第110話 実験
ランザカ村は結構大変なことになっていた。
果樹園が多く占めた村らしく、家は点在しているけど、繁華街的な場所はある。火はそこから上がっていた。
「ゴブリン、人の多いところを襲うんだね」
点在する家を襲うほうが楽で安全だと思うんだけど、わざわざ人の多いところを狙うってなんでだ?
「火を消せ! 怪我人を集めろ! お嬢ちゃんたちは水を汲んでくれ!」
職員さんの指示にしたがい、わたしたちは井戸に向かって水を汲んだ。
「キャロとマリは桶を探して」
「わかった」
力仕事はティナに任せて、わたしたちはまだ燃えてない家に向かって桶や鍋を探して持ってきた。
あれこれやっていたら繁華街的な場所以外ね村の人が集まり出し、燃える家を消火したり怪我人を運んだりして、あっと言う間に暗くなってしまった。
「食料を集めてください! 夕食を作ります!」
一応、冒険者ギルドが備蓄の芋や小麦、塩なんかを運んできたので村の女性陣とすいとんを作ることにした。
村長さんの家はゴブリンの襲撃から守られたようなので、避難所をそこに移すことになり、わたしたちは食事班に任命され、なぜかわたしがリーダーとして仕切ることになった。
村と言っても町の規模はあり、村長さん宅もかなり大きい家で、台所もちょっとしたお店の厨房くらいはあり、料理人さんもいたので、わたしたちは外にある竈を使ってパンを焼くことにした。
緊急時なので寝かせることはせず、すぐに焼き、いまいちなパンを配ってもらった。
「キャロル。結構な人が死んだみたいだよ」
マリカルがどこからか情報を仕入れてきた。
「結構な数で襲ってきたんだね」
「そうみたいだよ。生き残りの人が五十匹はいたってさ」
そんなに? もう害獣とかの話じゃなくなってきてんじゃないの?
「こ、怖いわね」
「まあ、ゴブリンは珍しいけど、魔物に滅ぼされた村なんて結構あるよ」
「あるの!?」
そこそこ厳しい異世界と思ったらかなりハードな異世界だったよ!
「あるある。うちの国でも渦が活発になって魔物がたくさん出てきてるしね」
な、なぜ、笑顔でそんなこと言えるのかしら? 呑気か!
「まあ、だから冒険者は廃れないし、暮らしていけるってことだよ」
た、確かにそうだけど、そう明るい声で言うことではないと思うよ……。
「キャロ、職員が怪我人の手当てを手伝って欲しいって」
「わかった。マリカルはこのままパン焼きを続けて」
「了解」
ドジっ子ではあるけど、結構器用になんでもこなしたりする。パンも何回かやっているので任せることにした。
ティナに案内してもらって向かうと、さながら野戦病院って感じになっていた。
「魔法医さんは来ないんですか?」
職員さんに尋ねてみた。
「村に払える金があるなら呼ぶだろう」
なかなかシビアな世界でもあるようだ。
「なら、わたしが治療してもいいですか?」
人体実験って言ってしまえばそのとおり。非道と言われても仕方がない。甘んじて受け入れましょう。でも、こんな機会はそうはない。あったらあったで嫌だけど。
「お、お嬢ちゃんが?」
「魔法医療を噛った程度のものですけど、少しでも救える命があったほうがいいですからね」
「わ、わかった。お嬢ちゃんのことはバイバナル商会から聞いている。やれるならやってくれ」
「はい。ありがとうございます」
傷口を綺麗な水で洗い、綺麗な布で巻くというのは常識なようなので軽度の人は任せ、わたしは重傷な人を探した。
「火傷が酷いな。この人からやるか」
鞄からリストバンドを出して男の人の腕に付けた。
即効性はないけど、生命体増強、治癒力増強、熱発散の付与を施してある。
確か、火傷のときは水を余り飲ませないほうがいいんだっけ? 本当に聞き噛りだから悩むわね。
「大丈夫ですからね。諦めないでください」
即効性はないものの、籠めた魔力はそれなりにある。重傷な火傷が中傷くらいにはなった。効果はあった。
「この人にお水を上げてください」
効果がわかったなら次に移り、同じく傷だらけの女の人の腕にリストバンドを付けた。
リストバンドは十個。まったく足りてないけど、重傷な人にはリストバンドを付け、わたしの魔力で治癒力増強を施した。
さすがにわたしの魔力はチートではなく、十数人で打ち止めとなってしまった。
「お嬢ちゃん、回復魔法なんて使えたのか?」
「回復魔法を転写しただけです。それも余り質はよくないみたいですね。なにが悪かったんだろう?」
マリカルに触っての回復魔法を受けたから悪かったのかな? やはり直接じゃないとダメっぽいわね。
「もういいから休め。お嬢ちゃんに何かあったらバイバナル商会にどやされるからな」
「だ、大丈夫です。経過を見ないと」
どういう感じで治って行くかも大事だ。そうしないと改善出来ないわ。
「いいから休め! お嬢ちゃんの仲間を連れて来てくれ」
職員さんに邪魔されてしまい、ティナがやって来て背負われてしまった。
「無茶しすぎ。ボクが見てるから休め」
「細かくよ」
「わかったから寝ろ!」
強く言われてしまい、仕方がなく瞼を閉じた。
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