〇〇〇の合唱
ゲーム開始時の生徒たちの行動はおもに三つに大別された。
一つ目は素直に開錠されたと思しき扉へと向かうもの。
二つ目はこのクソゲーについて説明した男とカメラマンに殴りかかるもの。
三つ目はじっとしているもの。
一つ目の集団は言うまでもなく、たった一つだけある楽園を真っ先に探しに行こうとした。ただ、このグループ――のおもに先行するものたち――は、著しく冷静さを欠いていた。押さない駆けない喋らない、とは小学生の子供でも習う鉄則であるが、集団を先導する担任教師たちの姿はここにはなく、クラス委員長たちの多くも平静ではいられない状況では、そんな鉄則を正確に守ろうとするものはいなかったし、また残念なことに周りを落ち着かせようとするものもこの場では現れなかった。
その結果として二つの扉のうち、スーツの男性が立っている側では、統制を失った生徒たちが扉を開けようとしている列の先頭に突っ込み、数人が前の人間を押しだすかたちとなった。幸か不幸か将棋倒しにこそならなかったものの、数名は腹が圧迫され、ブッリュッリュッリュッリュッリュッリュが聞えてくるよ、とでも言わんばかりの豪快な音色を奏でることとなった。そして、音と臭いは伝播し、後ろに並んでいた数人もまた、早々と時の人と化したのだった。結局、この列で無事に脱出できたのは、三名ほどであり、そのうち一名のほっそりとした女子は広間から一歩踏みだした瞬間に力尽き、新鮮な空気に夥しい臭気とねっとりとしたクソをパンツに散らすことになった。後は任せた、と彼女が生き残った二名に言ったとか言ってないとか。
幸い、もう一つの扉の方は無事に開いたのもあって、さしあたっては室外に飛び出ることができたが、彼ら彼女らの旅はまだまだ始まったばかりであり予断は許されない。
二つ目の集団の実行したことはシンプルだった。今尚、沢渡がクソをひりだすのが止められず、世界中のアイドルになっている最中ではあったが、そんなことは関係なかった。
人数ならこちらの方が多いんだからどうにかなるだろう。こいつらが封鎖したらしいトイレを力尽くで開けさせる。そもそもぶん殴ってやりたい。っていうか、この馬鹿げたゲームを作ったやつらの口にクソを流しこんでやりたい。……などなど、動機自体は様々だったが、スーツの男性を中心とした主催者側の人間を殴り飛ばしたいという一点において、彼ら彼女らの利害は一致していたため、とにもかくにも最後の力をふり絞って全員で襲い掛かった。しかしながら、スーツの男は右手でサングラスをずらしながら、
「なんとも浅はかな行動だな。まあ、高校生なんてそんなもんか」
などと口にしてから、向かってくる生徒一人一人の襲撃をかわしつつ、鳩尾に前下痢……蹴りや拳を的確にぶちこんでいく。その一撃を打ち込まれると同時に、多くの生徒たちが、パンツを茶色く、あるいは不健康ゆえにほんのりと赤く染めたりした(これらの糞事情は、生徒たちのパンツをあらためる別コーナーにて判明した)。もちろん、生徒たちも多人数なため、司会をしていた男だけでは対応は難しい。ゆえに、カメラマンのうち何人かが、自らの撮影という仕事をこなしつつ、生徒たちの腹部への打撃や圧迫を加え、攻撃を加えようとした生徒たちは漏れなく大小問わずブブブッブーと漏らしっぱなしになった。先行部隊の惨状に、同じように暴力を加えようとしていた後続集団は、たまらず尻尾を巻いて逃げることとなる。それを見て、スーツの男は口の端を歪めた。
「賢明な判断だ。とはいえ、少々、遅きに失したようだが」
そう。彼ら彼女らは、良くも悪くも後先考えずにこの攻勢に賭けていたものたちである。そんな彼ら彼女らの尻の穴もまた、後も先もなかった。おまけに逃走のために全力疾走。こうなれば、もはや、スーツの男やカメラマンたちが手を下すまでもない。
ブチュルブチュルルブチュブチュブチュゥ!
こうしてまた、多くのパンツ上においてワールドエンドスーパーノヴァが起こった。すなわち、この集団は漏れなく燦然と輝く星々となったのである。
残った三つ目の集団の内部事情は生徒それぞれで異なる。扉に向かう集団を見て、今行くのはまずいと判断したものや、とりあえず様子を見ようと思ったものの、動いたら大噴火が起こると本能的に察したもの、そもそも事態について行けずに動けなかったものなどなどなど。彼ら彼女らの判断は差し当たってはもっとも賢明に見えた。しかし、広間であろうとも、室内であるという一点が、この前提を突き崩すこととなった。そう、臭気である。ゲーム開始直後に既に半数以上が漏らしたあとで、一部の尻穴からの濁流が止まった生徒たちのパンツの点検が行われはじめたのもあり、室内に臭気が籠りはじめていた。こうなると、もはや定番となったあの現象が起こる。そう、もらい糞だ。
蔓延する糞漏らしの音と臭いはある種の甘やかな誘惑に繋がる。到底、我慢できそうもない環境。おまけに周りの多くは漏らしている。だったら怖くない、という思考。……実際は、デジタルタトゥーをしっかりと刻まれ、良くも悪くも有名人になるのは確定しているので、この恐怖のなさは錯覚である可能性が高いのだが、人というのは得てして楽な方に流されたくなるものであり、ならば、もう何も怖くないと思う、あるいは思おうとするのは何の不思議もないのではないのか、と。
さあ、皆さんご一緒に。
ブッブッブッブッブッブッブッ! ブッブッブッブッブッブッブッ! ブッ! ブッ! ブッ! ブッ! ブブ! ブブ! ブブ! ブブ! ブッ! ブッ! ブリュッ!
一致団結した彼ら彼女らは、天にも昇るような心地で尻の穴から流れる激しいマグマに身を任せたのだ。
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