第11話 婦人会
「美味しいじゃないか!」
芋餅をあげたらおばちゃんがびっくりしたように叫んだ。
「こりゃ、ライザに教えてもらわないとね!」
おばちゃんも芋餅に魅了されたようで、家に駆けて行ったと思ったらすぐに飛び出してきた。
「あんたんちに行くから、無理すんじゃないよ!」
どうやらお母ちゃんに芋餅の作り方を学びに行くようだ。って、戸締まりしなくていいの?
「……いや、うちも戸締まりなんてしてないわね……」
安全なのか無用心なのか、田舎は謎だわ。
お弁当を食べ、水をしっかり飲んだら作業再開。夕方までに結構解体できた。
「釘はこれだけか」
手のひらに乗るくらい。これじゃペーパーナイフにもならないわね。
「まあ、塵も積もればで貯めるしかないわね」
今集めてもどうにもならない。鍛冶とかまったく知らないんだし、いざとなれば売ればいいわ。
今日はこれで終わり。運べそうなものを背負子に積み込み、我が家へと帰った。
「ただいま~」
おばちゃんとお母ちゃんが釜戸で芋餅を作っていた。
「お帰り。腹減っただろう? 芋餅たくさん作ったからたくさん食べな」
さすがに朝昼晩と芋餅は飽きるわよね。早くマヨネーズをつくらないといけないわね。あ、油があるんだし、フライドポテトが作れるんじゃない?
「お母ちゃん、芋ってまだある?」
「ああ。納屋にたくさんあるよ。また何か作るのかい?」
「うん。ミロ油があるから、芋を揚げてみたらどうなのかな~? って思ったの」
「芋を油で揚げる?」
あ、揚げる調理法はあるんだ。
「うん。いろんな形に切って、どの形が美味しいか調べてみたいんだ」
いきなり棒状にしたら怪しまれるしね、いろいろ切って誤魔化すとしましょう。
「なるほど。芋がいけるなら他の野菜もいけるかもしれないね。マーケット油を掛けたら美味しいんじゃないかね」
「いいね! 明日、いろいろ野菜を持ってくるからやってみようか!」
おばちゃんも乗り気だ。これなら食卓が豊かになりそうだ。って、わたしそっちの気で始めてしまったわ。
まあ、料理は二人に任せるとしましょうか。わたしは納屋の解体が残っているんだからね。
それからお母ちゃんとおばちゃんの料理開発が始まり、納屋を全解体した頃にはご婦人方が八人くらい集まっていた。
……何だか婦人会が結成された瞬間を見た気分だわ……。
「随分と食卓が豊かになったな。何があったんだ?」
王都から帰って来たあんちゃんが食卓に並べられた料理にびっくりしていた。
「おばちゃんたちが集まっていろんな料理を考えたんだよ」
「何だかよくわからないが、まあ、美味いものが食えるなら何でもいいさ」
男どもは単純なんだから。食うのが仕事じゃないんだからね。作ってくれる人に感謝しなさいよ。
「あ、キャロ。明日は皆で油搾りするから道具を使うよ」
「ミロの実から?」
「ああ。野菜を揚げるならミロ油が適してたからね。明日は女衆を集めてミロの実を集めることになったんだよ」
「濾すための布はないよ」
「それは持ち寄るよ。ミロの実も熟してきたからね。急いでやらないと」
「熟すとダメってこと?」
「ああ。熟すと種が大きくなるんだよ」
わたしが搾ったときは種はなかったわね。
「ふーん。熟したヤツって塩漬け出来る?」
オリーブって塩漬け出来たんじゃなかったっけ? ミロの実もオリーブっぽいし、出来るんじゃないかな?
「……やったことはないけど、熟した実を塩を付けて食ったことはあるよ」
あるんだ。美味しいのかな?
「それも試してみるか。熟したものは油取りは出来ないんだしね」
お母ちゃんたち、やることいっぱいね。
まあ、わたしもやることいっぱい。明日は泥煉瓦を焼かないとね。泥煉瓦、割れてないかな?
朝になり、水を汲んだら干した泥煉瓦を確認すると、半分以上が割れていた。
「まあ、砕いてまた泥煉瓦にしたらいいわね」
元は泥と藁。水を掛けたら崩れるでしょうよ。問題はないわ。
「何か本格的なことやってんな」
泥煉瓦を組み上げ、火を焚いていると、あんちゃんが帰って来た。
「今日は随分と早いんだね」
「仕事がない日もあるんだよ。泥煉瓦なんてよく知ってたな」
「前にやっているところ見たのを真似ているだけ。あっているかはわからないわ」
「まあ、泥煉瓦なんてそう失敗するもんじゃないさ。オレも手伝いでやったが、大体は成功してたからな」
「あんちゃん、やったことあったんだ」
わたし、あんちゃんのこと何も知らないな。
「お前くらいの歳からいろいろやったよ。父ちゃんの手伝いから職人の手伝い、樵もやったな」
「あんちゃんはお父ちゃんの後を継がないの?」
普通、親の仕事を継ぐもんじゃない?
「おれは商売がしたいんだ。今も荷馬業をしながら商人の勉強をしているんだ」
あんちゃん、商人になりたいんだ。
「じゃあ、文字とか書けるの? わたしも学びたい! 教えて!」
そうだよ。大事なことを忘れていた。異世界転生で大事なことは文字を覚えることよ。
「おれもまだ勉強しているところなんだよな」
「知っている文字で構わない。あとは、自分で調べるから」
キャロルはまだ十歳。まだ脳が柔らかいんだからすぐに覚えられるわ。
「ハァー。わかったよ」
それから夜のちょっとの間、あんちゃんに文字を教えてもらえることになった。
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