アライグマボズと風船
アほリ
アライグマボズと風船
アライグマのボズは外来種である。
しかし、そんなことは産まれてこの方知らなかった。
知らなくてずーーーーっととある森で暮らしてきたが、とある日。
「何で余所者が此処に居るんだ?!」
「ちゃう!!俺は生まれてから此処で暮らしていたんだ!!」
「アライグマって嘘つきなんだな。君は何処出身なの?」
「嘘じゃありません!!俺はこの土地に産まれて生きてきたんです!!」
今まで一緒に生きて来た筈の動物達に、いきなり掌を返したようにいきなり言い掛かりをつけられてしまったのだ。
「お前本当に目障りだな!!」
「そうだ!!目障りだ!!」
「目障り!!」「目障り!!」「目障り!!」「目障り!!」
更に森じゅうの動物達が取り囲んで大声でアライグマのボズに罵倒してきたのだ。
「だから!!お前は何も解ってないんじゃね?!お前が此処の者では無い厄介者の『外来種』って事だ!!」
「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」「外来種は出ていけ!!」
森の動物達は俺を取り囲んで、口々に゙アライグマのボズに攻撃してきた。
ここにきてどうやら森の動物達は、『外来種』であるアライグマのボズが此処に居る事自体の鬱憤がいきなり爆発したのだ。
他の者の堪忍袋の緒が切れるのは、突然の事である。
それが、集団でブチギレるのは溜まったものではない。
周囲の殺意を感じたアライグマのボズは発狂して、この森を慌てて逃げた。
逃げて逃げて逃げて何処までも逃げていった。
・・・・・・
・・・・・・
アライグマのボズは孤立した。
だれひとりもう信じられなくなっていた。
アライグマのボズは探す。アライグマ本来の居場所というものを。
それが、遠く遥かに苛烈な道だと分かりきってながら。
「俺の居場所は何処だ・・・俺の居場所は何処だ・・・」
アライグマのボズは小言を言いながら鼻を地面に突き出して同じアライグマの匂いを嗅ぎ分けて、かつて小太りだった名残りのある痩せこけた身体をうねらせて歩いた。
「ん?」
アライグマのボズは、前脚に何が柔らかいものの感触を感じた。
「何この青い袋みたいな・・・?」
アライグマのボズの゙鼻は、すっかり萎んだ薄汚れた青い風船を捉えた。
「飛んできた風船か・・・飛んでいる最中に、栓が外れて萎んで堕ちてきたのかな?
よし、俺が風船を膨らませて空へあげよう。
・・・って、どうやって風船を膨らますんだっけ?」
アライグマのボズは、まず鼻で萎んだ青い風船のゴムの匂いをクンカクンカとかいだ。
くんかんくんかくんかんくんか・・・
ぽすっ。
鼻の穴の吸気が、ゴム風船の吹き口にアライグマのボズの口元に宛てがわせた。
「ふぅーーーー・・・」
ぷくぅ〜〜〜〜。
「おっ!!息が吹いたら、風船がプックリ膨らんだぞ。
そうだ!!もーーーーーっと、風船に息を吹き込んでみよう!!」
アライグマのボズは、息を深く深く深く深く深く深〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜く、思いっきり胸が風船のようにパンパンに膨らむ位に大きく息を吸い込んで・・・
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
アライグマのボズはほっぺたを顔の形が変わる位に大きく孕ませ、顔を真っ赤にして思いっきり青い風船に吐息を口で吹き込んで大きく大きく膨らませた。
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぷぷぷぷぷぷぷぷ・・・ぶぅっ!!」
アライグマのボズの吐息が続かなくなり、ゴムの反動でアライグマのボズのほっぺたが膨らませている青い風船より大きく膨らんだと思うと、
「ぶふっ!!ぶごおおおお!!!」
ぷしゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!ぶおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!
「行かないで!!僕の風船!!」
青い風船はアライグマのボズの口から離れ、アライグマのボズの吐息を吹き口から勢いよく吹き出して、周りを右往左往に吹っ飛んでいった。
ぽとん。
風船に逃げられて半べそをかいたアライグマのボズの目の前に降りてきた、すっかり萎んでゴムが伸び切った青い風船。
「僕の風船が戻って来たんだ。逃げ出したかと思うよ。
何か触った事をしてたらごめんね。」
アライグマのボズはすっかり萎んだ青い風船を拾い上げると、息をめいいっぱい吸い込んでも頬を孕ませて再び息を吹き込んで膨らませた。
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
ぷぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
「アライグマさん!何してるの?」
「ギクッ!!」
アライグマのボズは声がした方を振り向くと、一匹の大きなツキノワグマが立っていた。
「君、風船膨らませてるんだ。いいなあ。僕も風船大好きなんだ。
ねぇ、仲間になろうよ。」
「えっ。なかま?!」
突然、アライグマのボズの胸にこみ上げてくるものがあった。
「うん!仲間!フレンド!クマ同士じゃん!!俺の名前は『ホズ』!!」
「僕の名前は『ボンブ』っていうんだ!!」
「『ボンブ』!いい名前だねえ。あ、そうだ!!この風船あげるよ!!」
「本当にいいの?ありがとう!!」
ボズは、鼻の穴を孕ませて目を輝かせているツキノワグマに、膨らませた風船をあげようとした。
しかし、ツキノワグマのボンブの鋭い爪に風船が触れてしまったとたん・・・
ぱぁーーーーーーーん!!
突然、青い風船がいきなりパンクしてしまった。
「ビックリした・・・!!」
「ビックリした!!」
「ぷ・・・」「ぷっ!」「ぷぅーーっ!!」
「ぷははははは!!」
「あっはっはっはっは!!」
アライグマのボズとツキノワグマのボンブは、お互い顔を見合わせると思わず吹き出して大爆笑した。
野原で戯れて、山野を雑木林を駆け回って一緒に遊んだ。
「俺はアライグマ!!」
「おいらはツキノワグマ!!」
「ひとりじゃない!ふたりはクマ!!」
「アライグマにツキノワグマ!!」
「他の動物達に嫌われるアライグマが外来種でなんだっていうんだぁー!!俺は茶色い風船だ!!」
「仲間が人間に次々と人間に殺されるツキノワグマは危険だとか偏見がなんだってんだぁー!!おいらは黒い巨大風船だ!!」
アライグマとツキノワグマ。お互いの生きる事の素晴らしい思いは、風船のように膨らんでいった。
しかしお互いがその後、人間がエゴの針でパンクさせられる運命にある、『クマ』という風船であることを・・・
〜アライグマボズと風船〜
〜fin〜
アライグマボズと風船 アほリ @ahori1970
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