第10話 納屋解体

 今日は灰を煮る作業をします!


 灰は釜戸で使ったものが山となっている。それを使わせていただきましょう。


「あ、竈がない!」


 さすがに家の釜戸を遣わせてもらうわけにはいかないし、なら、作りましょうか。


「泥煉瓦を作るわよ!」


 山の中で自給自足する動画を観て学んだ。簡単な竈ならわたしにだって作れるんだから!


 って、最初の意気込みも五日も過ぎると萎えてきたわ。


 少し離れた川から土を運ぶだけで心が折れかけ、それでも続けて三日で必要な分を運ぶことが出来た。


 木枠を作り、土と藁を混ぜて捏ね、天日干しを一日続けるだけで涙が汲み上げてきたわ。


 乾いた泥煉瓦を組み立てたら薪がないことに気がついた。薪ってどこから調達すればいいの?


「お母ちゃん、薪使っていい?」


 マー油を作るお母ちゃん。五日前から作ってなかった? そんなに掛かるものなの?


「どのくらい使うんだい?」


「半日くらい燃やすかな?」


「林から拾ってきた。薪もタダじゃないんだから」


 薪って買うものなの? いや、薪売りが来てた記憶があるわ。こんな田舎でも薪を買わなくちゃならないなんて何か理不尽だわ。


「林の木は伐ってダメなの?」


「林は領主様のものだからね、伐るのはご法度。落ちている枝は自由に拾っても構わないよ」


 わたしたちが住む土地も領主様から借りているらしく、土地税を払う必要があるんだってさ。異世界も世知辛いわね……。


 背負子を背負い、近くの林に向かった。


「……あんまり落ちてないわね……」


 他の人も拾いに来ているのか、大きい枝は落ちてない。落ちているのは三十センチくらいの小枝ばかりだった。


 一日掛かって集められた量は背負子半分にも満たない。どうすんの、これ?


「ダメだ。一から考え直さないと」


 時間も時間なので家に帰ることにした。


「お母ちゃん、枝が集まらないよ」


 まだマー油を作っているお母ちゃんに愚痴を聞いてもらった。


「それならケイスさんたちのところに行ってみな。古くなった小屋を解体したいって言ってたからね。手伝えば木をくれるんじゃないかい?」


 ケイスさんち? どこよ?


「道を左に進めば古い納屋があるところだよ」


 次の日、お母ちゃんの雑な説明を元に一キロくらい歩くと、崩れかけた納屋があった。ここか?


 敷地内に入り、開けはなたれたドアから「おはようございま~す!」と挨拶をした。


「はーい。誰だい?」


 家の中から女の人の声が返ってきた。


「ローザの娘でキャロルって言います」


 名字がないから誰々の娘って言うみたいよ。


「あー。ローザんところのかい。久しぶりだね」


 出て来たのはお母ちゃんくらいの人だった。あ、この人知ってる。たまにうちに来てた人だ。最近は来てないけど。

 

「おはようございます。お母ちゃんから納屋を壊すって聞いたんですが、薪に欲しいのでもらえますか?」


 背負子に縛った手斧とノコギリをおばちゃんに見せた。


「あんた一人でやるのかい?」


「はい。どこまでやっていいかによりますけど」


 さすがに一人ですべてを解体するのは無理だけど、五分の一はいけるんじゃないかな?


「まあ、好きに壊しちゃって構わないよ。冒険者に依頼しようか迷っていたからね。ただ、注意してやるんだよ。死ぬこともあるんだから」


「わかりました。注意してやります」


 この時代じゃ病院なんてないか。薬も高そうだしね。回復魔法とかあるのかしら?


「梯子は家の裏にあるから好きに使って構わないからね」


「はい。ありがとうございます」


 おばちゃんが家の中に戻り、わたしは古い納屋を観察する。


 中の物はすべて出されており、屋根に大きな穴が開いていた。


 柱を押してみると、意外としっかりしていた。自然崩壊するにはまだ時間が掛かりそうね。


「まずは板を剥がしますか」


 釘がある時代のようで、板は釘で固定されている。


「釘を集めたらナイフを作れるんじゃない?」


 まあ、集めても小さなナイフにしかならないだろうけど、ちょっとしたものを切るくらいのナイフならあってもいいわ。じいちゃんが残してくれたナイフは刃渡り二十センチはあるものだしね。


 ナイフで釘を抜いていき、外した板は横に積み重ねておく。


 どうも前世のわたしって地味な作業が得意なようで、休むことなく昼まで続けてしまい、お腹空いたことで我に返った。


「お弁当にするか」


 芋餅とニンニクをミロの実の油で炒めたものをパンに塗ったヤツだ。


 ミロの実の油は食用で、昔はマー油の元となっていたとか。ニンニクを炒めるとなかなか美味しいものになるそうだ。


 井戸を借り、手と顔を洗い、持ってきたコップに水を注いだ。


「この世界、麦茶ってあるのかな?」


 前世のおばあちゃんが体にいいって、市販のではなく、無農薬の大麦から作ってくれた麦茶。また飲みたいな~。


「お父ちゃんなら知っているかな?」


 石鹸があるなら麦茶があったって不思議じゃない。何気に知識チートが使えない世界だしね。いや、そこまで知識があるわけじゃないけどさ。


「なんだい、家から持ってきたのかい」


 お弁当を食べていたらおばちゃんがやってきた。


「はい。家に戻るのも大変だろうと思って作ってきました」


「へー。なんだい、これは?」


 芋餅を不思議そうに指差した。


「茹でた芋を潰して小麦粉を混ぜて丸めて油で焼いたものです。マー油を絡めると美味しいですよ。お母ちゃんが作ってくれました」


 何かに取り憑かれたように毎日たくさん作っている。お陰でうちはパン余り陥っているわ。


「へー。相変わらず料理が得意だよね、ライザは」


 お母ちゃん、料理が得意だったんだ。レパートリーは少なかったのに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る