第6話【殿下の告白】
せっくす、せっくす、こんな悶々とした気持ちは誰かにぶちまけたい。そして受け止めて欲しい。もち、こんな話しは〝男〟になんてできるわけない。そこは〝同性〟でないと。そしてどうやら〝受け止めてくれる人〟はもうわたしの目の前にいるっぽい。と言ってもわたしと日常的に関わる人はたった一人しかいないわけだけど。
その名はもちろん『ケィちゃん』。
〝女子同士の猥談〟で一線を越えたあと改めて『これからは〝ケィちゃん〟って呼んでいいかな?』と念を押すように訊いたら最初は明らかに拒絶といった反応で固辞されちゃったけど、それでもぐいぐい押し込んでいったら、
『妃殿下がそれで良いとおっしゃるなら』と最後には同意してくれた。やった!
そうして〝そろそろ頃合いか〟と思い、過日の『また後日ね、』の後日の設定の決断ができた。それが今日。
「ケィちゃん、いつもの調子になるんだけど、いいよね?」とまずプレッシャーかけがてら念を押す。もちろんケィちゃんは同意するしかない。悪いわね、ケィちゃん。あっ、でも最近もうけっこうノリノリか。
————わたしと殿下の初夜の出来ごとを語るのはこれが初めてじゃない。何度も同じ話しを繰り返してると思われるけど、真の意味でのその顛末(〝このわたしに挿入してリズミカル運動が始まるところ〟、が顛末じゃないんだなこれが)までを、これまでケィちゃんには語ってこなかった。その段を語り終え「どう思う?」って感想を訊いた。
ケィちゃんは「どう思うかと言われましても……」と今度こそ真実困惑気味に。ふだんならふたりしてけっこうノリノリで盛り上がってきたのに今日のテンションは少し色が違う。しかしわたしがそういう話しをしているのだからしょうがない。
ケィちゃんはなにかを言わねばならないというその立場の自覚からか(ゴメンネ)感想を述べてくれた。
「上手く入って良かったですよね」
「……」
ケィちゃんが言ったのはもちろん男性器を女性器に差し込む話し。初夜のときのことを話したらこんな答えになった。
ケィちゃんの話しは……、間違いなく〝子づくり〟の話しになっていて、〝最初は固くてなかなか
同じ〝処女〟でもわたしとは違うんだろうな。
処女には2種類ある。本物の処女とナンチャッテ処女だ。ホント、〝こっち〟が困ることをホントにナチュラルに、いいえ、ナチュラルというよりは天然に言ってくれる。ケィちゃんは。
わたしの中に〝上手く入った〟のは当たり前。ここに来るまで〝本物〟が入ってくる機会こそ無かったけど、いろいろじぶんで挿れてはきていて、そうした訓練の結果適度に柔らかく、そして開くようにはなっていたから。
あっ、『訓練』は表現として少しヘンなのか。
だって訓練とはつらくて厳しいもの。しかしわたしの〝してきたこと〟といったら気持ちよくなるために繰り返した結果だし。
でも最初は……ナニカが入ってくるのをまるで拒むようにぎゅっとつむるように固く閉じていて……アレ挿れたとき〝いててて〟とそれなりの痛覚は感じたから、最初の方だけは訓練していたと言えるのかも。
もちろん怖くてまだわたしはこの秘密を殿下にもケィちゃんにも打ち明けられていない。打ち明けるつもりも無い。もちろんケィちゃんに。なにを挿れていたのか訊かれるのが怖くて。
だからあまりに滑らかに入っていくから殿下からは〝処女〟だと思われていなかったかも。わたしには挿れたときの感触がどんなものかなんて永久に解らないけど、やっぱり〝適度な締め付け感〟があった方が気持ちいいのかな?
緩くて〝がばがばな女〟なんて殿下に思われていないかな。これもまた怖くて本人には訊けない。
わたしが問題にしているのはわたしの性器がどれほどの圧を加えているのかという締まり具合ではなく別の視点。そこへ行く前の話し。
「あの……、妃殿下、なにかわたしおかしなことを言ったでしょうか?」とケィちゃんがおずおずと切り出してきた。
(言ったわね、わたしの気分的には)
でも、
「いえ、いいの。わたしの説明が足りなかったのが原因だから。わたしが引っ掛かったのは〝殿下の床あしらい〟がやけにお上手だったこと」と口にする。
「きゃっ、『床あしらい』だなんて!」とケィちゃんの声がひっくり返る。
え? 知ってるんだ、こういうの。
だけど『てくにっく』とか言うより少し上品だったと思うんだけど……、あれ? そう言えばこれって『プロ』っていう意味が入っていたっけ? まあいい英語由来のことばじゃよぶんに説明の時間がかさむ。とにかくいまは〝続き〟だ。
「それでわたし殿下に尋ねたの。初めてでなぜこんなにお上手なんですか? って」
「妃殿下はそんなことを訊いたんですかっ⁈」
ことばを文字に起こしたならわたしが怒られているみたいだけど、間違いなくコーフンきてるわね。〝興味〟がこっちにジンジン伝わってくる。だけど今日のは少し違うんだよね、愚痴を聞いてもらいたかったというか。
せっくすせっくすって、せっくすに飢えてはいたけど理想はあった。行為の日には互いに処女と童貞を交換し合いたかった。合体に四苦八苦したかった。
だけどわたしは殿下にとっての〝初めての女〟じゃなかった。理想は理想のままもう永遠に叶うことは無い——
「申し訳ないシウさん、周囲の勧めで恥をかかぬよう何度も練習したんだ——」
〝なんどもれんしゅう〟、つまり他の女と……
これを言ったらケィちゃんの顔が蒼ざめていた。どこをどう見ても興奮顔じゃなかった。間違いなく〝知らなかったこと〟だったよう。〝重い秘密〟をむりやり持たせてしまって悪かったけど、いくばくかわたしの心は軽くなった。
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