第109話 感眼
マリカルの固有魔法──プランガル王国では特殊才と呼ばれているようで、遠視は三級のことだった。
でも、探し物依頼ををいくつか受けてわかった。マリカルの特殊才はいくつかの能力が混ざった千里眼系だ。
直接、と言うか、目や心眼で見る系ではなく、媒体を使っての間接遠視? 的なものだ。
対象者の記憶や魔力、気配を複合的に感知して、媒体を通して対象物を視ているのだ。
いくつかの中には未来視も多少なり混ざっているようで、自分の未来を感じて進む方向を視ているみたい。
ってことはだ。媒体となる道具にそれぞれの能力を上昇させる付与を施したらもっと細かく、もっと正確に能力を発動させられるんじゃない?
「遠視であり透視であり未来視でもある、か。複合型超感覚的知覚能力ね、マリカルの特殊才は」
「な、長ったらしいね」
「じゃあ、感眼でいいでしょう。感覚知覚で視ているんだからね」
テレパシーとか言ってもわかんないでしょうしね。
「感眼か。いいんじゃない。なんかしっくり来たわ」
マリカルも遠視には違和感があったみたいね。しっくりくるならよかったわ。
「探し物クエスト、なくなっちゃったわね」
十個はあったのにもうなくやっちゃった。もっと検証したいことはあったのに。
「にゃ~」
静かにティナのリュックサックの上にいたルルが泣いた。
意識を周囲に向けると、怪我をした人が入って来た。
「ゴブリンの群れがランザカ村に現れた! 至急出動を頼む!」
「手の空いている者はランザカ村に向かえ!」
ギルドの人がすぐに反応し、ベテラン感のある人らがすぐにギルドを出て行った。
「わたしたちも行ったほうがいいのかな?」
「どうだろう?」
「てか、わたし、まだ見習い試験やってないよ」
「あ、そうだった」
依頼はわたしが受けてたんだったっけ。
「とりあえず、職員さんに訊いてみようか」
ここで考えても仕方がない。職員さんに訊いたほうが手っ取り早いわ。どうなんでしょう?
「お嬢ちゃんたちは援護だ。こらから向かう職員と向かってくれ」
「わかりました。仲間のマリカル、まだ見習いでもないんですが、一緒に連れて行っても構いませんか?」
「そっちのお嬢ちゃんか。まあ、一緒に依頼をこなしているんだし、冒険者に登録するよ。銅星だ」
いいのか? とは思ったけど、わたしたちも特例でなったんだから構わないかと納得してマリカルも銅星冒険者となった。
「いいのかな?」
「いいんじゃない。依頼をこなしていれば認められるよ」
何事も結果を出さなきゃ認められないもの。銅星に相応しい仕事をやって行くとしましょう。
職員の用意が出来るまで待ち、出来たら馬車に乗ってランザカ村に出発した。
「ランザカ村ってどんなところ?」
「ボクは知らない」
「わたしも。名前を聞いたのも初めてだわ」
コンミンド伯爵領、それなりに広い領地であり、パルセカ村とロンドカ村で大体は事足りるから他の村って行かないのよね。ねぇ、あなたどこの村出身とかもなかなか訊かないしね。
「ランザカ村は端にある村で果実を主に作っている村だ。リンゴとか市場でよく見るだろう」
と、御者をする職員さんが教えてくれた。
「あー。ありましたね。高いから買ったことはないですけど」
一個銅貨二枚もしたから買わなかったのよね。わたし、そんなにリンゴを好きじゃないのよね。前世ですりおろしリンゴ、よく食べていたからさ。
「ボクは好き。でも、今の時期のは酸っぱいんだよね」
そうなの? 好きなら言ってよ。初めて知ったわ。
「わたしも好き。焼きリンゴ、美味しいよね」
「プランガル王国にもリンゴがあるんだ。結構広く作っているものなの?」
「そうじゃないかな? でも、寒い地でよく作られているって聞くよ」
元の世界でも寒い地のリンゴが有名だったっけ。世界が違えどそういう果物なのかしら?
「にゃ~にゃ~」
と、ルルがお腹空いたと鳴き出した。
「はいはい。職員さんたちもどうぞ」
リュックサックからサンドイッチを出して職員さんたちに配った。
「用意がいいんだな」
「リュックサックの一つはお弁当用なので」
ルルたちにも出して揺れながらちょっと遅めの昼食を食べた。
「後方から馬が来るよ」
ティナは目がいいのでわたしにはまだ見えない。よく見えるわよね。
「おそらく城の兵士だろう」
「兵士って魔物が出たときにも動くんですね」
そんなに兵士はいなかったからはず。戦争も数百年もしてないって聞いたわ。
「たまに魔物の被害は起こるんだよ。ゴブリンが出たってのは今回が初めてだけどな」
それなりに平和なファンタジーワールドかと思ったらそうでもないみたいね。やはり武器は作ったほうがいいかな?
わたしにも見えてきて、わたしたちに構わず通りすぎてしまった。
「緊急事態に迅速に動けるんですね」
もっと鈍いのかと思ったよ。
「動けず滅びた領地は結構あるからな。コンミンド伯爵様は優秀なほうさ」
さすが王国でも有力な立場にいる人。お嬢様が王子様の婚約者候補になるのも納得だわ。
「見えて来たぞ」
職員さんの声に振り向くと、黒い煙が上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます