第37話 天才と答え合わせ
「だって、好きなんだもん」
いきなり口を開いたのはミクだった。
「ちょっと、ミク、」
それをミサが間髪入れずさえぎったが、無視してミクが続ける。
「うちらはずっとイヤだったの、ほとんど同時に生まれて、姉妹よりも強い絆で結ばれた双子なのに、学年を分けられて。お金がなかったからって、パパとママが学年を分けたのよ。そんなことある?」
それはお金というより、手続的に仕方ないことのように思うが、本人たちからすれば納得できないだろう。たった数分、数秒出てきた時間が違うだけでそんなことになるなんて。
「それだけじゃない。わかりやすいようにうちにメガネまで掛けさせて。うちが年下ってことにして。最初は別に良かったんだよ。そういうもんだって思って。で、でも、何で学年が違うんだろうって思うことがあって」
今にも泣き出しそうなミクの頭をミサが抱えて話し始めた。
「ミク、私から言うわ。それで、つい出来心で、入学式の日に二人でいたずらしようって思ったの。一人だけ帰ってきたら、ママどういう反応するかなーって。でも、ミクがメガネを外して帰ったら、私と間違われたって」
「だから、やっぱり、うちは必要とされてないんだなーって。しかもお前は取り替え子だとか、早く出ていけとか言われて。なんかどうでも良くなって、家出したの」
何も言われなければ、目まぐるしく交代されるので、どちらが話しているかわからなくなる。たぶん無意識かもしれないが、自分ことを「うち」というのはミクだろう。いつからか知らないが、木村と須藤のがうつったに違いない。
「その後なんで、すぐに二人で帰らなかったんだよ」
僕は当然の疑問をぶつける。
「だって、お姉ちゃんが家で殴られるようになったっていうから」
確かに、最初はとっさにミサとミクを間違えたのかもしれないけど、言われた方も、間違えた方も相当ショックだっただろうと思う。その後、精神を病んでしまって虐待をするようになったということか。お前は取り替え子だって言われて、そこからヒントを得たというわけだ。
「なんで林田のお母さんが本気でチェンジリングなんてものを信じたのか、俺にはわからないけど、その虐待は本当に二人に帰ってきて欲しかったからだって気づかなかったのか?」
「は?何で帰ってきて欲しいのに殴ったりするわけ?」
「いや、それが偽物の判別法というか、二人を取り戻す方法だと思ったからだろう」
「もう、意味わかんない」
確かに難しい。今回の場合は帰ってきた片方も本物だったというところが事態をややこしくしたらしい。同時に二人取り替えられるパターンというのは想像できなかったということか。そもそもファンタジーなんだから落ち着いて考えれば、こんなことにならなかっただろうに、きっと冷静でいられなかったのだろう。
なんだか、いつもより頭が冴えている気がする。
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