第106話 マルカットラ大森林
旅の疲れを癒す暇なく二日も手伝わされ、やっと山の家に帰ることが出来た。
「三日くらいはのんびりしようか」
初めての土地に来て二日も手伝わされたマリカルも疲れた様子だ。旅の疲れを落とすことにしましょう。
「いいね。旅より手伝いに疲れたよ」
身内だからって容赦なく仕事を回された。ああやってブラック企業が出来ていくのね。労働基準局が生み出される前になんとか労働改善させないとね。
「マリカルはそっちの部屋を使って」
客室をマリカルの部屋にしましょう。
「いいの? 立派なようだけど?」
「構わないよ。わたしたちが留守の間、誰も泊まった様子もないしね」
きっとレンラさんが気を利かして誰も泊めなかったんでしょう。ここは、わたしたちの家だと思ってね。
そのレンラさんには先ほど迎えられたので、ゆっくり過ごしたらお風呂の用意をして交代で入った。娯楽宿屋なのにゆっくり入れたのは帰って来たときだけ。あとは入る暇もなかったわ。鬼ね、お母ちゃんは。
その日はダラダラと過ごし、次の日は運んで来たものを整理することにした。
「休むんじゃなかった?」
「あ、うん、まあ、本気を出してないから暇潰しみたいなものよ」
もしかしてわたし、ワーカホリックか? 朝起きてから動きっぱなしなんだけど! お母ちゃんの血かしら?
「じゃあ、ボクも暇潰しに狩りしてくるよ。マリカルも来る? 獣の位置教えてよ」
「いいわよ。ただお世話になるのも悪いしね」
なんだかんだとワーカホリックなわたしたち。じっとしてられない性格なのね。
二人が出かけ、のんびり荷物整理していたらサナリクスの面々がやって来た。あ、バイバナル商会で別れたままだったわね。
「いらっしゃい。中へどうぞ」
とりあえず中へと通してお茶を出した。
「今回の仕事、ちゃんと儲けられました?」
前に訊いたときは問題ないって言ってたけど、結構長い期間をわたしたちの護衛に使った。バイバナル商会はそんなに使ったのかしら?
「希に見る儲けであり楽な仕事だったよ。逆にこんなにもらっていいのかと訊いたくらいだよ」
相当使ったようだ。大丈夫なの、バイバナル商会は?
「まあ、そろそろマルカットラに行こうとは思っているがな」
「マルカットラ?」
「マルカットラって呼ばれる大森林が広がっているところで凶悪な獣が生息するところさ。魔石を宿した魔物もいるんで一人前になった冒険者が目指す地でもある」
へー。この世界にはそんなところがあるのね。ちょっと見てみたいわ。
「お嬢ちゃんはダメだぞ。銀星でも厳しいところだ。物見遊山で行く場所じゃない」
「本当だぞ。旅がしたいなら他を回れ」
「そうよ。あんたは戦いに不向きだからね」
何て止められてしまった。まあ、わたしも戦闘向きじゃないのは重々承知している。勝てない相手には迷わず逃げを選択する女だ。
「そうしますよ。まだ死にたくないですからね」
せめて前世の年齢以上は生きたいものだわ。目標は老衰での死だけど。
「そんなところに行くならリュックサックは人数分必要ですね」
「ああ。奥まで行くとなると数十日は掛かるだろうな」
「数十日もですか。何だか過酷そうですね」
大自然の中で数十日も生きなくちゃならないとか、想像するだけで体が痒くなりそうね。水浴びも出来ないんじゃない?
「ちょっと待っててください。職人さんたちに聞いてきますんで」
人数分となると予備を渡しても足りない。作り置きがないか聞いて来ましょう。
「おう。疲れは取れたかい?」
「はい。ぐっすり眠ったら元気になりました。リュックサック、五つありますか?」
「あるよ。倉庫にあるからもってきな」
「ありがとうございます」
お弟子さんも来て、工房も増えたので倉庫も二つ出来ている。バイバナル商会はここをどうしたいのかしらね? 民宿に影響ないといいけど。
リュックサックのタイプは三種類くらいあるので、十五個持って戻った。
好みのものを選んでもらったら一日一つずつアイテムバッグ化する。わたしの魔力では一日一個が精々っぽいのよね。
予備のを二つ渡し、人数分が完成するまで買い出しを勧めた。
魔力を使うと体がダルくなっちゃうけで、動けなくなるわけじゃない。カルブラで手に入れたバルボナでパンを作るとする。
「いい匂いですね」
もうちょっとで焼き上がる頃、レンラさんがやって来た。
「出来たら食べてみてください。とっても美味しいですよ。まあ、バターや砂糖をたくさん使っているから食べすぎには注意、ですけどね」
カロリー多めで一日二つで止めておいたほうがいいかもね。
「甘いのですか?」
「甘いですね。くどいのが苦手な人には一つも食べられないんじゃないですかね? カルブラでもダメな人はいましたから」
素朴なパンばかり食べていた人にしたら濃すぎるんでしょうね。砂糖を抜いて作ってみようかしら?
「いろいろ学んで来たようですね」
「はい。たくさん学べました。やはり土地が違うと料理も違うんですね。味の濃さも違ってました。汗をそんなに流さない町だからですかね? 村では濃い味付けが好まれてましたから」
「そうかもしれませんね。わたしもそう濃い味は苦手ですから」
やはりそういうものなんだ。味の調整が難しいわね。
「気に入ったら民宿でも作ってみてください。やはり本格的な窯じゃないと上手く焼けないので」
出来上がったバルボナパンを食べてもらい、感想をもらって次に活かすことにした。
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