第9話 油取り

 芋餅マー油かけは、お父ちゃんにも好評だった。


 あんちゃんにも食べさせてあげたかったけど、王都に行ってしまった。帰って来たら食べさせてあげましょう。


 いつものように水汲みを終えたらタワシのエサ探しに出かけた。


 湿った石の下にいるってことなので探していると、すぐにナクスを発見出来た。


 ナイフで削った箸てナクスをつかみ、納屋にあった欠けた壺に入れる。


「虫とは無縁だったのに、全然気持ち悪いと思わないな~」


 これはキャロルの性格かしら? さすがに素手で触るのは元のわたしが抵抗している。まだキャロルと元のわたしが合わさっていないのね。


「ナクス、多すぎ」


 三十分もしないて壺いっぱいになってしまった。


 タワシに持っていき地面にばら撒くと、待ってん! とばかりにパクパクと食べ始めた。


「虫が卵になるって考えると気持ちが萎えてくるものね」


 前世の記憶があることの弊害ね。まあ、キャロルの食欲が強いので食べるんだけど。


 エサやりが終われば油を搾る道具を掃除する。


 道具と言っても樽と蓋、油を受ける皿くらい。案外、単純なのね。


 灰で樽の中を洗い、カビや雑菌を洗い落とし、終われば太陽の光がよく当たるところに置いて水気を切る。抗菌処理って出来ないものかしらね? 


「魔法で出来ないものかしらね? 抗菌の魔法! とかね」


 まあ、それは冒険者ギルドに行ってからのお楽しみね。


 背負い籠を持ってミロの実を採りに向かった。


「結構落ちているわね」


 質のいい油が安く手に入るようになってから誰も採らなくなった。そのせいか、熟したミロの実がたくさん落ちている。


「この世界、どのくらい発展しているのかしらね?」


 漫画の中では油は高いものと書かれていたのに、搾るのを止めるくらい安くなるって、機械化でもされているのかしら? それなら砂糖も安く出回っているといいんだけどな~。


 まあ、お金のないわたしには自作するしかないし、時間はたくさんあるのだから楽しみながらやるとしましょうか。


 学校もなく、家の手伝いもない。近所に友達もいないのだから手間など惜しむ必要もない。逆にやることがあって充実しているわ。


 落ちていたミロの実を選別。いいものを水洗いし、日陰で水を切る。お金を稼げたら布を買わないとな。


 一晩置いたらヘタを取っていく。量は少ないのですぐに終わり、実を切って樽に入れていった。


「半分も満たないわね」


 また集めてくるのも大変だし、これでやるとしましょうか。


 蓋を入れ、そこに石を乗せていくと、樽の下に空いた穴から琥珀色の液体がじんわりと出てきた。


「変な臭い」


 不快な臭いじゃないけど、いい匂いってわけでもない。体を洗ったり衣服を洗ったりするくらいなら問題ないわね。


 慣れたとは言え、水だけでは臭いは落ちず、髪のベタつきは流れてくれない。フケも結構出る。元の世界レベルは求めないけど、そこそこの清潔感は持ちたいものだわ。


 一晩放置すると、受け皿ギリギリまで溜まっていた。ざっと二リットルってところかしら?


「布がないから濾せないのが残念だわ」


 カスを取り、上澄みだけを掬って別の木皿に移した。


 大まかな石鹸の作り方は動画で観たけど、異世界の油で石鹸が作れるかは謎でしかない。小さいものが沈殿するまでしばらく放置することにしましょうか。


「樽、洗わなくちゃね」


 キャロルが体力あってくれてよかった。これ、十歳の女の子がやる作業量じゃないわよ。


 片付けするだけで夕方までかかってしまい、空腹で目が回りそうだわ。


「あ、芋餅がいっぱいだね」


 一回も様子を見にこなかったのはこのせいだったのね。


「わたしも作ってみたんだよ。美味しかったからね」


 だからって作りすぎじゃない? 夕食では消費し切れない量だよ。今のわたしなら半分はイケそうな気がするけどね。


「そう言えば、砂糖ってある? 甘いヤツ?」


「よく砂糖なんて知ってたね」


「市場で聞いた」


 って言っておく。あそこなら聞いても不思議じゃないでしょうからね。


「まあ、あるにはあるけど、小瓶一つで銀貨五枚もするよ」


 さすがに砂糖は高かったか。まあ、あるのならよし。一から作るよりお金を稼いだほうが楽だわ。


「お、今日も芋餅か。こりゃいい!」


 お父ちゃんが畑から帰ってきて、食卓に積まれた芋餅に喜んでいた。すっかり芋餅に魅了されたみたいね。


「マー油を作りたいんだけど、構わないかい?」


「おー構わん構わん。こんな美味いものが食えるなら多少の出費くらいなんでもないさ。明日の昼に包んでくれ」


 お金の管理はお父ちゃんがやっているんだ。うち、かかあ天下じゃないんだね。


「マー油って作るのにお金がかかるの?」


「まーね。貴重な材料を使うから金がかかるんだよ」


 簡単に作れるものじゃないんだ。それなら味噌、作っちゃおうかな? 大まかな作り方はおばあちゃんが教えてくれたし。


「そういえば、キャロは油を作っているのか?」


「うん。石鹸を作ろうと思って」


「石鹸? お前、作り方なんて知ってんのか?」


「簡単にだけどね。昔、誰かから聞いた」


 家族以外の人とも会っている。力業で納得させておこう。


「まあ、最近、石鹸も安くなったみたいだしな。作り方が広まってんだろう」


 ありゃ、石鹸まであるんかい。知識チート出来ないじゃん。まあ、わたしツエェーをやりたいわけじゃない。わたしは普通の異世界転生をさせてもらうわ。

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