第107話 *マリカル・ファート*

 聖女探索者にわたしが選ばれてしまった。


 ──わたしが!? なんで?!


 ってのが素直な驚きだった。


 当時のわたしは十二歳。まだ子供と言っていい年齢だ。だれか大人と一緒にかと思ったらまさかの一人で行けとのことだった。


 それはないっしょ!! と叫んだところで意味はなかった。これは国命。逆らうなど非国民扱いを受けるだけ。国で生きて行けなくなるわ。


 わたしはそれなりの身分がある家で、兄や姉はいい職に付いたり嫁いだりが決まっていた。わたしが嫌だと騒いだところで受け入れられることがないくらい痛いほどわかったわ。だってわたし、四番目の子供だし。そんな代えにもならい存在の子が何を言ったって無駄じゃない。嫌なら放り出されるだけよ。


 それがわかったから逆らうことも愚痴を言うこともしなかった。淡々と聖女探索に出る準備を行ったわ。


 国も無責任に放り出すってことはなく、探索者として選ばれた者を集め、半年ほどそれなりの知識や訓練を行ってくれたわ。身になったかと言ったら笑うしかないんだけどねっ。


「あなたはの特殊才は遠視ね。どのくらいか調べましょう」


 この国では神様から与えられた才を特殊才と読んでいる。国によって違うので気を付けるようにとのことだ。


 調べた結果、わたしの遠視は三級とのことだった。低っ。


「まあ、あなたは探し物が得意なようだし、問題ないでしょう」


 適当に集められたってことはなく、ちゃんと調べられて集められたようだ。誰よ、わたしを選らんだヤツは?


 確かにわたしは鎖に水晶を付けた振り子で物を探すのは得意だった。でもだからって、どこにいるともわからない聖女を探せとか無茶もいいところだ。こっちはまだ十二歳なのよ!


 って言えない悲しさよ。ここに集められた者たちも諦めの顔を見せていたし、仕方がないと受け入れていたわ。


「国の調べでは星詠み様が聖女は、コルディアム・ライダルス王国と海を越えた大陸にいるそうです。ですが、聖女の気配が各地に感じるそうです」


 何だそれ? 居場所がわかっているならそちらに話し掛けたらいいじゃない。わたしたちが行くこともないでしょう。


「聖女は他国の者。存在を知られるということはそれだけ重要な立場にいるということ。お力をお貸しくださいと言って素直に寄越してくれるわけもありません」


 まあ、確かにそうか。他国に送って何かあったら困るのは自国だしね。そんな危険を冒してまで寄越したりしないか。


「聖女となる可能性の星、または聖女に繋がる事象がある光があります。あなたたちに与えられた役目はその光を探し出すこと。頼りない光ですが、我が国の危機を救うかもしれない光です。見逃さず、可能性があるなら求めなさい」


 何とも曖昧だこと。けどまあ、星詠み様がそう言ったのなら国は従うしかないか。この国で星詠み様は国王より上にいるお方なんだものね。


 聖女の光を見逃さないためにわたしたちは集団になることは許されず、探す場所が被ることがないように各地にバラけて旅に出された。


 星詠み様でもわからない聖女の光を探し出す。なかなか酷なことをやらされるな~と思うけど、わたしたちに拒否権はない。見付けるまで帰って来ることも許されない。


「はぁ~。わたしはどこに向かえばいいのかしらね?」


 わたしの遠視は目標物がわからないと探し出すことは出来ない。ただ、わたしが目指す場所を占うことは出来る。


「何にせよ、お金を稼ぐことをしないとダメよね」


 国からお金はもらったけど、それで何年も探索出来るわけじゃない。稼ぎながら探せってんだから酷いものだわ。ただ、追い出されたようなものじゃないのよ。


「でもまあ、あのまま家にいたってどこかに嫁がされるだけ。旅に出るのもいいかもね」


 ここは気持ちを切り替えるとしよう。わたしの特殊才は遠視だけど、小さなときからわたしは草花が好きで、庭にいろんなものを植えていた。


 山菜だって採りに行ったこともあるので、遠視を使った探索で大量に採ったこともある。


 遠視の応用で毒があるかを判別することも出来る。これを使えば何とか生きられるでしょう。


 と思ったけど甘かった。山はそんなに優しい場所ではなかった。


 何か緑色の肌をした猿みたいなものと遭遇。ギーギーと襲って来た。


 少しは山歩きに慣れてきた頃だからギリギリ逃げられることが出来た。でも、メチャクチャに逃げたからか持っていた荷物はなくなり、何度も転んで体中が痛かった。


 辛うじて鎖は持っていたから町の方向はわかるけど、そこまで向かう体力がなかった。


「……わたし、死んじゃうの……?」


 絶望に泣きそうになっていると、人間の女の子が現れた。


「魔物?」


 違うと言いたかったけど、もう何日も食べておらず、喉も枯れていてあうあう言うのがやっとだった。


「魔物じゃなく獣人だ。プランガル王国から来たんだろう。この辺では珍しいが、この国と国交を結んでいる」


 わ、わかる人がいてよかった。確かにこの辺で獣人は珍しい。よくジロジロ見られていたものだわ。


「ちょっと危ないかもな」


「キャロのところに連れて行こう。キャロなら何とかしてくれるから」


 わ、わたし、助かるの? 


「安心して。助けてあげるから」


 優しい声に意識が途絶えてしまった。

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