第102話 問題ない

 聖女探索はプランガル王国の命であり、マリカルみたいな特殊能力者が国外に出されたそうだ。


 深刻ではあるが、まだ十三歳のマリカルにはそこまで期待はしてないみたい。本隊はいて、マリカルたちのような者は万が一の場合に備えての要員みたい。


「万が一って?」


「わからないわ。ただ、聖女は突然現れるときもあるんだって」


 自然発生するのか、聖女って? 何か隠しているわね、プランガル王国は。


 まあ、わたしには関係ないこと。まずはマリカルの服を完成させて、プランガル王国の情報をいただくとしましょうかね。


 ルーランさんのお力によりマリカルの服は完成。なかなかいい出来で、ルクゼック商会で飾るらしいわ。


「店先にガラスの部屋を造って飾るといいかもですね。いい宣伝になるんじゃないですか?」


 ネットで見るんじゃなく、デパートとかでウィンドショッピングをやってみたかったわ。まあ、今のわたしでは見るより作っちゃうかもだけど。


「ガラスの部屋に飾る、ですか」


「まあ、ガラスは高いし脆いから店内で人形に着せるでもいいかもしれませんね。目で見たほうが自分が着ている想像がしやすいでしょうからね」


 マネキンってまだ発明されてないのかしら? 武器屋で木を組み合わせて防具とか飾ってたのにね。


「……人形に着させるか……」


 イメージが出来たみたいで考えに入ってしまったわ。


「ティナ。マリカルを連れて町中を歩いてきてよ。どこの服と訊かれたらルクゼック商会だって答えておいて」


 一番の宣伝は着ているところを見せること。町を歩いて見せてきてちょうだいな。


「キャロは?」


「わたしはまだ作りたいものがあるから」


 ルーランさんが持って来てくれた布がまだあるので家で着る用のワンピースを作ろうとしましょう。


「ルーランさん。ありがとうございました。思ったより早く作れました。またカルズラに来たらよろしくお願いしますね」


「もう帰るの?」


「はい。そろそろ帰ろうと思います」


 お使いクエストはとっくに終わっている。長々とお世話になりすぎたわ。そろそろ帰るとしましょうかね。次は討伐依頼とか受けてみたいわね。まあ、そうそうないものだけど。 


「……そう。残念だわ。まだあなたから学びたかったのに……」


「わたしこそルーランさんからたくさん学ばさせてもらいました」


 針師となると国宝級の技になるから見本とはならなかったけど、発想や改善はとてもためになったわ。やはり本職は凄いわ。


「あ、男性服も作りたいので、もうちょっとご協力をお願いできますか? たくさんお世話になったので、クルスさんとルーグさんに贈りたいんです。あ、わたしのお金から出しますね」

 

 手持ちのお金をルーランさんに渡した。


 バイバナル商会に預けているお金から出るとは言え、それではプレゼントにはならない。手持ちから出すとしましょう。


「いえ、資金はルクゼック商会で出させて。服はあなたからの贈り物としていいから」


「それだとわたしからの贈り物にならないのでは?」


 結局、ルクゼック商会の商品になるんじゃない? いや、ルクゼック商会で売り出すのは好きにしていいんだけどさ。


「心が籠っていれば問題ないわ」


 ま、まあ、確かにそうだけど、そんなんでいいんか?


「それに、キャロルさんが考えてキャロルさんが作るのだからさらに問題はないわ」


 うん、まあ、そういうことにして作るとしましょうか。


 規格を作ろうとしていてなんだけど、ルーランさんの目算能力はありがたいわ。わざわざ二人を読んで寸法を測ることもしなくていいんだからね。びっくりプレゼント作戦が出来るわ。


「それで、どんな服を作るの?」


 これですと、この時代に合う感じの背広を描いてみた。


「コルディアム風ね」


「コルディアム風?」


「コルディアム・ライダルス王国の貴族が似たような服を着ている」


 もしかして、転生者かもしれない人の国かしら?


「この国では流行ってないんですか?」


「貴族の間では着ているって話は聞くけど、ルクゼック商会は庶民向けだからウワサ程度にしか入って来ないの」


 住み分けかな?


「じゃあ、庶民向けに作りますか。貴族みたいにたくさんお金が使えるわけじゃないですからね」 


「それならルクゼック商会の工房に移らない? さすがにここでは限界があるわ。ルクスさんにはわたしたちのほうで説得するわ。もちろん、あなたに迷惑をかけないと約束するから」


 確かにここでは狭すぎるか。


「そうですか。ではお願いします」


 任せてと、即行動に移すルーランさん。支部長のナグルカも来てルクスさんの承諾をもぎ取っていたわ。


「ティナは、マリカルからプランガル王国のことを聞いて書き写していて」


「ボク、字、苦手」


「なら、練習よ。文字はこれから先使うものなんだから」


 ティナな感覚派だけど、頭は悪くない。ちゃんと学べば人並み以上に出来る子なのよ。


「毎日ルーグを向かわせますので、何かあれば遠慮なく言ってください」


 わたしを捕られないようの措置なんでしょうね。


「なら、焼き菓子を持って来てください。頭使うと甘いものが欲しくなるので」


 それなら毎日来る名目にもなるでしょうよ。


「わかりました。朝と夕に持って行かせます」


「はい。よろしくお願いします」


 ってことで、ルクゼック商会の工房に場所を移した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る