第105話 久しぶりの実家

 挨拶を終えたら実家に向かってもらった。


 荷物の半分は支部のものなので、残り二台で実家に向かうことにする。


「ルーグさん、残らなくてよかったんですか?」


 報告とかしなくていいのかしら?


「カルブラでも娯楽宿屋を開くための視察で来たので、まずはあちらに挨拶しておきたいのです」


「ルーグさんが任せられるんですか?」


「はい。よく見てよく学んで来いと言われました」


「ルーグさん、接客とかしたことあるんですか?」


 あまりお店に立っているところ見たことないけど。


「十歳から二十歳まで見習いとして店に立っていました。これでもお客様には可愛がってもらいましたよ」


 冷静さを見せてはいるけど、ルーグさんには愛想がある。確かに接客に向いているかもしれないわね。


 久しぶりの実家はさらに賑やかになっていて、何か見知らぬ建物が周りに建てられている。発展するの早いわね。


「お母ちゃん、ただいま!」


 もはや産まれ育った家はなくなり、宿屋らしい宿屋が建っている。わたし、一年くらいカルブラにいたのかしら?


「お帰り。あんた、何か縮んでないかい? ちゃんと食べてんの?」


 やはりわたしは育ってないようだ。見た目が八歳くらいから止まっているみたい。あ、でも、身長はちょっと伸びているから成長してないってことはないみたい。


 ……日本人だった記憶を持つわたしとしては充分年相応に見えるんだけどね……。


「あ、こちらルーグさん。カルブラ伯爵領の支部から視察に来たからいろいろ教えてあげて」


「ルーグです。キャロルさんには何かとお世話になっております。しばらくここで修行させていただきます」


 マイゼンさんとナイセンも出て来たのでルーグさんを紹介。あとは任せてお風呂に入ることにした。


 夕方近いのでお客さんはそれなりにいたけど、お風呂は大きくなっており、湯船も十人は余裕で入れるくらいになっている。そう問題なく入れるわ。


「何だか恥ずかしいわね」


 カルブラでは小さなお風呂だったので二人がやっとで、マリカルと入るのはこれが初めて。尻尾ってそこから生えていたのね。


 まあ、パンツを作ったからどこから生えているかは想像が出来たけど、実際生えているところを見ると不思議なものよね。


「は、恥ずかしいからそんなにマジマジ見ないで」


 こりゃ失礼。つい気になって。


「意外と毛は生えてないんだね」


 獣人だから体毛が凄いと思ったらツルッツル。肌艶もよく赤ちゃんみたいにもっちもちだった。


「止めなさい」


 ティナにチョップされてしまった。ハイ、ごめんなさい。


「この辺、獣人なんていないから珍しく思われるけど、悪い人はいないから許してね」


「一番珍しく見てたのはキャロだけどね」


「ナハハ。つい珍しいものに意識が行っちゃうのよね」


 その耳も調べてみたいわ。頭から耳が生えるとかどうなってんのかしらね? 顔の脇に耳がないって不思議だわ。


「耳が頭の上にあると、髪を洗うの大変そうね」


 獣人はあまりお風呂に入らないようだけど、髪と尻尾は清潔にするようで、国いたときは布を濡らして綺麗にしてたみたいよ。


「そうね。わたしは耳を動かすのが下手だから雨の日は大変だったわ。耳の中に水が入って乾かすのに手間で手間で。いつも布を詰めていたわ」


 獣人も大変みたいね。


「雨の日のためのフードを作ってあげるわ。あ、わたしの魔法で水が入らないようにすればいいのか」


 水反射とかでいいのかな? 


「それは助かるかも。お風呂は気持ちいいんだけど、湯気が耳に入っちゃうから」 


 今はタオルを巻いているけど、長時間入っていたら湿っちゃうわね。なんだっけ、頭に被るヤツ? お風呂キャップ? まあ、タオルはたくさんあるし、試しに作ってみましょうか。


 お風呂から上がったらよく冷えた山羊の乳を飲む。これも根付いてきたわよね。紅茶(コーヒー味)を混ぜたらカフェオレになるんじゃない? これも試してみようっと。


「ここ、おもしろいわよね」


「マリカルが喜ぶならプランガル王国でも娯楽宿屋は受け入れられそうね」


「そうかもね。ただ、水が豊富なところじゃないと無理かもね。プランガル王国の半分は水が少ない地だから」


 獣人なだけに肉食が中心で、羊や牛のほうが多いとか言われているみたいよ。


 ……元の世界にもそんな国があったような……?


「あ、ルーグさんもお風呂ですか?」


 ベンチに座って山羊の乳を飲みながら涼んでいると、ルーグさんがやって来た。


「はい。試してみないとよさがわかりませんからね」


「ゆっくり浸かって汗を流してください。冷たい麦酒を用意しておきますから。葡萄酒も冷えたのは美味しいみたいですよ」


「こんなところがあったら仕事をサボる人がいそうですね」


「奥さんがそんなことさせないから大丈夫ですよ。サボっていたら蹴り飛ばされますからね」


 この時代の女性はとにかく強い。ぐうたら旦那は蹴っ飛ばされても文句は言えないわ。


「ふふ。わたしも蹴られないよう働きますか」


「忙しいから休む暇もないかもしれませんよ。いっぱい食べてがんばってください」


 いつでも人手不足みたいに忙しい。きっとこき使われるでしょうね。


「キャロル! 手伝っておくれ!」


 うん。娘のわたしも当然のようにこき使われますわ~。

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