〝ケィちゃんのしんぱい〟編
第11話【〝夜の生活〟はお仕事です】
あとのことはまるでトロッコが坂をくだるように滑らかにことは運び、〝結婚式〟という厳かなセレモニーを経ていざ初夜へ! 結婚となれば当然ついてくるイベントだ。
もうそこからわたしはとろとろ、めくるめく性生活の毎日へ————。それは夜の生活っ! ぶっちゃけ性生活っ! もうこの頃には、そしていつの間にか肝心の殿下のお顔は、もう贔屓が入ってるって自覚あるけど〝割と端正な方〟と思えるに至っていた。
そんな〝毎日〟が続いている昼間の或る日、
「妃殿下のお話しでどれほどわたしが慰められたか分かりません——」と、唐突にケィちゃんは切り出してきた。
あら、珍しい。お下の話しをケィちゃんからだなんて。すごく〝他のことば〟で言い換えているけど、べつにわたしが優しいことばをケィちゃんにかけてあげたとかそんなんじゃなくて〝自慰行為〟、ぜったい〝オナニー〟よね。
「あぁ、高貴な方々もわたしたちと同じなんだって……」と続けていくケィちゃん。
わたしが真の意味で〝高貴〟かどうかはさておいて、確かに身分なんてどうでもよね。女の身体は女の身体だし、男の身体は男の身体よね。
「しかしです、妃殿下のお話しは真っ昼間から〝夜の生活〟のお話しばかり。これでは〝夜の生活〟しかないではないですか」
こんな調子ばっかりを続けてきたせいか、ついにケィちゃんに言われてしまった。
さては嫉妬? と一瞬思わなくもなかったけどそれなら最初から怒って話しを聞くことも拒絶しているはず。ケィちゃんはむしろどんどん前のめりになってわたしのお話しをご静聴してくれた。
しかし、たったいまの言いっぷりは、うっ、ってカンジでなにげにぐさりとクル。
〝行為〟、性行為なんてそれ自体はいつもと同じことをしているだけとも言える。それを他の人に話すと〝いっつもおんなじこと言ってるな〜〟になるしかない。アレは身体で、全身で快楽づけになるものだから、〝考えるより感じろ〟の世界だから。
しかしもうケィちゃんは『わたしが慰められた』と、隠喩とは言え、このわたしの話しでオナニーしてました、とすでに自供したようなもの。こっちにはケィちゃんを精神攻撃して辱めるためのもう切れる〝カード〟が残ってない。
「でも楽しいんだからしょうがないじゃない。今夜も楽しみだし♪ 好きな
さすがに『誰でもイイからわたしの中に挿れて』レベルまで〝男という生物〟に性依存はしていない。それに妊娠してもどうせ〝すぐ次を〟になるんだから。生んだ後の久々ってのも興奮するだろうな。あっ、でも産むときすごく痛いはずよね? また産みたい気分になるのかな? でもこれがわたしの〝絶対的大義名分〟。
「——それにわたしに求められているのは〝跡継ぎづくり〟なんでしょ? だったらそれって〝夜の生活〟そのものじゃない?」と開き直る。
「それが心配なんです。もしご懐妊となれば日常的に禁欲生活になりますから。できてしまった後、〝夜の生活〟は当分無くなります」
ケィちゃんの言うことなんて想定内。
「だけどそこは〝子どもは一人でいい〟にはならないわよね?」
「その……、必ずできることを前提にお話しなさっているようですが……」と語尾を濁すケィちゃん。さすがに察した。〝あれ、でももしや〟、と。
究極の懸念はもう頭に湧いていた。何度ヤッても妊娠しない可能性って——ある? あっ、いや、わたしはまだ29だ。まだ時間的余裕はあるはず——
「——その、あまりに〝好き〟だと妃殿下のお心が——、あっ、いえ、もちろん〝好き〟とは『殿下が好き』ということで他意はないですからっ」
わたしがナニカを察する前にもうセルフ突っ込みか。すぐ発言を微調整したってことは、いまの、『SEXが大好き』っていう意味で言ってたよね。
しかしそんなことは些末なこと。心配事は訊いてみたくなる。
「もしなかなかできなかったらどうなるのかな〜って」、と。
この場合〝なかなか〟ということばはわたし的に絶対外せない。
「想像通りといいますか、できないとだんだん立場がまずくなり〝夜の生活〟を楽しむどころじゃなってきます。だから楽しいのは最初の一年、長くて三年です」
うっ、なんという生々しさ。『もう29歳なんだから』と異世界に来てまで言われたような気がする。
でも王族は血族なんだから血を繋ぐためには〝子づくり〟は当然と言えば当然か。だからいまのわたしの自分でも思いもよらなかった淫乱ぶりも周りは〝お仕事をこなしている〟ように思っていてくれる。
「あの、ケィちゃん。わたしは毎日いえ、毎夜愉しみながら〝お仕事〟をしていると言えるわよね?」
「もちろんです」
「そのがんばりは評価してくれないの?」
およそ〝頑張る〟ようなことをしていないにも関わらず口から出てくるこうしたことば。
「それは……」
「いいから言ってみて。わたしとあなたの仲じゃない」
「がんばりよりも結果が求められます」
「それって……」
「最悪妃殿下が承認を求められ、しかも、承認するしか道が無いのかと……」
「なな、なにを承認するように求められるのかしらら?」声に多少の震えが出たのを自覚する。
「側女をです」
「そ、〝そくじょ〟とは?」
どう考えを巡らせても『息女』になるはずがない。生んでもいないのに息女がいるわけない。もしかしてもしかして字で書くと『側女』? 〝そばめ〟の呼び方を変えただけなのでは?
「は、早い話し子どもをもうけるための〝他の女〟です」
やっぱりかっ! この世界漢字も無いのになぜか存在してる漢字なぞ掛け——
「——あ、あの、妃殿下、だいじょうぶですか?」
「え、えーっ!」
わたし一瞬固まってたみたい。どこか薄々気づいていたはずなのにハッキリ聞いたらいまごろになって声が飛び出てきた。
「あ、いえ、まだご結婚されたばかりでいまからもう産めるか産めないかのお話しは早すぎます」
「でもみんな〝
「それを期待して異世界からの嫁取りですから。でも本来そういう〝お世継ぎ〟の話しはわたしども下々の民にとっては口にするのも恐れ多いことですから」
「でも、陰口的には言ってるんでしょ?」
「ええ、まあ……、あっいやでも、わたしが言いたいのは〝お世継ぎ〟の話しじゃありませんっ」
「じゃあ、ケィちゃんの言いたいコトってなに?」
「あっ、その、〝言いたいこと〟だと少し強くて、〝気がかりなこと〟とだと思っていただければ……」
「もうっ、わたしとあなたの仲じゃない。お姉ちゃんだと思ってなんでも言ってみて」
そう言うとケィちゃんは上目遣いにわたしを見ながら、
「では——」と、おそるおそるといった調子で切り出し始めた。
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