第108話 ドジっ子か

 さあ、次の冒険へ! とはならなかった。


 サナリクスの面々の用意を手伝うことになったからだ。


 わたしたちより長く生き、長く冒険をしている人たち。冒険の用意も結構勉強になるのだ。


「今までよく冒険してましたね」


 アイテムバッグがないときの話を聞いていると、それはもうサバイバルしてんのか? ってくらいのものだった。


 町から町の旅なら現地調達で何とか過ごせるけど、町から離れた場所だと別の意味で現地調達になる。水を調達するのも一苦労。食料を調達するのも一苦労。苦労しかない冒険だった。


「それが普通だと思っていたからな」


 まあ、確かにそうか。


「楽を覚えるのも良し悪しですね」


 アイテムバッグを渡してしまったわたしのセリフじゃないけどさ。


「いや、楽を覚えられてよかったよ」


「そうだな。これで楽に冒険が出来るんだから万々歳だ」


「そうよ。もう不味い食事をしなくていいなんて最高よ」


 どうやらサナリクスの面々は楽を覚えられて喜んでいる。それだけ過酷だってことなんでしょうね。


 五人にリュックサックを用意し、その容量は荷馬車一台分。なかなかの容量だからか、入れるものもたくさんになる。


 荷物を分散することなく、水や食料は均等に分け、道具や着替え、キャンプ用具を人数分取り揃えるだけで結構な時間が掛かってしまった。


「マリカルは、どうやったら旅をしていたの?」


「わたしは町から町を旅してたから現地調達だよ。まあ、天候が悪くなって山の中で迷子になっちゃったけどね」


 獣人なのに方向感覚がいまいちなマリカル。ダウジングがなければ旅に出ちゃダメなタイプだった。


「獲物を捕まえたときはどうするんです?」


「重要な部位だけ持って帰るだけさ」


 なかなか効率の悪いことしてたのね。


「魔法の鞄、バレないように市場に流すってこと出来ませんかね。 サナリクスの活躍が広まればその活躍の理由を探る者が現れるはず。その前に魔法の鞄を十個くらい広めてウワサを拡散したほうがいいと思うんですよね」


 拡散したらわたしのところに辿り着くのも困難になるはずだわ。


「確かにそうだな。わたしは二人くらいなら流せるか?」


 魔法使いのアルセクスさんが目線を上にしながら口にした。


「おれらは三隊か?」


「そうだね。マルミグ、ロウガ、ナシェックかな?」


「あ、おれ、商人に知り合いがいるから一つは流せるかも」


 幼なじみの三人は交遊関係が広いようだ。


「わたしは、五人はいますね」


 人間の倍の寿命があるだけにアルジムさんの交遊関係はさらに広いようだ。


 ちょうど十個になったので、すべてを違う形の鞄にしてアイテムバッグ化させた頃には夏がやって来ていた。


 サナリクスの面々はバラバラに別れてアイテムバッグを世に広めるために出て行った。


 帰って来るまでわたしたちはマリカルのダウジングがどれほどのものかを検証するために村に下り、冒険者ギルドに向かった。


「……あるものなのね……」


 依頼書が張り出されているボードには、探し物依頼が結構あった。なくした指輪くらい自分で探せよ。


「これがあるからわたしも旅が出来たのよ」


「それで自分が迷子になってたら世話ないだろう」


 ティナの突っ込みがマリカルにクリティカルヒットした。


 まあ、確かにそうね。人の探し物を探していて自分を失い掛けるとか笑い話にもならないわ。マリカル、ドジっ子属性があるのかしら? 何もないところで度々転んでいるし。


「とりあえず、片っ端から依頼を受けましょうか」


 カルブラで銅星の冒険者となったので、コンミンドでも冒険者として依頼を受けることが出来る。ちなみにティナも銅星よ。


「手始めに指輪を探す依頼から受けましょうか」


 何かゲームの依頼っぽいけど、これならすぐ終わるでしょう。検証はわかりやすいのからやったほうがいいからね。


 依頼書をボードから剥がしてカウンターに持って行く。


「銅星になったのか」


「はい。ゴブリンの解体書を提出したら銅星になれました」


「あれ、お嬢ちゃんだったのか! やたらと正確な絵でびっくりさしたわ」


「もう冒険者ギルドに広まっているんですか?」


 あれから一月、いや、もう二月か。この時代の伝達能力を考えたら異常なスピードじゃない? 何かファンタジーな伝達方法があるの?


「最近、ゴブリンの被害が出ててな。領主様からも討伐依頼が出ている。この辺にも出ているから気を付けるんだぞ」


 へー。ゴブリンが増えているんだ。この世界にもゴブリンなスレイヤーとかいるのかしら? 


「ちなみにゴブリンを倒したらいくらになるんです?」


「一匹銅貨五枚だ」


「安いんですね」


 せめて銅貨十枚じゃない? 


「魔石を持つヤツもいるみたいでな、魔石を持って来たら銀貨一枚になるぞ」


 ゴブリン、魔石なんてあったんだ。もっと細かく解剖するんだった。


「まあ、ゴブリンはもっと大人になってからにします。今回はこれをお願いします」


「探し物か。これも溜まっているから片付けてくれると助かるよ。まったく、自分でなくしたのなら自分で探してもらいたいもんだ。何でもかんでもギルドに持って来られても困るんだよな」


 どうやらわたしの感想はそう間違ったものじゃないみたいだわ……。

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