とした旧神軍、いにしえのものを中心とした独立種族軍による四つ巴の戦いが始まり、その争いは何十年も続いたが、終わりの見えない戦いに神々達は疲弊し始めていた。そして神々は和平会談を開き、戦いに終止符を打った。その後、元々ある大陸は独立種族が、人工的に作られた大陸は四大元素種族が、異次元より召喚された大陸は外なる神と旧神が支配する事となり再び不可侵条約と貿易関係を結び、平和な時代を築いた』


『それから先カンブリア時代に入る手前、遥か暗黒宇宙にある馬の頭星雲よりアンゴルモアの大魔王が地球に飛来した。大魔王はその力で地球を闇に包み旧支配者達や彼らが生み出した動植物の命を脅かす厄災を起こした。旧支配者達は地球を守る為に一致団結し大魔王に戦いを挑んだが、力は強大で旧支配者達は危機的状況に追い込まれてしまった。しかし旧支配者達と他の生き物が滅びる光景を悲しんだ天界に住む女神ヴェルダンディーが地球とその星に住む者達を救う為に降り立ち、ヴェルダンディーは大魔王に匹敵する自分の力を使い、旧支配者達を救った。そして共に大魔王に挑み遂にアンゴルモアの大魔王を暗黒宇宙へと追い返す事に成功した』


『だが壮絶な戦いの影響で旧支配者達の力の衰えが新たな絶滅の危機に直面する事となった。そこで彼らは一族を存続させる為に自分達の遺伝子を組み込ませた新たな地球の新たな支配者、人類と唖人種、そしてモンスターを生み出した。一方の女神ヴェルダンディーも天界の掟を破った事で地上への干渉を禁止され、天界に強制送還される際に旧支配者達にアンゴルモアの大魔王が再び地球に飛来する事とその際に異世界から勇者が転生する事を予言した。旧支配者達はヴェルダンディーの予言に従い、勇者を助ける存在としてクトゥルフ、クトゥグァ、ハスター、ツァトゥグァ、アザトース、ヨグ=ソトース、ニャルラトホテプ、大いなるもの、ノーデンスの力と魂を宿した転生体を作り出すのと同時に様々な魔術書などの異物を残し死に似た永遠の眠りに入った』


 尉は神話の内容に目を輝かせながら子供の様にワクワクさせる。


「すげぇ!俺の知っているクトゥルフ神話と違うが、でも旧支配者達と彼らが残した魔術などは存在しているんだ!そして人類などを作り出し新たな支配者にしたのか」


 尉は本をテーブルに置くとギルドマスターは頷いた後に喋り始める。


「はい。そして知性的に進化した我々と亜人種は旧支配者様達が残した遺物や魔術などを研究し文明や科学などを発展させて来ました。ですが、貴方様が現れたと言う事は再び地球に危機が迫っているのですね」


 そしてギルドマスターと受付嬢は尉に向かって深々と頭を下げる。


「お願いします。どうか我々と我々の星をお救い下さい、勇者様」


 尉は二人の頭を下げる姿に勇者として世界を救う事を決意する。


「分かりました!必ずこの世界を救いますので!えっと・・・あなたは?」


 それを聞いたギルドマスターと受付嬢は喜びながらギルドマスターは胸に手を当て自己紹介をする。


「申し遅れました。私の名はウィルバー・ウェイトリーと申します。この街、ダンウィッチのギルドマスターを務めております」


 ギルドマスターの名と街の名を聞いた尉は数秒程度、固まった後に驚愕する。


「えぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ‼」


 彼の声は街だけでなく異世界の地球全体に響き渡る程である。



 それから尉は異世界で最高ランクであるトリプルSの冒険者として女神から授かった禁術を駆使してモンスター退治や難解なダンジョンの攻略、古代遺跡の発掘調査での歴史的遺物の発見、そして旧支配者達の遺物を悪用しようとした邪教や秘密結社、犯罪組織を撲滅せた功績から世界各国から有名な冒険者として認知されていた。


 そして今、彼はエルドラド共和国のジャングルの奥地を亜人の仲間達と共に食料と冒険用道具などを載せた三頭の馬を引いて雨が降りしきる中を進んでいた。そして雨宿り出来る洞窟で火を起こして休息を取る事となった。


 尉は少し大きめの石に腰を下ろし掛けカバンから地図とコンパスを取り出し現在位置を把握し始める。


 すると尉の右隣にハイエルフの男性が座り、彼に話し掛ける。


「なぁ尉、本当にこの方向で合っているのか?」


 尉はハイエルフからの問いに地図を見ながら頷き答える。


「ああ、間違いないさ。アルジア川の水源の周辺で発見した土器と石像の位置から計算するとこの方角で合っている」


「しかし、これで何も成果が無かったら俺達は世界の笑い者だ」


 ハイエルフの言葉に尉は鼻で笑い笑顔で言う。


「弱音とは、どうしたんだ?お前らしくもない。前世では失われた古代都市Zを求めて危険なアマゾン盆地に挑み続けたイギリスの考古学者、パーシー・フォーセットが」


 尉からの指摘にパーシーは大笑いをする。


「ハハハハハッすまない、成果を得るまで何度でも挑むのが考古学の王道だよな」

「ああ。その通りさ、パーシー。でも考古学だけじゃない。この世の全てはトライ&チャレンジ、大事なのは諦めいな事さ」


 二人がそんな会話をしていると、一人の男性の爬竜人が小走りで二人の前に立つ。


「おい!尉!パーシー!洞窟の奥にあるセノーテから古代遺物を発見したぞ!」


 爬竜人はりゅうじんからの朗報に尉は飛び上がる様に立ち上がる。


「本当か!ロイ!どのくらい前の遺物だ?」

「恐らく超古代の物だ!とりあえず来てくれ!もしかして古代都市Ⅹの物かもしれない!」

「分かった!パーシー行くぞ!」


 そう言うと尉はパーシーに向かって招く様に手を前に振る。

「ああ!急ごう!」


 パーシーはそう言うと直ぐに立ち上がり、三人は走って奥にあるセノーテへと向かう。


 三人は子供の様にウキウキしながら走っていると天井からロイの肩に向かって少し

大きめのラットスネークが落ちて来る。立ち止まって蛇を見たロイは絶句する。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼蛇ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ‼」


 ロイは何かに取り憑かれたかの様に大暴れをして蛇はどこかへ飛んで行ってしまうが、それに気付かず彼は暴れ続ける。


 その光景にに尉とパーシーは腹を抑えながら大笑いをする。


「だはははははははははははははははは‼爬竜人に転生したのに未だにヘビ嫌いは変わんないだな、ロイ!」


 ラットスネークが居なくなっている事に気付いたロイは直ぐに落ち着きを取り戻しぐったりする。


「はぁーーーーーーーーーーーーっ。仕方ないどろパーシー。そりゃ俺だって転生したからヘビ嫌いが無くなったと思っていたのに全っ然、そうはなっていなくてガッカリしたよ」


 笑いが収まった尉は少し目から流れ出た涙を右手の人差し指で拭く。


「まぁ有名な古生物学者でヘビ嫌いなのはお前のある意味いい特徴だよ。ロイ・チャップマン・アンドリュース」


 尉からの褒め言葉にロイは嫌な表情をする。


「それ全然、嬉しくねぇーよ尉」


 尉とパーシーは少し笑った後にロイを慰め改めてセノーテに向かう。


 雨が止み天井に空いた縦穴から降り注ぐ太陽光が降り注ぐ透き通るオーシャンブルーのセノーテに着くとそこには新海人と二本角の黒角鬼人の男性、虹翼虫人の女性が水底から引き揚げた遺物を布で拭きながら調べていた。


 尉は虫眼鏡で破損した土器の側面に描かれている蛇の様な動物の絵をじっくり調べている虹翼虫人の女性に近づき話し掛ける。


「よ!ジェーン。発見した遺物はどんな物だ?」


 ジェーンは嬉しそうな笑顔で答える。


「凄いわよジョー。この土器は今まで発見した物より古い時代の物だわ」

「見た感じ、どの位前の土器だ?」

「そうね。見た目は紀元前三千年前の物だけど、土器に刻まれている絵文字はどう見ても失われた超古代文字よ。即ちこの土器は超古代に作られた物と推測出来るわ」


 ジェーンから出された土器の推測年代に尉は大喜びをする。


「やったぁーーーーーーーーっ!やっぱり俺の推測は間違っていなかった!この近くにⅩはあるんだ!」


 尉が言うXとはエルドラド共和国のジャングルの奥地にあるとされるエルドラドを

含めた世界各国に伝わっている黄金郷伝説の元となった古代都市。


 二人の話をジェーンの右隣で聞いていた新海人の男性が言う。


「私も前世ではエリザベス陛下の命でアマゾンにあるエルドラドを探したが、結局、空振りだったよ。でも今回は確信を持って言えるよジョー、Xは必ずある」


 彼の口から出された前世の記憶に尉は興味と感心を示す。


「へぇーーーっ。あんたもだったのか。イギリス最高の航海士でサー騎士の称号を持った偉大なる海賊、フランシス・ドレイクも」


 ドレイクは右手の人差し指で鼻の下を擦って照れる。


「まぁーな。必死だったよ。結果が得られなかったら最悪、処刑だ。でも陛下は私の働きを褒めてそうはならなかったけどな」


 すると黒い二本角を生やした男性が縦穴から見える空の明るさを見て尉に向かって進言する。


「おい尉、夕暮れが近くなっている。今日はこの洞窟でキャンプしよう」


 尉も縦穴から空を見て頷き同意する。


「そうだな。夜のジャングルは危険だ。皆!今日はここで野営だ。明日、早朝に出発しよう。ロイ!のぶ!洞窟の外に居る馬を中に引き入れてここに連れて来てくれ!」


 尉の指示を受けた二人は頷き返事をして駆け足で洞窟の出入口へと向かう。


 一方の尉はパーシー、フランシス、ジェーンと共に設営の準備を始める。


 暗い空に無数の星が美しく輝く夜空。洞窟に引き入れた馬の背中からテントを含めた野営用の道具を下し、セノーテの近くで焚き火を起こし、設営されたテントで石に座り夕食を食べながら尉達は談笑していた。


「しっかし、あの偉大なフランスの女性考古学者、ジェーン・デュラフォイが虹翼虫人として転生後はここまでクトゥルフ神話に興味を持つとは信じられないよ。専門は古代ペルシャだよな?」


 パーシーの問いにジェーンは笑顔で頷く。


「ええ、ペルシャよ。でもこの世界のクトゥルフ神話は前世で考古学に興味を持つきっかけとなった古代ペルシャよりも物凄く興味と好奇心が沸くわ」


 一方、矗は尉から様々なクトゥルフ神話に関する知識を聞いていた。


「へぇーーーーーっ。じゃクトゥルフとハスターって兄弟なんだ」

「ああ。でも正確には異母兄弟でな。父親はヨグ=ソトースでハスターの方が年上でクトゥルフは弟なんだ」

「なるほど。いやぁーーーっ、こんなにもクトゥルフ神話が面白いなんて知らなかったよ。前世で生きている内に出会いたかったなぁ」

「仕方ないよ。あんたは日本人で初めてまだまだ未踏だった南極探検を成功させた白瀬矗しらせのぶ、クトゥルフを知る前に南極へ好奇心が強かったんだから」


 尉から言われた自身の日本歴史に残る偉業に矗は少し悲し気な表情で否定する。


「そんな事はないよ。偉業を成し遂げるのに不幸と苦労の連続だったよ。探検資金はなかなか集まらないし、仲間とは最後まで不仲、挙句の果てにせっかく頂いたお礼金を遊びで散財した。もう滅茶苦茶な人生だよ」


 それを聞いた尉は寄り添う様に彼の背中を左手で摩りながら励ます。


「いいや、あんたは確かに凄い事をした。南極にはあんたの名が刻まれた地名がある。自分の偉大さに誇りと自信を持てよ。大丈夫、今度はもっといい人生を送れるよ」


 尉からの励ましの言葉に矗は自信を取り戻した笑顔をする。


「ありがとう尉。そうだよな、いい人生を送れる様に必ずXを皆で発見しよう」

「ああ、必ず見つけよう」


 そして二人は厚い握手をする。すると矗の右隣にいるドレイクは皆に進言する。


「皆!もう夜の十時だ。早く寝ないと明日の早朝に出発出来ないぞ」


 尉達は頷き、膝に置いてあるアルミ製の食器に残っている料理をフォークで平らげアルミ製のバケツで汲んだセノーテの水で食器を洗う。終えた後は歯を磨き、それぞれのテントに入る。


 尉はパーシーの居るテントに入り、野営用の毛布を体に掛けてカウボーイハットを深く被り眠りに入る。一方のパーシーは革製のカバーを付けた日記帳に今回の出来事とセノーテで発見された遺物を書き終えると日記帳を閉じて眠りに入る。



 翌日の早朝、目を覚ました尉達はセノーテで顔を洗った後に口をゆすぐ。そして朝食を食べ始める。


 ドレイクはアルミ製のコップで直接、セノーテから水を汲み一口飲む。


「これは美味い!セノーテの水がこんなにも美味いとは!」


 その事にパーシーが補足する。


「ここの地層にはミネラルが多く含まれていてな。疲労回復には最適だ」


 朝食を終えた尉達はアルミ製の水筒や空になったジェリカンにセノーテの水を入れテントを含めた野営用の道具と共に馬の背中に乗せ、洞窟を出て出発する。


 先頭に立って歩く尉はマチェットを使い、生い茂る草木を切り開きながら目指す方角に向かってジャングルを進む。


 皮膚に張り付く様なじめっとした湿気と太陽から降り注ぐ熱さによって滝の様に流れる汗によって尉達が着ている白いワイシャツが汗を吸ってベトベトになっている。


 二頭の馬を引くロイは目の前を歩くジェーンのワイシャツが汗で透けて着けいる黒いブラジャーが見え、ドキッとする。視線を感じたジェーンは振り返り矗に聞く。


「ねぇどうしたの?顔が少し赤いわよ。もしかして何か伝染病にかかっちゃた?」


 ロイは首を慌てながら横に振る。


「あ、いいや!違う!あの・・・服が透けて・・・その・・・」


 ジェーンはロイが何を言いたかったのか直ぐに勘で察する。


「ああ。ごめんなさいね。後ろに行った方がいいかしら?」

「いや、大丈夫だよ。目を背けていれば問題無い」


 などと二人が会話していると尉が草木を切り開くと何故か立ち止まり、続く様に皆が立ち止まる。


 尉の後ろを歩いていたパーシーは彼に近づき聞く。


「おい尉、どうしたんだ?」

「ああ、パーシー。あれを見ろよ」


 パーシーは尉が指さす方を見てみると草木に生い茂った機械の様な生物の様なデザインで造れた巨大な古代遺跡であった。


 数秒間であっただろうか呆然と立ち尽くす尉とパーシーであったが、直ぐに体の奥から湧き上がる興奮と感激に二人は抱き合い喜ぶのであった。


 その後、尉達は発見した古代遺跡の入り口に近づき馬に乗せてある発掘道具を下しドレイクは遺跡をフィルムカメラで撮影し、ロイと矗は入り口近く地面を掘り始め、ジェーンは遺跡の壁に刻まれた超古代文字の解読を始めていた。


 一方の尉とパーシーは聳え立つ様に作られた入り口に立って興奮に胸躍らせていた。


「やったな尉!この遺跡のデザイン、間違いないXに近づいている証拠だ!」

「そうだなパーシー。この発見は間違いなく世界の歴史をひっくり返るぞ!」


 尉はそう言うと手に持っていた携帯松明にジッポライターで火を付けて笑顔でパーシーに言う。


「俺はこれから中を調べてみるけど一緒に行くか?」


 パーシーはフッと笑い答える。

「いいや、遠慮するよ。俺は遺跡の外壁を詳しく調べてみたいから」

「分かった。じゃ何かあったら大声で呼ぶから」

「ああ、それじゃ」


 尉はパーシーと別れ、一人で遺跡の中へと入って行った。


 遺跡の中はとても広く大きな柱が等間隔で立っており、また壁や柱には絵と超古代文字が描かれていた。壁には旧支配者達の歴史を表す物だが、柱には子供の様な形をした人物像とその上には色が付いた球体、更に上には超古代文字が描かれていた。


「なんだこれは?壁画とは違い柱のは違った色の付いた球体に下には子供か?」


 尉は球体の上に描かれている超古代文字を解読する為に手に持っている松明を壁に掛け、肩掛けカバンから翻訳手帳を取り出す。


「えーとっ・・・アジュメラティク、ロロカゥナットス、ジュジュンカクット、メフォラ・・・・『星の名を持つ子供達、勇者と共に魔王を打ち払う』。予言かこれは?」


 すると尉は何かを感じ取り周りを見渡すが、松明がある所以外は真っ暗で確認する事が出来ない。しかし尉は感じ取った何かを確かめる為に耳を澄ませる。すると闇の奥から赤ん坊の泣き声を聞き取り驚く。


 尉は手帳をしまい松明を手に取り急いで奥へと走る。するとそこには籠の様な祭壇の中に柔らかい布団に体を布で包まれて寝かされていた九人の女の子の赤ん坊が寝かされていた。その内の右端の子が大きな声で泣いていたのであった。


 誰も居ない、しかも未開のジャングルの奥地で発見したばかりの古代遺跡の祭壇に赤ん坊が居る事に尉は驚きながら大声で叫ぶ。


「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!皆ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぁ‼来てくれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーぇ‼」


 外に居る皆は尉の大声を聞いて急いで遺跡内へと入る。



 その後、尉達は発見した遺跡と赤ん坊を保護した事をギルドに報告する為にX探検を中断し転移魔法でエルドラドの首都、蛙の神殿へ帰還した。


 蛙の神殿支部のギルドの食堂で尉達は円形のテーブルに座り大きなベビーカーに乗せた赤ん坊達をどうするべきかについて話し合っていた。


「やっぱり、この赤ん坊達は孤児院に預けるべきだな」


 パーシーからの進言にロイ、ドレイク、矗、ジェーンは賛同する。


「そうだな」

「まぁ。当たり前だな」

「異議なし」

「少し可哀そうだけど、この子達の為を想うと仕方ないわね」


 五人の意見を聞いていた尉は赤ん坊達を見て険しい表情をする。


「いいや。俺は反対だ。この子達を絶対に孤児院なんか入れさせない!」


 尉が予想外にも反対の意見を述べた事に皆は驚きパーシーは両手をテーブルに叩き付けながら立ち上がる。


「何でだ!尉!俺達にはXを見つけ出す使命がある!赤ん坊の面倒を見ている暇はないんだぞ!」


 尉は険しい表情を緩め、少し悲しく真剣な表情で赤ん坊達を見て言う。


「実は前世、幼い頃に両親を事故で亡くなってな。俺は十八歳で孤児施設を出るまで寂しい想いで過ごした。だからこそ、この子達にも俺と同じ想いをさせたくないんだ」


 尉の表情と眼差しは固く決意した一人の父親の様でその姿にパーシーもまた前世は考古学者あると同時に一人の父親である事に気付きゆっくりと椅子に座る。


「じゃ、お前は子育ての為に冒険者をやめるのか?」


 パーシーからの問いに尉は迷い無く答える。


「ああ。だから俺はこの子達を育てる為にパーティーを抜ける。そして冒険者を、勇者をやめる」


 尉の決意を皆は無表情で聞いていたが、胸の内は納得し受け止めていた。


「分かった。だけど尉、俺達はどんな事があっても絶対に切れない絆で結ばれた友だ。何かあったら助けてやるから。忘れるな」


 パーシーがそう言うと尉は笑顔で席を立ち、テーブルに置いてあったカウボーイハットを被る。そしてベビーカーを押しながら尉は笑顔でパーシーとハイタッチをしてギルドを出るのであった。



あとがき

どうも皆さん、イズミンです。クトゥルフ神話を題材とした自信作です。

『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』はクトゥルフ神話を題材とした私の大好きなドラえもん映画作品です。私の中では『映画ドラえもん のび太のクトゥルフ神話』と呼んでいす。オススメの作品なので是非、見て下さい。これからも応援よろしくお願いいたします。

イア・イア・クトゥルー・フタグン

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