第38話 天才と答え合わせ2
「それでも、二人で学校とか警察に相談すれば良かっただろう?」
「だから、くにおちゃんに相談したんだよ。そしたら、少しの間、落ち着くまで学校で保護してあげるって。親御さんのことも一緒になんとかしようって」
学校はちゃんと腐っていた。大方、新学期からいきなりのトラブルを回避したかったんだろう。ヒーロー気取りめ。まるで映画じゃないか。そんな生意気なことを思ったが、兄ちゃんから映画の内容を聞くまでは、僕もこんな風には思わなかったと思う。皮肉な話だが、大人が腐っているという前提がなかったら、僕の推理は成立しなかった。
「それから毎日、今日は大丈夫かなって帰ったら、ママが普通になったり、大丈夫な日もあって、でも、いきなり暴れ出したりして。パパがいる時は大丈夫だったから警察も違うなって」
これはみんな思ってたより、重症だ。かわいそうだとは思うが全くもって同情できない。僕は冷たい人間なんだろうか。
「それで、なんで林田は、ミサは縛られてたわけ?」
「なんか、自分でもわかんなくなってきちゃったんだよね。みんなうちのことをミサって呼ぶじゃん?そのうち、うちはミサなのかミクなのかわかんなくなって、しんどくなって。うちがミサになればいいんだって。じゃあ、お姉ちゃんがいなくなればいいんじゃないかって」
ミクは大粒の涙を流しながら、僕たちに自分でもよく分かっていないものを伝えようとしている。
兄ちゃんも言ってた。犯罪者の気持ちはわからないって。たぶん僕もそっち側だ。だから、こういう時なんて言っていいのかわからない。とりあえず凶器になりそうなものは近くになさそうだ。
「なんていうか、私もちょっと楽しんでたんだよ。学校に泊まったり、誰にもバレないように隠れたりさ。一箇所にいるとバレちゃうから、色んな準備室をまわってね、図書室の時は焦ったよ」
ミサが無理に明るく話している。こんなにスラスラしゃべる林田を見るのは小学校以来だ。最悪の場合殺されていたかもしれないのに、なんて健気なんだろう。申し訳ないけど、僕は兄ちゃんが僕のことを殺そうとしてきたら絶対に許さないと思う。
「あ、あの時林田さん、中にいたんだ!」
健二郎が以前のような無邪気さで聞く。たくましいモードは終わったらしい。心なしかバカっぽい顔になっている。
「ううん、あの時中にいたのはミク。私は放課後だから、ミクと勉強しようと思って図書室に行ったんだけど、たまたま二人がドアの前に行ったからヤバいと思ってダッシュで先生に言いに行って」
「なんだよー、あの後、ヨネピーにすごく怒られたんだよー?」
「うん、ごめん」
やっぱりそうだったのか。まあ外から見えないぐらいに隠れることはできたか。だったら鍵を閉めてバレないようにしておけば僕だって怪しむことはなかったんだけど。
「もしかして、中から俺らのこと見てたの?ミク?」
姉妹が同じタイミングでビクッとした。やっぱり双子だ。僕はこの際だから、健二郎を見習って無邪気に疑問をぶつけてみることにした。
「そもそもいくら家に帰りづらいからって、学校でずっと隠れてる意味なくないか?」
これが一番の疑問だった。家に帰らないことでお母さんに精神的なダメージを与えることはできても、問題は何も解決してないのに、なぜ隠れ続けているのか、さっぱりわからない。
「だって!橋本くんのこと、好きになっちゃったんだもん!」
え?
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