第101話 聖女

 この世界というか、この時代というか、感覚に頼りすぎじゃない? まあ、それはそれで凄いことだし、職人としては間違ってないとは思う。けど、そこに辿り着けるの何人よ? 一握りの人材に任せていたら技術は発展しないんじゃないの?


 ってまあ、元の世界の技術まで持ち上げたいわけでもなし。わたしが暮らしやすく、わたしが使えればそれでいい。ここで潰されても、さらに伸ばそうとも好きにしたらいい。判断はバイバナル商会に丸投げです。


「あの、鉄板って、どこまで薄くできます。もちろん、それなりの強度がないと困りますが。あと、針ってここでも作れますか?」


 せっかく来たので金具関係のことは尋ねておくとしよう。


「また、仕事を増やす気か?」


「いえ、どこまで出来るか知っておきたいだけです。作るなら他でお願いしますんで」


 手工業だもんね。あれもこれもは無理だとわかりますよ。


「……強度がどれだけのもんかわからんが、やろうとおもえば紙くらいまで薄くは出来る。針は細工師の領分だな」


「手で薄くするんですか? それとも水の力を使ってですか?」


「手だな。水車は金が掛かるし、場所が限られてくる」


 水車を利用した技術はあるわけだ。普及はしてないだけで。


「今、薄い鉄板なんてあります? あればもらえる助かります」


 細工師さんなら作れるかもしれないし。材料だけもらっておきましょうかね。


「何を作ろうとしているのですか?」


「髪留めとピン留めです」


 パッチン留めと安全ピンね。何気ないものだけど、それらがない世界だと不便で仕方がないわ。ないときってどうやったらたんだろうね?


「これは、ルクゼック商会の分野ですかね?」


 髪留めは違うとしても安全ピンはルクゼック商会のほうがいいかも。ブラのワイヤー、ルクゼック商会から仕入れているし。


「取り上げ、どういうものか教えてもらえますか?」


 紙をもらい、パッチン留めと安全ピンの図を描いてみた。


「儲けにならないと思うのでわたしがやりますよ」


 そもそも大金を生むようなもの世に出してない。パッチン留めも安全ピンも儲けにならないでしょうよ。


「いえ、キャロルさんの考案したものならバイバナル商会が預かります」


「そうですか? まあ、髪留めなら女性相手に流行るでしょうし、がんばってください」


「流行るのですか?」


「流行ると断言出来ますね。男の方にはわからないと思いますが」


 わたしもそれほど女歴が長いわけじゃないけど、おしゃれはしたいものだ。髪留めなんて格好のおしゃれアイテムだわ。


「……キャロルさんがそう断言するなら本当なんでしょうね……」


「確かめたいのならルクゼック商会に任せるといいですよ」


 髪にティナの似顔絵を描き、おしゃれな髪留めを足した。


「これを見せて動かないようなら向いてないんでしょうね」


 さすがに女失格は言いすぎだろうからそう言っておく。


 鉄板をもらい、あとは工房に任せて帰ることにした。お弟子さんには引き止められたけど。


「随分と掛かったね?」


「また仕事を増やしてたんだろう」


 お店に着いたときはすっかり暗くなっており、留守番していたマリカルに心配され、真実を見抜いたティナに呆れられてしまった。


「欲しいものがたくさんあるのが悪いのよ」


 変に前世の記憶があるからこの世界を不便に感じてしまう。手間も楽しいにもほどがあるのよ。パンが食べたいからって種蒔きからしてられないでしょう? それと同じよ。


「マリカル、ごめんね。服を作るのが遅くなっちゃって」


「キャロは拘りすぎ」


「こればかりは性格だから仕方がないわ」


 前世のわたしはそこまで拘りがあったわけじゃない。両親から受け継いだ性格なんでしょうね。お母ちゃんも拘り屋だから。


「マリカル、もうちょっと我慢してね。最高の服を作るから」


「いや、そこまでしてくれなくてもいいのよ? そんなにしてもらっても何も返せないから」


「大丈夫大丈夫。これはわたしが好きでやっていることでもあるからね」


 冒険は? とかは訊かないで。出来るようになったらやりますんで。


「そう言えば、マリカルがここに来た理由、聞いてなかったけど、言えること? 言えないのならこれ以上訊かないけど」


 今さらかい! とか突っ込まれそうだけど、今さらなので仕方がありません。突っ込みどうぞ。


「聖女を捜しに来たの」


「聖女? 聖なる女って書いて聖女と読む的な?」


「ま、まあ、そんな感じね。プランガル王国に渦という厄災が起きると予言がされたの。わたしは聖女を見付けるために旅に出たの」


「聖女はともかく、そういうのは大人の仕事じゃない? マリカルが捜す特別な理由があるの?」


 まさかプランガル王国の王女様とか?


「わたしは占い師の家系で、わたしは探し物を見付けることが出来る特殊能力を持っているのよ」


 占い師? 特殊能力? わたしみたいな固有魔法ってこと?


「ここに聖女がいるの?」


「ううん。ただグルークスが西を指したから西を目指しているの」


 ダウジング? みたいな鎖に水晶が付いたものを出した。そんなものどこに隠していたの? 具現化系? 眼が赤くなっちゃう系? ジャンル変更なの?

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