第45話 須藤の話
夕方六時頃、寝ようとした直前に、健二郎からの返信があった。
健二郎は教室では僕といる時間が長いが、それ以外の時間は部活の延長でバスケ部の連中といることが多い。遊びに行くことはそんなにないが、バスケ部は陸上部と違って練習量が多く、午前と午後の二部練を毎週五回はやっているという。それには当然マネージャーである須藤も含まれていて、一緒にいる時間は自然と長くなる。須藤に関しては正直、わかりやすい性格だということ以外わからない。今のところ、僕に対しては泣き方以外大体予想通りの反応と行動をしてくれている。それが退屈ということはなく、俗に言う中学生らしいという言葉に落ち着くような気がしている。しかし、ドラマで見るような中学生でいること、もしくは演じられることは普通じゃない。「中学生らしい」ということがなんなのか、中学生の僕にだってわからない。ただ、ませているというか、須藤には常に彼氏がいると言う印象が拭えない。
「ごめん、ちょっと大変なことがあって」
その日のうちに返信したことに対して、ごめんと言ってくる友達は、健二郎ぐらいだ。でも、気になる。何があったんだろうか。本当に大変なら時間を問わず電話してきて欲しいのだけれど。
僕は心配になって電話をかけた。
(コール音♪)
あれ、三コールぐらいで切られてしまった。これはどっちだろう。危ない状況ならもっと助けてとか緊急時だとわかりやすい表現なはずだが、多少文字を打つ余裕はありつつも電話には出られないという感じだろうか。例えば、電車にいるとか、電波が悪いところにいるとか、誰かと一緒にいて、電話で話せる状況じゃないとか。とりあえずメールで返そう。
「どうした?大丈夫か?」
メールでの返信は早かった。
「大丈夫。ちょっと大変で」
さっきと少しも変わっていない。しかし、健二郎が大変だと言う時は、本当に大変だっただろうかと僕は思い返す。決して健二郎が大げさだとか、話に尾鰭をつけるような性格ではない。しかし、少々臆病というか、心配性なところがあるので、健二郎の話は一割引きで聞くことが多い。その上で、今回の「大変」は心配する気になれない気配がある。こればっかりは二人の関係性なのだが、僕の勘が健二郎は今、女子を相手にしていると言っている。バスケ部にはマネージャーが須藤の他にもう一人いたと思うが、最近の接点から考えて、須藤と何かあったに違いない。良い報告を期待しよう。このことに関して、木村は情報をつかんでいるだろうか。この目で見てもいないものを議論の対象にあげるのは全く僕らしくないのだが、他の情報機関がどれだけ情報をつかんでいるのかということは多少気になる。
そう言えば、あの事件の後、須藤はどうしていただろうか。健二郎に任せ切っていたので、大丈夫だとは思いつつも、その先の生活に支障が出ていないかどうか気になるし、僕がこの間木村にお願いしたように、林田姉妹と今後も仲良くして欲しいという思いが須藤にも伝わっているのかどうかは、少し疑問である。
健二郎の現状には触れず、僕の今抱えている不安を「時間があるときに読んで欲しい」という前置きをした上で、長めの文章にして健二郎に送った。
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