第100話 規格

 さすが目算能力。かなり正確と思われる定規とメジャーが出来たわ。


「クルスさん。鍛冶屋さんを紹介してください」


「今度はどんなことを思い付いたのです?」


「長さの規格を作りたいだけです」


「長さの規格?」


 ルーランさんの協力を得て作った定規とメジャーを見せた。


「わたしは目算能力が低いですし、極めるつもりもありませんので、長さの規格を決めたんです。これなら書いて残せますし、他の者にも長さを教えられますからね」


 大体に長さはわかるとしても他の人と同じとは限らない。長さを決めておけば間違いはないでしょうよ。


「これをどうするかはバイバナル商会にお任せします。他のところと兼ね合いもあるでしょうからね」


 服飾系のギルドがあるみたいだから定規は嫌われるかもしれない。わたしが欲しいだけなのであとのことはバイバナル商会が決めたらいいわ。


「……わかりました。こちらで対処しておきましょう。鍛冶職人はすぐ用意致しましょう」


 その言葉とおり、次の日には職人さんを紹介してくれ、馬車で工房まで連れてってくれたわ。


「工房長のマルグレンさんです」


 連れてきてくれたのはルーグさん。どうも外に行くときの担当になったみたいよ。


 通されたところは工房の一室で、わたし、ルーグさん、そして、工房長のマルグレンさんの三人だけ。そこまで重要なことなの?


「初めまして。キャロルと申します」


「随分と礼儀正しいお嬢ちゃんだな」


「コンミンド伯爵領でご令嬢のお友達を経験した子ですので」


「なるほど。バイバナル商会の秘蔵っ子ってわけかい」


「はい。バイバナル商会が後ろ盾となっています。クルスからも粗相がなないようにと厳命されています」


 マルグレンさんへの警告、かな? そうだったら物騒なことよね。張本人が言うなって話だけど。


「また面倒なことを持ち込んでくれるな」


「また?」


「キャロルさんが考えた金具なんかはここで作っているんです」


 それはまたご苦労様です。そして、ご迷惑お掛けします。


「で、今日はなんだい? 重要な話があるとか手紙には書いてあったが」


「これです」


 と、定規を渡した。


「ロコックか」


「ロコック?」


「物を測る道具のことだ――が、これは凄いな。明確な考えがあって深い理があるように見える。これはお嬢ちゃんが考えたのか?」


 そんな理あったか? 当たり前にあるようなものだったからその価値を知らないってことなんだろうか?


「針師の方にいろいろやってもらって導き出しただけなんですがね」


 他に上手いことも言えないのでそう言っておく。


「金属盤に刻んで欲しいんですよ。それを基準にしたいので」


「金属は伸縮するぞ」


「そこはわたしの固有魔法で暑さや寒さに左右されないようにしますし、わたしが使えればいいんだから問題ありません。そもそも規格なんてよく使う人が決めたらいいんです。わたしに合わせることはありませんよ」


 わたしが使えたらいいのだから、他がどう変えようと気にしないわ。


「四つ、お願いします。二つはバイバナル商会に。残りはわたしが使いますんで」


「これ、弟子に見せてもいいか? 数字に強いヤツがいるんだよ」


 ルーグさんを見る。わたしはどちらでも構わないので。


「秘密は守ってもらいますよ」


「当然だ。漏れたらおれが始末を付ける」


 どう始末を付けるかは聞かないでおく。わたしの平穏のために。


 で、連れて来られたのは十六、七の男の人だ。職人より商人になったほうがいいような見た目だった。


「これを見ろ」


 定規を持つと目を大きくさせた。


「……美しい……」


 はあ? 美しい? 何が? どこが? 意味不明なんですけど!


 ルーグさんを見ると、ルーグさんもよくわからない顔をしていた。だよね~。


「よく出来ているだろう。それを作ったのはそこのお嬢ちゃんだ」


 わたしを見てさらに驚くお弟子さん。わたし、何かやっちゃいました?


「き、君は数学者なのか?」


 この時代にも数字を研究する人いるんだ。まあ、元の世界でも紀元前からいたんだから不思議じゃないか。どうやって生計を立てているかは想像出来ないけど。


「そこそこ計算は出来ますけど、円の面積を求めろとかは無理ですよ」


 底辺×高さ÷2は知っているわよ。


「円の面積を出せるのか?」


「出せるんじゃないですか? 三角形の面積は出せるんですから」


 わたしは小学四年生か五年生までしかない。ただ、すべてが解けるとは言わないでおくわ。


「あ、角度を測るのも必要だった」


 木工品を作っているとき角度を知りたいと思ってたんだっけ。職人さんに任せていたから忘れていたわ。


「円は何度だ?」


「何度? 三百六十度、ですか?」


 人生百八十度変わったって聞くから足して三百六十度になるんじゃない?


「そこまで知っているのか!?」


 はぁ。知っていると驚きになるのか?


「どこで学んだんだ?」


「お城、ですかね。計算を習ったのは」


 別にウソは言ってない。足し算と引き算は習ったからね。


「……こんな小さい子が……」


 何か話が進まないな~。


「もし可能ならこういうのも作ってください」


 話を進めるために木で作ったコンパス(円を描くヤツね)を出した。

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