第二章 天才と自動人形
第40話 天才と嵐のあと
僕はあの日、全てが終わってからもしばらく安静で、休み明けの部活も休まざるを得なかった。
だから今、少しずつ、あの日のことを思い返している。
「ハッシー、先生のことはいいの?」
健二郎が帰り際に聞いてきた。
「いいよ。それは大人の問題だ。俺にはお前らがいればいい。そういう結末があってもいいと思うんだ」と言っておいた。
「なんだよ。すっかり大人になっちゃって。僕なんてうまく利用されちゃっただけだよ。」
「すねるなよ。健二郎がチェンジリングのことに気づいてくれなかったら俺だって、林田家だってどうしようもなかったよ」
「本当かなー。なんかうまく言いくるめられた気がするんだよなー」
「気にすんなよ。あ、ちゃんと須藤にメールしとけよ」
「なんでそうなるんだよ!」
あの日はそう言って別れた。
あれ以来、健二郎が少し卑屈になった。怒らせてしまっただろうか?僕もほんの数日前まであれぐらいひねくれてただろうし、大人になる前にはその期間が必要なんだろう。
そのあと携帯を見ると、木村から知らない間に大量のメールと着信があった。理科室裏に待機している時からサイレントモードだったから仕方がない。全部のメールを開いても返信しきれないので、後日会って話す約束をした。
台風が去って以来、茹だるような暑さが続くと天気予報で言っていた。嫌だけど、夏休みはそれぐらいでも仕方ないと思う。部活が再開してもしばらく林田の姿は見ていない。親とは色々あったのかもしれないが、それは林田家の問題であって、僕が入る余地はない。しかし、家にミクを泊めてあげていたのだから、少しぐらい連絡をくれても良いと思う。きっと母さんにはなにかしらの連絡があったんだろう。母さんもあれからパートが大変そうだ。うちはそんなにお金に困っているんだろうか。父さんはちゃんと働いているのだろうか。他人の家庭をのぞきみると、どうしても自分の家との違いを比べてしまう。あの日、健二郎のお父さんがインターネットで調べ物をしてプリンターで印刷までしてくれたことは本当にありがたいと思ったが、正直、うちにそれがあったら健二郎を家に帰してまで調べてもらうことはなかったのにと思う。もちろん自分の家に不満があるわけではないのだけれど。
相変わらず、兄ちゃんは家にいないことが多い、夏休みともなれば普段と違って稼ぎ時ということなんだろう。そもそも、兄ちゃんの高校はアルバイト禁止らしいから、バレない内にできるだけバイトをしたいんだと思う。なんか欲しいものでもあるんだろうか。そういえば、いつになったらワンピース全巻買ってきてくれるんだろう。でも、今買ってこられると宿題が終わらないかもしれない。今はアニメで我慢しよう。
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