第13話 ボク

 熟睡している女の子の汚れた顔を濡らした布で拭いてあげた。


「長いこと歩いてきたみたいね」


 足の汚れも凄いけど、切り傷や豆が出来ていた。これでよく歩けたものだわ。


草履ぞうりでも編んであげましょうかね」


 ここは靴文化で草履を履いている人はいない。けど、冬になると靴の上から藁靴を履いて防寒対策をするそうよ。


 また井戸を借りた家に向かい、石鹸と藁束を交換してもらった。


 草履は編んだことはないけど、今のわたしは藁編みマスター。頭の中で設計図を作り上げ、編み始めた。


 二十分もしないで完成。我ながらいい出来だと思うわ。これならどんな道でも足を傷つけることなく歩けるでしょうよ。


「布を買ったら靴下を作らないとね」


 お母ちゃん、料理は得意だけど、繕い物は苦手だ。服とかは繕いせず買っているそうだ。


「う~ん。いろいろ作りたいけど、数を絞らないと中途半端になりそうね」


 まあ、何をやるかは今度にして女の子の足を綺麗にしてあげましょう。


 足を綺麗にしても女の子が起きることはない。このまま夜になったらどうしましょう? さすがに背負うほどの力はない。


 それは暗くなってから考えるとして、小さな竈を作りましょうか。野菜スープもまだ残っているしね。温めてお昼にするとしましょう。


 竈を作るのは慣れたもの。手頃な石を集め、枯れ葉や小枝を集め、火起こし道具で火を点けた。


「さすがにマッチは欲しいわね」


 わたしが作った火起こし道具でも火を点けるまで五分は掛かる。マッチとまではいかなくても火打ち石は欲しいところだわ。


「魔法で火を点けることは出来ないかしらね」


 おばちゃんの中に魔法で火を点けられる人が何人かいた。ってこと貴族しか使えないってわけじゃない。能力があるかどうかだ。ただ、あるかどうかを調べるには冒険者ギルドで鑑定してもらい、魔法使いから教わるそうだ。


 漫画や小説のように魔力を感じてイメージを含ませる、ってわけにはいかないのかな? 指パッチンで炎とか出してみたいものだわ。


「魔力ってどんな感じなんだろうね?」


 瞑想して探ったりもしたけど、わたしには才能がないのか魔力を感じられなかったわ。


 壺を温め、芋餅を枝に刺して炙っていると、女の子が目を覚ました。


 眠気より空腹が勝ったのかな?


「おはよう。少しは疲れが取れた?」


「……う、うん……」


 よかった。しゃべれないってわけじゃなさそうだわ。


「起き掛けだけど、食べられる? 無理なら水を飲む?」


「……た、食べたい……」


「じゃあ、パンを野菜スープに付けてゆっくり食べるといいわ。急いで食べるとお腹がびっくりしちゃうからね」


 絶食した後にいきなり食べると胃が痙攣すると聞いたことがある。それで死んじゃうこともあるからね、胃を慣らしながら食べないと。


 パンを渡し、野菜スープに付けて食べてもらった。


 先程は空腹に我慢出来なかったみたいだけど、少しお腹が膨らんで落ち着いたのでしょう。ゆっくり食べてくれたわ。


 お弁当の大半を胃に収めたらまた眠くなったようで、船を漕ぎ始めた。


「夕方まて休みなさい。わたしが横にいるから」


 夏が終わる季節とは言え、まだ暖かい。風邪を引くこともないでしょうよ。竈に火をくべたら寒くならないでしょうしね。


「……ありがとう……」


 そう口にすると、眠りに落ちてしまった。


「いい子みたいね」


 ちゃんとお礼が言えたんだからずっと一人だったわけじゃないみたいね。


 それから夕方まで起きることもなく、さすがにこれ以上はと女の子を起こした。


「ごめんね。もう夕方だし、そろそろ帰らないとならないの。あなた、帰る家はある?」


 ないだろうと思いながらも尋ねた。


「……ない。婆様が死んじゃったから……」


 つまり、天涯孤独ってわけか。わたしと同じ年齢でそれは辛いでしょうよ。


 十五歳まで生きたとは言え、わたしの精神年齢なんて十三歳にも満たないでしょう。まだまだ子供と言っていいわ。けど、この女の子よりは上な精神と知識は持っている。


「わたしは、キャロル。あなたは?」


 出会ったときに名乗ったけど、覚えてないでしょうからもう一度名乗った。


「ボ、ボク、ティナ」


 おっと。ボクっ娘かい! まさか異世界でボクっ娘に会うとは夢にも思わなかったよ!


 いや、まさか男の娘じゃないよね!? 眠っている間に確認しておくんだったわ!


「ティナか。可愛い名前ね」


「……あ、ありがとう……」


 可愛いと言われて照れたということは女の子で間違いないってことね。服を捲ったらゾウさんがこんにちは! ってことにならないってことだわ。いや、わたし、見たことないけどさ!


「帰るところがないのならわたしのうちに来る?」


「……い、いいの……?」


「大丈夫、とはさすがに言えないけど、これから秋になるから人手は欲しくなるわ。収穫を手伝ってくれるならお母ちゃんやお父ちゃんも許してくれるわ」


 勝算はある。


 キャロルと前世のわたしが融合してから家に貢献してきたし、二馬力になればやれることが増える。薪を集めに山にだって入れるわ。ティナの言葉からして婆様との二人暮らしだったのでしょう。


 なら、生活するためにティナも働いていたってこと。つまり、生活力はあるってことよ。それなら二馬力どころか四馬力にだってなれるかもしれないわ。


「ティナは鉈、使える?」


「うん。鉈の他に斧も使える。薪集めはボクの仕事だったから」


 それはいいじゃない。じいちゃんが使っていた斧をティナに使ってもらうとしましょう。この出会いは運命だったのかもしれないわね。

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