第2章

第12話 出会い

 やることがたくさんあると時間は早く進むもの。いつの間にかキャロルと前世のわたしが上手い具合に混ざり合い、気が付いたら夏が過ぎていた。


 成長期なのか、背も少し伸び、胸も膨らんできたわ。わたし、発育いいじゃない。


 まあ、料理の種類が増え、食卓に上がる量も増えた。お腹いっぱい食べても余るくらいだ。成長するのも当然ってものよ。


 とは言え、肉が出ることは相変わらず少ない。十日に一回、豚肉が食べられたらマシって感じだ。肉、最も食べたいものだわ……。


「キャロ。外の竈借りてるよ」


 泥煉瓦で作った竈はすっかりお母ちゃんたちのマー油作りに乗っ取られてしまった。


「うん、わかった」


 もう石鹸は完成し、来年まで余裕で持つくらいの量を作れた。他に使いようもないし、今は籠を編んだり背負子を作ったりに意識が向いている。使われたところで問題ないわ。


「お母ちゃん。竹を取りに行ってくるね」


「まだ作るのかい? もう納屋にたくさんあるだろう」


「もっと細かいふるいを作りたいの。大麦でお茶が作りたいからね」


 この世界にも大麦はあり、麦茶や麦酒エールも余裕であったりする。お父ちゃんも毎晩麦酒エールを飲んでいるくらいに普及されたものなのよね。


「あんたは変なとこれで拘るよね」


「自分で作ってみたいの」


 麦茶くらい買ってあげるわよと言われているが、せっかく異世界転生したのだかテンプレはやってみたいのよ。


 あ、マヨネーズは一回目の挑戦で止めました。だってメチャクチャ疲れるんだもん。だからおばちゃんたちに丸投げしました。毎日、美味しいマヨネーズを作ってくださりありがとうございます!


「まあ、好きにしな。でも、これから収穫が始まるから納屋の籠は売ってきなよ」


「わかった。明日、市場に行ってくるよ」


 秋か。じゃあ、麦の刈り入れが始まるのね。


 去年はまだ小さくて棒で叩いて脱穀するくらいしか出来なかったっけ。今年は刈り取りから出来きるかな? 田舎でスローライフの醍醐味がやれるのね。楽しみだわ。


 背負子にお弁当と水袋、ノコギリ、縄を積んで竹林へ向かった。


 うちから約二キロと言ったところに竹林がある。ここも領主様のものだけど、竹は放っておくとすぐ増えるってことで、伐っても構わないとのことだ。


「籠、売れるかな?」


 このパルセカ村の女の人は籠を編むのも得意なので、需要があるとは思えないんだよね。


「さすがにこれ以上作ると不味いかな?」


 もうちょっとやれば鞄とか作れると思うんだよね。


「あ、そう言えば、竹の水筒ってあったよね。時代劇で観た気がする」


 小さい頃、おばあちゃんと観た水戸黄門に出てきた。あれならそう難しくなさそうだし、水袋より臭くないんじゃない?


 どうも水袋って皮臭さが抜けてくれないのよね。竹ならそんなに臭くならないはずだわ。古くなれば薪にすればいいんだしさ。


「今日は水筒になりそうなのをいただくとしますか」


 この竹林に来るのは十回近くになるし、そう広いってわけじゃない。水筒になりそうな太さの竹がどこにあるか熟知しているわ。


 二本分になるくらいに切り落とし、二十個は作れるくらいの竹を背負子に縛りつけた。


「お弁当を持ってくるまでもなかったわね」


 まあ、うちに帰ってから食べればいっか。


 背負子を背負い、竹林から出ると、何やらみすぼらしい格好をした女の子がいた。


 髪はボサボサ。服はボロボロ。靴も履いてなく、何日もお風呂に入ってないようで凄く臭かった。


 ……この村、かなり裕福なほうよ。ここまで貧乏になるとは思えないのだけれど……?


「おはよう。この村の子? わたし、キャロルって言うの」


 なるべく驚かさないよう柔らかく声を掛けた。


 女の子はびっくりした様子だけど、逃げ出すことはなかった。迫害されている感じではないわね。


 何かしゃべろうとしているけど、上手くしゃべれないみたいで、あうあう言っていた。


「落ち着いて。わたしは何もしないわ。あ、喉渇いてる? 水を飲んで」


 水袋のコルクを外し、女の子に渡して飲ませた。


 喉が渇いていたようで、すべてを飲み干してしまった。各家に井戸はある。飲ませてもらうことも出来ないの?


 と、女の子のお腹がグゥ~と鳴いた。食事もしてないの?


「ちょっと早いけど、一緒にお昼にしましょう」


 ちょっとどこからかなり早いけど、女の子は限界に近いみたい。ここで食べさせなければ倒れてしまいそうだ。


 女の子を道の端に座らせ、背負子を下ろしてお弁当を広げて芋餅を渡した。


「ゆっくり食べるのよ。いっぱいあるから」


 なんて言っても空腹状態で我慢出来るわけもない。我を忘れて芋餅を食べてしまった。


「次はパンよ。野菜スープにつけて食べなさい」


 野菜スープを入れるために作られた小さな壺で、お父ちゃんも畑に持って行っているものだ。


 なぜかスクリューキャップとなっており、小さな竈で温めることも出来る優れもの。いったい誰が考えたんだか。わたしの前に転生者がいたのかしらね?


 冷たくなっているけど、温める時間もない。今は冷たいままパンを浸して食べてもらいましょう。


「ゆっくり食べていてね。水をもらってくるから」


 この近所の人には声をかけ、井戸を貸してもらえるようお願いしている。家の人に声をかけて水を汲み、水袋に入れた。


 いなくなっているかな? と心配したけど、女の子は満腹になったのか、横になって眠っていた。


「疲れてもいたみたいね」


 完全に熟睡している。いったい何があったのかしらね?

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