第3話【赤裸々】

 わたしは続きを語り出すことにする。もちろん〝物語〟なんかじゃなく正真正銘のわたしの身に起こった実話。

「この世界の夜はぼんやりとして薄暗い。だから女としてはこの〝薄暗さ〟に救われる。だって。特に〝〟は遠目からじゃなんてからね」


 なにしろここは異世界。電気の照明が無いせいで夜の明かりはランプ。


「はいっ」とケィちゃん相づちをうつ。

 おっ、今日は間違いなく食いつき方が違う。よぉしっ。

「それに比べて〝殿方とのがたの性器〟は遠目からでも解りやすい。だって勃っているんですもの」

 ケィちゃんは両手を握り拳にして頬に当てた。そんなケィちゃんをわたしは抜け目なく観察している。目をつむり視線を逸らす仕草がまったく見られない。だからこっちもいよいよノッてくる。

「——〝わたしの身体が勃たせているんだ〟、と思ったらもう心の中は幸福感と万能感でいっぱい。間違いなくわたしの力で殿下を興奮させてるんだって、」


「はい!」


「意中の殿方とのがたが勃っている姿に喜びを見いだすのが大人の女。〝いやらしい〟なんて思ってしまって嫌悪感を示すのが〝女の子ども〟、つまり女の子」

 ほんとうのところ〝異世界人の身体のしくみってわたしたちと同じなのかな〟って不安は無くはなかったけど、でも〝異世界人〟は〝異星人〟じゃなかった。


「——だから殿下はランプを手にとってわたしに声をかけるの。『どうか近くで見せてくれませんか』って、」


「あっ、あのっ。そのとき殿下は妃殿下のお名をお呼びしましたかっ?」


「呼んだわね。〝わたしがそんなに見たいんだ〟って思ったらもうたまらなくてたまらなくて。それに殿方とのがたにとっては極限状態の興奮の中にあるはずなのに努めて〝冷静〟に振る舞おうとする殿下もももうたまらなくてっ」


「さすがは殿下っ、育ちが違いますね」


「でもちょっとだけイジワルに感じもしたかな。わたし〝股〟って開かせてくれるもんだって思ってたから。なにしろ勃ちっぱなしなわけだし、〝もう我慢できない!〟でも良かったのに。だからこっちがモジモジしていれば膝頭をつかまれて、こうガバッとね、」


「そっそうはなさらなかったんですかっ?」


「そう。『開いてくれませんか』って言うの。真っ裸姿で自分の方から股を開く女。なんて卑猥な女なの。わたしこれでも〝清楚可憐な女〟のつもりが一気に〝卑猥な女〟へと奈落の底へ。そう思っただけでもう指一本触れられていないのにわたしの方がもう興奮してきてしまって」


「まあっ」


「でも後から考えたら当たり前だったわね。ランプを手にしたままわたしの股を開かせようとすると危ないから。ベッドの上は燃えやすい物だらけだから。だから『開いてくれ』ってお願いされたんだって」


「妃殿下としては『開かされたかった』ということなんでしょうかっ?」


「そうね。いつまでも〝清楚可憐な女〟を気取れないのは解っているけど、最初の最初から〝じぶんで股を開く女〟ってのもね、そういうのをわたしの元の世界では『ビッチ』とか言って蔑んでいるようなところがあったし、」


「そうですよねっ、やっぱり〝恥じらい〟はどの世界の女でも必要ですよねっ」


「だけどね、わたしの元の世界では〝せっくす〟いえ〝性交渉〟には、ってことになってしまっているの。たとえふたりが


「それは素晴らしいじゃないですか」


 あれれ? 理性をどこかへ飛ばすような話しをしているのに、〝この反応〟。理性が嫌でも戻ってくる。


「だけどケィちゃん。それ、わたしたちの立場ではけっこうキツい風習なんだけど、」


「え? そうでしょうか?」


「そ、〝清楚可憐な女〟を演じたい女にはね。身体の仕組み的に最初に興奮するのは殿方とのがたよね」


「そ、そうですっ、『わりと簡単に勃つみたい』って妃殿下もおっしゃってましたし」


「つまり、申込みは殿方とのがたで、その申込みに同意するのがわたしたち、ってなるのがたいていの形よね?」


「そうですっ」


「だけど殿方とのがたほうが恥じらい深いおかたで、その気はあるのに〝申込み方〟が上手くない場合、わたしの方から申し込まねばならないの。そうでないと〝同意が無い〟ということにされてしまうから」


「えっ? 妃殿下の方から申し込まれたんですか?」思いっきりケィちゃんに訊かれてしまった。

 しまった! ついうっかり! 一般論として〝女性の方から申し込まねばならないの〟と表現しておくべきだった。


「そ、そうね。『恥ずかしいですけどふたりで楽しくお仕事しましょう』ってわたしの方から申し込んじゃっているかな」

 王家・王室である以上、『セックスもお仕事』という特殊状況を方便にできる。この点名分が勃つ、じゃなくて立つ!


「おふたりとも素敵ですっ。新妻を前にしどろもどろになってしまう夫と、そんな夫を優しく包み込むような新妻なんて!」


 ——あれ? 卑猥な話しになるよう心がけて喋っているのになぜにロマンチック路線に?

 それにケィちゃんもナチュラルにこたえることを言ってくれる。『新妻』だなんて。いつまでも新しくはいられないのが〝妻〟なのよね。わたしは結婚願望が強かった分、スレないっていう妙な自信はあるけど、身体は新しいままではいられない。ただでさえ出産適齢期の上限が迫っているのに。

 途中までは調子よく一方的に攻められていたと思ったのに。これがケィちゃんとわたしの性格の違いなのね……

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